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アロットロールゲイン  作者: 池金啓太
最終話「其の獣が宿すものは」

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 ロシアの大地から太陽が昇るころ、周介達は全員で集まって戦闘準備を整えていた。


 全員が完全武装。戦闘用の装備の最終確認をしながらそれらを乗る予定のヘリなどに乗せていた。


「全員聞いて!フシグロさんが相手の位置を確認。と言っても煙が上がっている程度だから確定とは言えない。ただその可能性が高いため出撃する!準備はいい!?」


 全員の準備が整ったあたりで笹江の声が響く。いつでもどうぞと言わんばかりの返事が各所から聞こえてくる。


 既にいつでも戦闘ができるだけの状況を整えている全員がそれぞれヘリや航空機に乗り込んでいく中、周介も最後の操作を行っていた。


「フシグロ、相手の位置地図上に表示してくれ」


『了解。ここ』


 周介が持っているタブレットに表示された場所はフシグロの予測していた進行ルートから若干外れていたものの、ほぼ予測通りの位置となっていた。


 予測よりも若干遅いペースでの移動なのだろう。位置的にはここから移動するのはそこまで苦ではない。


 予想していた通り川沿いを移動しているようだ。その川の近くで野営でもしているのだろう。その煙をドローンのカメラが捉えたらしい。


「ここからだと、追いかける形になるか?」


『相手が動き出してるかどうかはわからないから何とも言えないけど、間違いなく。ここからの移動は早めにした方がいいかも。目標までの到着時間は……ここからなら一時間ちょっとくらいかかると思う。ただ、相手が移動を始めた場合はその限りじゃない』


「煙が上がってるってことは火を使ってるってことだよな?なら活動は始めてるはずだ。俺たちが移動を始めたあたりで飛行を始めるかもな」


『可能性は高い。飛行が確認出来たらまた報告する』


「了解。可能な限り急ごう。皆さん乗りましたか?そろそろ出撃します」


 ヘリや飛行機が動き出す中、それぞれのチームが航空機に乗り込んでいく。


 全員に現在位置と思われる地形データを共有し、拠点にいるドクたちに報告を始めていた。


「拠点へ。こちら現地よりラビット01。目標らしきものを確認したためこれより出撃します。情報共有は随時行いますが、よろしいですか?」


 周介が告げた後、少しの沈黙の後、その無線の向こう側からは聞き慣れた声が聞こえてくる。


『こちら拠点よりメイト11。出撃承知いたしました。どうかお気をつけて』


 よくラビット隊の活動を支援してくれていたメイト11の声に周介は少しだけ安堵する。


「ドクはまだ寝てますか?」


『いえ、席を外しているだけです。後ほど報告をしておきますね』


「よろしくお願いします。それでは」


 通信を切った後、今度は各員への無線へと切り替える。


「それでは出撃します。移動時間は一時間程度を想定。各機体に不具合があればその都度報告してください」


 周介は機体の調整をしながら離陸の準備を進めていく。全員が搭乗し、離陸のため各機の椅子に座ったことを確認するとすぐさま離陸のために各機関を稼働させていった。


「それでは離陸します。しばらく揺れますので捕まっていてください」


 周介の合図とともに飛行機は加速を始め、ヘリは直上へ飛び上がっていく。


 ヘリの飛行速度に合わせる為に飛行機の群れはやや速度を落としているものの、それぞれ問題なく目標に向けて移動を始めていた。


 ロシアの大地が次々と通り過ぎていく中、フシグロが全員に警告を発し始める。


『目標、移動を開始。あの煙はやっぱり敵のものだったみたいね。ブルームライダーを始め他の能力者たちも確認できたわ。映像共有するから全員確認して』


 件の煙を監視していたドローンが相手の姿を確認したのだろう。全員が見えるように情報を共有してくる。


 その映像には箒に乗っている人間が何人か映っていた。六人の人物と、箒に何かを括りつけて運んでいるように見える。


「フシグロ、そのまま追跡は可能か?」


『問題ないわ。位置情報は常に報告する。相手に落とされないように少し距離は空けておかないといけないから、細かいところの確認は難しいけど』


「十分。少なくとも箒で移動してるやつがいるって時点で確定だ。接触するまでどれくらいかかる?」


『今の速度なら追加三十分くらいで接触できる。予測よりも連中の移動速度が遅い。ドローンでも十分に追尾可能なレベル』


「オーケー。想定される基地までの距離は?」


『まだ余裕がある。接触予想位置からも百キロ以上離れてる。問題はない』


 百キロ近く離れているのであれば万が一にも戦闘の余波はないだろうと、周介は安堵する。


 ここからの戦闘は時間よりも相手を如何に封殺するかが重要になってくる。


 周介は少しだけ逸る気持ちを押さえながら航空機群を操り続けていた。


「兄貴、もう少し速度上げますか?」


「ヘリの方がちょっと不安だな。少しだけ速度上げて様子を見る。それができるようであれば少しずつ速度を上げるぞ。接触時間を限りなく縮める」


「了解っす」


 周介の視線はタブレットに映し出されている六人の人物に向けられ続けていた。


 止めて見せる。絶対に。


 その考えだけが周介の中に強く残っていた。


 ブルームライダーをはじめとする能力者たちが動き出してその情報を得てから、周介達だけではなく、拠点にいる面々も一斉に活動を開始していた。


 能力者として現地に向かうことはできないが、現地で活動する周介たちを支援するために拠点で活動することはできる。


 特に製作班のメンバーはほぼフル稼働と言ってもいいほどに周介たちの追加の装備の修繕や追加のドローンなどを作成することに精を出していた。


 そして周介がいない間の拠点での発電を担うために発現系統の能力者たちも何人もが協力して発電を続けていた。


「さぁここからが正念場だよ。可能な限り装備を周介君のところに届けられるようにしないとね。β、γの準備はどうだい!?」


「追加装備の開発は完了してるよ!いつでも出撃できる!ただ強度的に持つかは保証できないぞ!」


「大丈夫!周介君がそのあたりは何とかするから!換装用の武器の類は大丈夫かい?今回は総力戦だからね、半端ないよ?」


「けど風見、こんなに用意して使い切ることなんてあるのか?いくら百枝君が壊し癖があるからって、ここまで用意しなくたって……」


 壊し癖。ドクに意趣返しするために毎回装備を半壊させたりしているせいで製作班の人間からは周介には物を壊す癖があると思われてしまっている。


 実際はギリギリを攻めているだけで壊したくて壊しているわけではないのだ。


 本人がこれを聞いたらきっと強く否定することだろう。


「いいや、今回はやばいよ。今回無事に戻ってくるのは輸送機くらいだと思ってるからね僕は。何せ周介君が本気なんだもん」


 ドクは周介の危険性を誰よりも理解していた。それは周介の性格だとか好みだとかそういう話ではない。

 周介の能力の話だ。


 周介の能力は回転させられる機構を持った部品であればどのようなものにでも作用できる。


 そんな能力を持っていて、周介は機械を壊すということを可能な限り避けてきた。


 ただ周介が壊すと明言した時、大体その通りになったのだ。壊そうと思えばいくらでも壊すことができる。そんな能力を持っているのが周介だ。


 ドクは十分に周介の能力を、そして能力の操作技術を高く評価しているつもりだった。


 だが足りなかったのだ。それをドクは今回の機械の暴走で思い知った。


 その気になれば世界中の機械を破壊できる。それだけの力を周介は保有しているのだ。


 そんな周介が、壊す前提で装備を持っていった。となればもう確定的だ。もうあの装備は全て壊れて帰ってくる。


 それはもう覆らない。だからこそ万が一の為に取り換えができるように換装用装備の準備を進めているのだ。


 特にドクたちが力を入れているのはラビットシリーズの装備だ。今まで作ってきた装備を全てのラビットシリーズで運用できるように改造しているものもある。


 中には追加装備というにはあまりにも大きなものも存在している。


 それすらも周介は壊すだろうと、ドクは考えていた。


「風見!ここにいたか!現地で目標が確認された!指揮に戻れ!」


 工房に入り浸っていたドクを探しに来たのは大隊長だった。他の面々は各々の仕事が忙しく手が回らないからか、あるいはドクを叱れるのが大隊長しかいなかったからか。どちらにせよ随分と大げさに呼び出しをしてくれるものだとドクはため息を吐く。


「もう見つけたんですね。さすがフシグロ君、仕事が早い」


「感心している場合か。現場の指揮は現地の人間に任せているとはいえ、指揮官がいないのは問題だ。他の拠点や外国の姉妹組織への連絡対応やらやることは多いんだぞ」


「わかってます。もう少しここで指示してたかったんですけどね……」


 ドクとしてはこの工房こそが自分のいるべき場所だと思っているのだろう。間違ってはいないのかもしれないが、ドクには立場というものもある。


 現場で動いている人間が少しでも活動しやすいように、そして他の姉妹組織や政府などとの摩擦を生まないように細かな調整などが必要になってくる。


 それらの些事を受け持つのも拠点側の仕事でもある。


 特に大隊長クラスが各方面への調整で忙しくなるからこそ、現場への統括指揮をドクが受け持つしかないというのが現状だった。


 現場の指揮を行う拠点に詰める統括指揮官が少ないのは問題だなとドクは考えていた。


「じゃあ皆あとは任せたよ。周介君が返ってくるまではフル稼働許可だからそれまでよろしく」


 ドクの言葉を聞いているのかいないのか、数人だけが返事をしているがそれ以外の製作班は延々と作業を続けている。


 工房のうるささもあるが、深く集中しているからこそ意識をドクの方に向けられないのだろう。


「それじゃあ行きましょうか」


「……あれでいいのか……?ほとんど反応していなかったぞ」


「いいんですよ。あんなふうに雑な指示を出していたほうがうちの人間はいい成果を出してくれます。まぁ労働基準的にはアウトになっちゃうかもしれませんが」


「……今は緊急時だ。ある程度は目をつむるが……限度はあるぞ」


「まぁそのあたりは大目に見てください。これが終わったらしばらくは休暇を取らせますよ。とってくれるかどうかはわからないですけど」


 製作班の人間は物を作ることそのものが趣味の人間が多い。そのため休みと言っても趣味ですと言い切る可能性があるのが厄介なところだった。


 工房を封鎖してやろうかと柏木大隊長が考えている中、ドクは現場で活動している周介たちのことを考える。


 今周介はどれだけ無茶をやっているのだろうかと。


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