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アロットロールゲイン  作者: 池金啓太
最終話「其の獣が宿すものは」

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「ヘリを直接狙ってくるってのはだいぶ向こうも必死だな」


「範囲攻撃でいぶり出すか?ヘリのせいで俺たちのいるこの空間は転移しやすい。ヘリ一体に攻撃をまき散らせば、近づくことはできないだろ」


 転移能力を阻害するための粉末をあたりにまき散らしても、ヘリの周辺はその風圧のせいで粉末は存在できていない。


 そのためこのヘリに対しては転移能力者はむしろ転移しやすい環境になってしまっているのだ。


 ヘリに近づかれ、能力を使ってかき回されれば状況をひっくり返されかねない。


 この状況下では転移能力者を阻害する何かもう一手が欲しいところだった。


 既に相手はかなり負傷している。このまま相手が消耗するのを待つのも手ではあるが、相手が消耗しきる前に逃げてしまえばそれまでだ。


 ブルームライダーを確保した今、転移能力だけで移動する人間を捕捉するのは極めて困難になってしまう。


「転移能力者は、私の方で対処します。皆さんは他の場所への牽制をお願いします」


 この状況下で知与が告げるが、周りの面々は少しだけ迷っていた。


 確かに現段階であの転移能力者に攻撃を当てられているのは知与だけだ。どういう反応速度をしているのか不明だが、他の面々では攻撃を当てるどころか狙いを定めることすらできていないのが現状である。


「けど、よ……さすがにあれは……」


「大丈夫です。少なくとも、残りの能力者を連れて逃走……なんてことは絶対にさせません。あの能力者単体で逃げるとなると、さすがに止められませんが」


 既に捕縛が完了しているブルームライダー、そして離れた戦線で戦闘を行っている前衛二人、そしてラビットシリーズや瞳の人形、ミーティア隊の狙撃によって身動きを取れなくさせている変換と雷撃の能力者。


 転移能力者が自分だけで逃げるのであれば、さすがの知与も止められないが、常に誰かしらの攻撃にさらされている他の能力者を連れて逃げようとするのであれば、既に狙いを定めている。


 その近くに現れたのであればすぐにでも狙撃できるだけの準備を知与は整えていた。


 なにより、知与は既にあの能力者の転移を学習しつつあった。


「……なら任せる。俺たちはあの変換と雷撃を中心に攻撃するぞ」


「いいんですか?あいつ逃すと厄介ですよ?」


「どちらにせよ俺達じゃ、この辺りを焼け野原に変えるくらいしないと攻撃を当てられない。さすがにそこまでやると、ちょっと問題になるだろうからな」


 いくらある程度派手にやっていいと言われていたとしても、この自然豊かな環境を焦土に変えるというのは気が引ける。


 あの転移能力者を逃がすと厄介なのは理解しているが、それでも限度というものがある。


 そんな中、知与が一瞬だけ意識を転移能力者から外して周介の方に向けていた銃を操作する。


「当てます」


 端的に、ただ事実だけを述べるように告げられた一言の後に放たれた一射。多くの人間はその行動の意味を理解できなかっただろう。


 その弾丸が向かった先にはドットノッカーがいる。あの時当てることができなかったが、常に監視をしていた知与は周介たちの状況を把握している。周りの人間が全くわからない状況を正確にわかっていた。


 次の瞬間、轟音が響きわたる。


「なんだ!?」


「おい、あそこ!」


 ミーティア隊のメンバーがヘリの外、周介達がいる方向に大きな土煙が上がっているのが見えた。


 何かの攻撃だろうか。あるいは新手の能力者でも現れたのだろうか。よくよく確認すると、地面に何故か大きめの飛行機がいくつか墜落しているのだ。


 あれは周介が操作している飛行機だったと、何人かは記憶していた。


「なんで飛行機が?ラビット01が操作をミスったとかか?」


「おい、ラビット隊で状況わかってたりしないか?」


「あれは隊長が落とした飛行機です。あれでドットノッカーを攻撃したみたいですね」


 飛行機を墜落させて相手を攻撃する。


 なんて無茶苦茶をやるのだと、ミーティア隊の面々は渋い顔をしていた。


 今までいろいろな手段で攻撃をしてきたが、そこまでの攻撃をしたことはない。


 いったいいくらするかもわからない飛行機を攻撃手段に使うなど常軌を逸している。


 この状況の変化の中で冷静でいられている者は少ない。特に攻撃を受けている側からすれば先ほどの轟音が一体何なのかわからずかなり慌てている様子が見て取れる。


「すごいな、何やらかすかわからないようなタイプだとは思ってたけど、まさかあんなことまでやらかすとは」


「製作班の人間に怒られないのか?いや、付き合い長いなら大丈夫なのか?」


『一応製作班の人間は阿鼻叫喚としてる。ただ、予め許可は取ってたみたい』


 フシグロの解説にその場の人間は納得する。最初からやると決めて行動していたのだろうと。


 予めあれを使うことを想定して行動していたのなら事前に一言くらい言ってほしかったなと思わなくもない。


 ただ、周介としてもあれは使いたい手段ではなかったのだろう。


 その辺りは仕方がないとして、射場率いるミーティア隊は攻撃相手を再確認することにしていた。


「相手が崩れてる今がチャンスだ。畳みかけるぞ!」


「了解!」


 相手が動揺している時にこそ攻撃をするチャンスだ。早く敵を殲滅するためにも、攻撃の手を緩めることはできない。


 アイヴィー隊も同様に動き始めている。ならばこれを逃す手はないとミーティア隊も気合を入れていた。


 そんな状況が混乱する中でも転移能力者は可能な限り冷静であろうと心掛けていた。


 もはやこの状況では前衛側の人間は助からないだろうと、そう考えていた。上空から偶然見えた飛行機が墜落する光景。あのあたりにはドットノッカーが戦っていた。


 転移能力者からすれば、大恩のある人物だ。可能な限り助けたいという考えがある。


 だが、あの戦闘の中に割って入って転移して一緒に逃げるようなことができるだけの技術は彼にはなかった。


 ではどうすればいいか。やはり残っている変換と雷撃の能力者を連れて離脱するべきだ。


 すでに大勢は決している。ブルームライダーを押さえられた時点で、機動力は失った。


 この転移能力者が一度に移動できる人間にも限界がある。多くても四人までだ。それ以上同時に転移すると移動距離は著しく低下する。


 高い機動力を持っている相手に逃げるなら、一度に確保できる移動距離は長くとっておきたい。

 となれば、まだ無事であるあの二人だ。


 問題はその二人へ攻撃が降り注ぎ続けているという点である。その攻撃はあのヘリから降り注いでいた。


 であれば、あのヘリの中にいる能力者を数人別の場所に転移させられれば、この状況を変えられる。


 勝つことはできずとも、逃げることは可能だろうと、そう考えていた。


 その考えはおよそ正しい。この状況を作り出すことができているのは高高度からの長距離狙撃があってこそだ。ヘリへの妨害工作は瞳や手越の作り出す包囲網を妨害することにもつながる。


 転移能力者のこの考えは非常に的を射ていると言っていいだろう。


 周辺に作り出された濃霧のようにも煙幕のようにも見える粉塵のせいで、転移の能力が非常に発動しにくくなってしまっているが、まだ転移できないわけではない。負傷もしており長く行動するのは難しいだろうが、せめて距離をとって身を隠すことくらいはしないとこのままではじり貧だ。


 先程侵入した時には、小柄な狙撃手らしき能力者に切り付けられたが、次はもっとうまくやってみせると意気込んで転移を開始する。


 ヘリの高さまで転移するには、空中を何度か経由しなければいけない。周りに転移阻害用の粉塵がなければ、その数をかなり減らすこともできるのだが、この状況では数回転移を繰り返さなければヘリに到達することはできなかった。


 あの狙撃を行ってきた能力者の死角から何とか近づこうと、転移を発動する。


 周りの粉塵のせいで、狙ったところに上手く転移することができない。感覚的に能力を発動することが多い能力者だが、無意識のうちに細かい計算や処理を行っているため、余計な情報が増えれば当然能力の発動には多くの処理を要する。そのせいで距離や発動時間に影響を受けているのだ。


 なんと面倒なことだと、いつものように死角から、ばれないように転移を発動する。


 普通ならばれることはない。索敵の能力によって転移していることは把握されていても、即座に攻撃されることや照準を合わせることなどは不可能だ。


 普通なら。


 何度目かの転移を発動し、ヘリにさらに近づいた瞬間、その足に衝撃が走る。


 唐突に起きた異常に混乱しながらも、崩れた態勢を何とか整えようと足掻き、一体何が起きたのかと自分の足を確認する。


 その足からは血が流れ出ている。衣服の一部には穴が開き、銃か何かで撃たれたということを自覚した瞬間、激痛が足から脳へと伝わっていた。


 何が来たのか。流れ弾に当たったのか。だとしたらなんと運が悪いのだろうかと転移能力者は自分の不運を呪いながら再び転移の能力を発動し、いったんヘリから離れようとする。


 転移先の空間に現れた瞬間、今度は肩に衝撃が走る。


 今度は僅かに掠る程度だったが、なんと運が悪いのだろう。二回連続で流れ弾に当たるなどということがあるのだろうか。


 だが、二回も連続で流れ弾に当たるなどということがあり得るだろうかと考えて、転移能力者は冷静に状況を判断しようとしてた。


 空間に唐突に現れる人間に偶然弾丸が当たる確率はいったいどれほどのものだろうか。


 この辺り一帯が弾丸で埋め尽くされているというのであれば話は別だ。だがそんなことはない。


 この戦闘が入り乱れる空間で、転移した瞬間に弾丸がその体の部分を通過する確率など天文学的な数字だろう。


 それが、意図的なものでもない限りは。


 まさか、そんな馬鹿なと転移能力者はヘリの方を見上げる。遠くて見えないが、そのヘリからは、ベルトでヘリと自分の体を繋いだ状態で機体から身を乗り出して狙撃銃を構えている知与の姿がある。


 ヘリの死角、真下だろうと撃ち抜けるように知与は態勢を変えて対応しようとしていた。


 そう、先ほどの二発の弾丸、打ち込んだのは知与だった。


 転移能力者の考えは間違っていない。ヘリの武装の関係上、直下は死角になるし、転移能力で近づいてヘリの内部にいる人間を転移させれば状況を崩せる。


 今の状況と、あの転移能力者のできることから考えれば、恐らく最適の行動だ。彼の状況判断は決して間違っていない。


 ただ、一つだけミスをした。


 それは、知与相手に自分の能力を見せすぎたことだった。


 知与は筋繊維の動きさえも読み取る索敵能力者だ。そして葛城校長をして天才であると言わしめるほどの才覚を持ち合わせている。


 そんな能力者を相手に、彼は転移能力を何度も見せてしまった。


 転移能力発動時に僅かに発生する空間の揺らぎ。知与は何度も転移能力を確認したことで、その揺らぎさえも感知できるようになっていた。


 転移の能力によって発生する空間の揺らぎを感知し、その場所目掛けて弾丸を放つ。何とシンプルで、知与以外にはできない芸当だろう。


 知与の弾丸は外れない。彼女自身がその自負心を抱き、絶対に当ててみせると確信するが故に。


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― 新着の感想 ―
[一言] 読み直してて思うけど一番怖いの知与ちゃんよな。 当てますの頼もしさが敵からしたら恐ろしすぎる。 当てます=当たったの頼もしいと共に勘弁してくれってなる
[一言] 近付いたら斬られ、離れたら狙撃。知与13に隙はない。こわ
[一言] 正面からのヤバさだと先輩や校長に軍配上がるけどそれ以外だとやべーの知世ちゃんだよな…これはお嬢呼び定着する
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