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アロットロールゲイン  作者: 池金啓太
最終話「其の獣が宿すものは」

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「目標進行中。現地部隊が接触するまで、あとおよそ三十分です」


 指令室にドクと大隊長がやってきたタイミングで、情報を精査していたメイト隊の人間が簡潔に状況を伝えてくれる。


 この辺りはさすがというほかない。フシグロがいなかった頃から現場で活動する人間を支えてきたのだ。


 情報共有の的確さは類を見ない。そういう意味ではフシグロよりも適任かもしれない。何せフシグロは全部説明しようとするのだ。その辺りの加減というか、要約が苦手な部分が露骨に出てきてしまっているというべきか。


「あと三十分か。ちょうどいい時に来られたかな?みんなの様子はどう?」


「全員落ち着いているようです。いつでも戦闘を行えるような状態にあると思われます」


「そうそれはなにより。周介君の状態は?」


「現状暴走などの兆候はありません。非常に安定した状態と言えます」


 ドクが最も危険視しているのは周介の暴走だ。いくら正常に近い状態に戻ったとはいえ周介の体には鬼怒川や葛城校長の数十倍の大きさの魔石がついているのだ。


 能力の強化具合で言えば射程距離を数百倍に拡大する程度の能力強化が得られていても不思議はない。


 今のところ暴走の兆候はないとはいえ、それでもいつ暴走するかわからないのが恐ろしいところである。


「敵の状態は?ドローンの存在には気付いているかな?」


「距離をとっているとはいえ気付かれていても不思議はありません。ですが特に気にした様子もなく進み続けています」


「ドローン程度なら脅威にはならないだろうからね。そういう意味じゃいてもいなくても同じってことかな?どちらにせよ、あともう少しで接触する……ロシアの動きは?情報は共有しているのかい?」


「能力者の動きに関してはこちらが得た情報は各姉妹組織にすべて伝達しているようです。いえ……それどころか各国の情報部にもこの情報を流してますね……」


 情報を流しているのは当然フシグロなのだが、やるときは徹底した情報共有を行うのは生前から変わらない。


 やりすぎているような感もあるために止めるべきか迷うところではあるが、今はこの情報共有はありがたいと思うべきだろう。


「各国の反応としてはどんな感じだい?」


「おおよその反応になりますが……ロシアの対応が鈍いことに対して猜疑心を抱いているようです。具体的には、何故即座に迎撃をしないのか。迎撃網を構築していないのかなどですね」


「ロシアの東部になかなか無茶を言うね。行政もどこまで構築されてるか分かったものじゃないってのに……少なくとも機械がまともに使えない状況じゃそんなのは無理だろうに」


「逆にこの情報が流れたことで、ロシア側としては大きな痛手ですね。ドローンで得た地形情報、ロシア国内の被害状況、能力者の現在位置まですべての情報が流されているので……」


 情報共有の仕方が下手というか、要約するということをそもそもする気がない。


 得た情報はすべて共有するため、場合によっては質が悪すぎる。


 虱潰しに調べ上げて、要約が面倒だからって得た情報を全て垂れ流すなどある種の災害のそれに近い。


 隠しておきたかったことも何もかもすべて赤裸々にされるなど、個人ならばともかく国家規模でやられるというのは一種のテロだ。


「……フシグロ、情報共有が重要だというのはわかるが、もう少し手心を加えてやれ。さすがにやりすぎだ」


『お断りします。ロシアのやり口はちょっと気にいらないので』


 フシグロもしっかりこの会話は聞いていたのだろう。何が気に入らないのかは不明だが、少なくとも国内の情報をここまで露骨に公表されてロシア政府としても黙っていられないだろう。


「あまり国外との軋轢を生みたくはない。もう少し関係性を考えろ」


『ご心配なく。私達が公表したという証拠は残していません。不思議と各情報機関に情報がアップロードされるようになってます。痕跡は一つも残していないので私がやったとばれることはありませんよ』


「やり方がえげつないなぁ。けど君しかそんなことできないんだから、いずればれるんじゃない?」


『私の存在を知っている人がいれば気付くかもしれませんね。けど今までも痕跡を残してこなかったので、組織の人間かどうかもばれてないはずですよ。生身で私を知ってる人がばらせば別ですが』


 つまり関東拠点や日本の組織の人間が意図的にばらさない限りはこの情報を扱っているのがフシグロだということはわからないのだろう。


 さりげなく巻き込んでくるあたり本当にえげつない。


 ばらせばそれこそ今まで起きてきた情報の引き抜きまですべて糾弾されかねないのだ。


 やりすぎてきた全ての行動が明るみに出る可能性だってある。ロシアとの関係性が悪くなるどころではない。世界中からバッシングを受ける可能性がある。


 何と嫌な保身の仕方だろうかと、ドクは苦笑するほかなかった。


「ロシアのリアクションは……聞くまでもないかな……?」


『阿鼻叫喚ですね。知ったことじゃないですけど』


 どうやらフシグロ的に今回のロシアのやり口は相当気に入らなかったらしく、かなり強めの仕返しのつもりのようだった。


 こいつだけは絶対に敵に回したくないなと、その場にいた全員が同じ感想を抱いていた。



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