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アロットロールゲイン  作者: 池金啓太
最終話「其の獣が宿すものは」

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「さて、それでは最終ブリーフィングを行います」


 周介達がドローンの散布を終えた後、空港の一角にある建屋に戻って来たところで最後の打ち合わせが行われていた。


 とはいえおおよその流れは飛行機の中で行ったために、今回やるのは主に索敵範囲と戦闘予想範囲の再確認くらいのものだ。


『現時点での索敵範囲はこの辺りに展開しています。敵の予想進路がこの辺り。夜に移動していた場合はもう間もなく接敵の可能性がありますが、今までの町で確認された移動速度から考えてその可能性は低いです。昼に移動していた場合、明日の十一時ごろに接触する可能性が高いと思われます』


 フシグロの解説に全員が納得した様子で頷く。その地形は山岳を含んだ森林地帯。凹凸もあり遮蔽物も多い。近くには川も通っているため、そのラインを進むのではないかとの予想が地図上に表示されていた。


 その会議の様子を、この空港を管理しているロシアの面々も確認していた。作戦の内容。および行動内容を把握するためにも、これらの情報を共有する必要があるという考えなのだろう。


 その考え自体が間違っているとは思わない。現にフシグロが予想した、核兵器などが保管されている基地の位置までかなり近づいてきている。


 まだ時間はかかるだろうが、こちらが予想した位置に対して正確に接近してきている。


 フシグロの予想が正しかったことを喜ぶべきか、相手も情報を得ているのだという事実を嘆くべきか。


 正直どちらとするかは悩ましいところだった。


「次の町での補給……もとい略奪は絶対にさせちゃいけないな。戦闘が想定される位置から次の町までの距離は?」


『およそ八十キロ。連中の移動速度を考えると到達するのはそこまで難しくはありません』


「連中は町から町へ移動してるんだよな。物資の破壊は前提として、やっぱり相手の脚を絶対に潰さなきゃいけないな。連中の基本的な移動手段は箒を使った移動。ならそれはマストだ。ラビット隊、頼むぞ」


「了解しました。請け負います」


 相手の移動手段はその能力的に箒を使った移動に終始しているはず。ならばその移動手段をなくしてしまえば、後は最悪現地の部隊だけでも対応可能かもしれない。


 とはいえ、この場の面々としてはそれだけで止まるつもりは全くないのだが。


「地形的には川辺、けどその両脇には木々が豊富な山がある。渓谷、とまではいわないが、それに近い地形と考えたほうがいいか」


「狙撃を警戒するなら、その川の両側にある山の方に隠れるだろうね。山狩りをするような状況になるのは避けたい」


「包囲網はこちらで敷きます。ただ、強化系相手には牽制にもならないですので、そこはお願いします」


「敵の位置は常に私がマッピングします。アイヴィー隊の索敵手の方も索敵に協力してもらえればと」


「水が近くにあるのなら問題ないわ。辺りの索敵は任せて。山岳部の一体に霧を発生させる。戦闘に支障が出るとまずいから、薄くしておきますけど」


 桐谷の索敵は水分を操作することにより疑似的に行うものだ。知与のように詳細な索敵はできなくとも、おおよそどこに何がいるのかはわかるし、水分操作を行うことで小堤の固定の能力とも相性がいい。


「俺たちアイヴィー隊の主な仕事は敵の動きを封じることがメインだ。そして動きを封じたらあとは大太刀部隊の皆さんにお願いするという形で」


「任されるわ。みんなここまでで何か質問はある?これが最後の打ち合わせになるわ。気になることがあれば遠慮なく聞いてね」


 笹江の言葉に何人かが手を上げる。


 地形情報を見た時点で気になっていることがあるのだろう。


「その川って具体的にはどれくらいの深さなんだ?」


「えーと……日本みたいに深さの管理とかしてないのかしら……フシグロさん、そのあたりわかるかしら?」


『当該の川はそこまで深くはない。広く浅く流れる川で、場所によっては六月まで凍ってる場所もあるくらい。水温は低いから落ちたら寒いと思うから気を付けて』


「六月?そんな時期まで凍ってるとか……いやまぁそうか……よくよく考えればここ、北海道よりずっと北なんだよな……」


「確かに寒いは寒いよな……日本に比べればだけど……水とかに浸かったらすぐに低体温症になりそうだ」


 自分たちがいた場所や、関わりのある場所からさらに遠くにやってきているのだということをこの場のメンツはようやく理解し始めていた。


 外の様子を見ようにも、辺りの風景は自然に満ちていて人が満足に住める場所なのかどうかも怪しいレベルだ。


 そんな場所にやってきて、今自分がどこにいるのかと聞かれても感覚がマヒしてしまうのは仕方のない話だろう。


「あと、その辺りの地形は、大体地図見りゃわかるけど、植生はどんな感じなんだ?どこまで壊していいんだ?」


「一応ロシア政府からも許可は貰ってるらしいけど……やりすぎないほうがいいとは思うかな。なに?そんなに派手に暴れるつもりなの?」


「そこまで派手にやるつもりはないけどな。けど、絨毯爆撃くらいはしてもいいだろ?相手を封じたりできるならさ」


「山火事になるかもってことを考えてやってくれるならいいけどね。あまりやりすぎると怒られるって事、念頭に入れておいて」


 ミーティア隊がその気になればそのようなこともできる。どこまで壊していいのかを聞く当たり、やはり大太刀部隊なのだなと小太刀部隊の面々は目を細めていた。


「他には?まだ何かある人」


「あ、それじゃあ俺から。現地に向かいたい人と、上空からの支援をする人に分かれると思いますけど、現地に向かう人が何人いるか確認したいです」


 周介がそう聞くと、現場で直接活動をする人間。具体的には航空機などから降りて地上戦を行う人間は手を上げる。


 と言っても、この中ではアイヴィー隊の一部とBB隊の前衛二人、そして周介達ラビット隊の中で何人かくらいのものである。


「オーケーです。あとは、降り方に何か指定のある人いますか?」


「降り方?」


「現地へは飛行機とヘリで移動する予定です。飛行機の方であれば後部ハッチを開いての空挺降下を。ヘリであればワイヤー降ろしてそこから降りるでも行けます。どっちがいいですか?」


 空中から降りる方法など考えたことがなかったのか、実際に現地に降り立つ予定の面々はどうしたものかと迷っていた。


「参考までに、オーガ隊はパラシュート無しで降下してました」


「それは参考にはならないよなぁ……ちなみに全員無事だったの?」


「えぇ、そうだったらしいです。パラシュート無しでみんな落ちてそのまま訓練してたらしいですよ」

 あいつらは本当に頭がおかしいなと、呆れてしまっているようだった。


「じゃあちゃんと参考になるのを教えてほしい。ラビット隊はどうやって降下するつもりなんだい?」


「え?俺たちは普通に飛んでいきますけど……」


 そうだった、こいつらも参考にならないタイプの連中だったと、その場の全員が言葉を失ってしまう。


「アイヴィー隊は俺が全員連れていく予定だからパラシュートとかは必要なし。ただその分現地への到着が若干遅くなるからそこ注意な」


 手越の能力を使って全員を浮かせて運べば何の問題もなく地面に降り立つことができるだろう。


 そうなれば後の問題はBB隊くらいのものだ。


「お二人はどうします?パラシュートありか、あるいはダイナミックエントリーするか。俺らが補助に入っていけば、多少着地の衝撃波緩和できると思いますよ」


 そう言って周介は玄徳の方を見る。


 玄徳の能力で自由落下の速度を緩和できれば、それこそ場合によっては周介だって着地できるだろう。


「いや、ラビット隊の力は借りなくても大丈夫だよ。ただその代わり、装備をちょっと貸してほしいかな。ほら、手足からバフォっと出るやつ」


 大門の何とも擬音混じりな説明に周介は一瞬何のことを言っているのかわからなかったが、腕から何かが噴き出しているという点から推進剤のことを言っているのではないかと思いつく。


「あぁ、推進剤ですか。大丈夫ですよ。あれ使い方ちょっと慣れるまで時間かかりますけど大丈夫ですか?」


「大丈夫。まだ時間はありそうだもんね。その間に練習するよ。あくまで着地ができればいいんだから」

「わかりました、二人分用意しておきますね」


 大門と雨戸の強化具合であれば、仮に高度三千程度から落ちたところで問題はないと思うのだが、戦闘前に負傷してしまっては仕方がないと考えているのだろう。


「現地に向かう内容に関してはいいとして……あと確認することは?みんなこれで現地で問題なく活動できる?」


 笹江が代表して全員に告げるが、大きなリアクションはなくただ小さくうなずくものがいるばかりだ。


 後は現地で活動するのを待つばかり。この時点で話し合うことはすべて話した。全員がそのように考えているようだった。


「じゃあ最終ミーティングはここまで。あとは各々休んでおいてね。何かあったらすぐに駆けつけられるように。就寝はいつしてもいいけど、起床は夜明けと同時に。食事に関しては、例によって例の如く保存食があるから。お腹だけはいっぱいにして準備すること」


 笹江のような小柄な女性がそれを言うと、まるで遠足か何かの引率のそれであるように錯覚してしまう。


 決してそのようなことはなく、経験豊富なBB隊の隊長であるのだが、どうしても気合の入り方が少し違ってくる。


 全員が気を抜いて大きく伸びをしたり、現地の状況などを確認しようとしている中で周介は外に置かれている機体の方へと向かっていた。


「兄貴、機体のチェックですか?」


「んん。どれを使おうかなと思ってさ。人を乗せる方は決まってるんだけど、いざって時に使う方はどれがいいかなって……」


 周介が明日輸送に使う機体はもう決まっている。問題なのは別の用途で使おうとしている部分だ。


 使わないに越したことはないのだろうが、その辺りは準備しておいて損はない。


「そう言えばこれだけの飛行機、一体何をするつもりなんですか?てっきり俺は、それぞれの飛行機でバラバラに人を運ぶものと思ってたんですが……」


 この空港に並んでいる飛行機や航空機はすべて周介が能力で稼働させたものだ。


 別にロシアにプレゼントするという形でもってきたわけではない。やることはある。


「まぁ、ちょっとした仕返しっていうか……使わないことを祈ってるよ」


 周介は笑いながら各飛行機の状態を確認していく。玄徳はいったい何をしたいのかと疑問符を浮かべていた。


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