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アロットロールゲイン  作者: 池金啓太
最終話「其の獣が宿すものは」

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「戦闘の流れはどうする?百枝の中でプランはあるか?」


 指揮権が正式に周介にあるとなった時点で、周介は既に頭の中で戦闘の流れを考えていた。と言っても、その通りに動くとは周介も思っていない。


「発見時の細かい戦闘の流れは各部隊ある程度決まってます。ミーティア隊には初手狙撃で不意打ちをして、相手を地面に落としてほしいです」


「距離があるだろうから、初回の接触で全部落とすのは厳しいぞ?相手の能力は箒だろう?その箒を全て壊すとなると……」


「初手で全部壊せれば最高ですけど、初回の接触では全て壊す必要はありません。空中にいたら狙い撃たれる。それを相手にわからせればいいです。相手に変換能力者がいるなら、遮蔽物を求めて地上に降りるはず。なので相手にもわかりやすい形での攻撃をお願いします」


 空に飛ばれるのが一番厄介だ。特にブルームライダーの能力で飛ばれると前衛戦力である大門と雨戸が戦いにくくなる。それならこちらの手の内を一つ晒してでも、強引に地上戦に引きずり落とす必要がある。


「接触位置が平地や遮蔽物の少ない丘なんかだとありがたいですけど、そんなにうまくはいかないでしょうからそのあたりは臨機応変に行きましょう。相手が狙撃を嫌がって地上に逃げてくれるような攻撃をしてください。そこでBB隊とアイヴィー隊の連動で足止めと連中を空中に逃げられないように牽制。その間にこっちで包囲網を形成するようにします」


 今回の相手の目的がはっきりわかっている以上、逃がすわけにはいかない。


 上空に逃げてくれたほうがミーティア隊の狙撃で一方的に攻撃できるかもしれないが、主戦力であるBB隊の攻撃を加えることができなくなる。


 相手の機動力を削ぎ、なおかつ徹底して相手の持つ選択肢を奪う必要がある。


 空中に逃げようと地上に逃げようと、どちらにせよ封殺できるだけの手順が必要不可欠だ。


 その為にミーティア隊には常に上空から敵を狙い撃ってもらう必要がある。


「うちの戦力から考えて、空中戦の分が悪いとは思わないが、地上戦に持ち込むのはBB隊を活かすためか?それとも相手の足を止めさせるためか?」


「両方でもありますけど、もう一個理由が。相手の物資の喪失です。相手がどうやって物資の確保をしてるのかは、まぁなんとなくみなさんご存知だと思います。食料にせよ装備にせよ、適当に街から奪ったものだと聞いてます。たぶんその物資はブルームライダーの箒とかを使って運んでると思います。それを潰したいんです」


 相手に補給物資を得られるだけのバックボーンはもはや存在していない。となれば今保有している物資を奪うなり破壊するなりすれば、相手の継続戦闘能力は一気に失われることになる。


「空中の初手で狙撃。その時にも狙えればいいですけど、それがダメだった場合BB隊のお二人には相手の支援物資を優先して潰してほしいんです。地上部分に来ればやりやすいと思いますけど、できますか?」


「大丈夫だと思う。あの二人なら問題なく潰せる。ただそうすると敵の勢力への攻撃を二の次にすることになるけど……」


「優先するべきは相手を摩耗させることです。とにかく相手を追い詰めていきましょう。小堤先輩、手越の奴にも初手の対空攻撃を手伝ってほしいんですけど、可能ですか?」


「あぁ。問題はない。空にいたら間違いなくやばいって思わせればいいんだろ?装備を変えれば問題なく可能だ」


「であれば、相手の装備と食料などの物資をすべて破壊、ないし奪取して、そこからが本番です。初手のアタックがすごく大事になるので、皆さんよろしくお願いします」


 周介の案は手堅い。敵を倒すよりも先に物資を失わせることで、仮に見失ったとしてもその後の行動を読みやすくもなるし、何より相手を消耗させられる。


 確実に相手を捕らえる、もしくは殺害しなければいけないような状況において相手の継続行動能力を削るのは確実な方法と言えるだろう。


 もちろんその場で対処できることが最良ではある。だが周介をはじめとしてその場にいる面々はたいていそういう考えを抱いていても現場ではうまくいかないということを理解していた。


 最良の結果を得られるように努力はする。それは当然だ。だがそれが上手くいかないときのことを考えて次の案、そしてさらにその次の案を考えておくのが前提だった。


「一発目の攻撃時ラビット隊はどうする?私たちの輸送はしてもらうとして……他のメンバーは……」


「猛は最初BB隊の皆さんに預けます。主にブルームライダーへの牽制を行ってもらおうと思ってるんで、一緒に突入してもらってそっちに集中してもらおうかと。瞳の人形の展開はドローンを使って広範囲にやってもらう予定です。俺と玄徳は現場のフォローに回ります。具体的には空中に上がってきそうなやつがいたら追加で撃ち落とす形ですね」


「それだと俺たちの射線に重なる可能性もあるから危ないと思うが……」


「避けるので大丈夫です」


 これほどまでにあっさりと断言されて、射場としては少々複雑な気分ではあった。


 他の人間が言ったのであれば随分と楽観的だと考えるところだが、それを言っているのが周介というのが問題だ。


 周介なら、恐らくミーティア隊の狙撃だって避けてみせるだろう。その自信と実績が周介にはあるのだ。


 単純な射撃系の攻撃で周介を捕まえることはほぼ不可能に等しい。できたとしても面攻撃を続けなければいけないのだ。


 いくらキロ単位で離れた狙撃でも、周介の感覚を掻い潜って撃ち抜ける自信はない。


 逆に言えば周介が仮に前衛に出ていたとしても、ミーティア隊の狙撃の被害を受けることはないということでもある。


 そこが複雑なところでもあるのだが。



「けど、ミーティア隊とかの足場の確保とか、そういうのに加えて前衛なんて……無理じゃないの?それだけ能力を行使するなんて」


「今もこうしていくつも飛行機を飛ばしてますから大丈夫ですよ。Δとかを複数同時に操っても大丈夫な感じでしたし」


 周介がΔを動かす際、どれだけ複雑な操作をしているのかを知っている人間は意外と少ない。


 細かな部品全てをタイミングよく動かしているのに比べれば、一定の速さで回転させ続ければ操作できる飛行機やヘリの操作は楽なものだ。


 その辺りは本人にしかわからないことであるために、他の人間がとやかく言えることではなかった。


「前衛の動きを押さえるのはBB隊とアイヴィー隊、上空への脱出やらを防止して敵の他の勢力を叩くのがミーティア隊と手越、それ以外の補助をラビット隊。手が足りるか微妙なところだけど……」


「その辺りの手数は瞳と手越、そして俺がいれば多少はましにできます。今回は大盤振る舞いで行くつもりですから」


「大盤振る舞いって……具体的には?」


「ラビットシリーズ、俺が使えるでかいロボットを全部出します。相手の前衛を二人ともBB隊が対処してくれるのであれば、残りの戦闘職は基本後衛。十分に対応できると思います」


「なるほど。片方は変換、片方が雷の発現だとわかってるなら物理ごり押しのあのでかいロボットでどうにでもなると……」


「あくまで時間稼ぎにしかならないとは思いますけど。でも時間稼ぎができれば十分です。その間にBB隊のお二人がさっさと強化系やら倒して駆けつけてくれるでしょう?」


 大門と雨戸の戦闘能力は並ではない。笹江の能力による強化が施されればなおのことだ。


 相手も経験豊富な能力者だろうが、それでも負けるようなところは想像できない。あとはどれくらいの早さで相手を倒すことができるかというところが問題となる。


「百枝君の時間稼ぎはどれくらいはできる?それが分かれば多少無茶してでも叩くけど」


「……そうですね……変換能力者の腕次第ですが……五分、いえ、十分はもたせて見せます」


 十分。それでもだいぶ謙虚に申告しているほうだと隊長格は考えていた。


 ラビットシリーズ。あのロボットが戦うところの映像は何度も見たことがある。変換能力のゴーレム相手でも問題なく相手をしていた。


 中に人が乗らない限り、恐らく雷などの攻撃はほぼ無効だろう。変換能力で攻撃をされない限りは間違いなく一方的な戦い方になる。


 それでも周介は足止めがメインだと言っていた。相手の戦闘能力をかなり高く見積もっている証拠だ。

 確実に叩く。その意気込みがその言葉からも読み取れる。


「十分ももらえれば大丈夫。あの二人なら問題なく片づけてくれると思う。ドットノッカーの方がちょっと不安ではあるけど、そこはミーティア隊やアイヴィー隊と連動できれば問題はないと思うの」


「問題があるとすれば、ブルームライダーとあの転移能力者だ。そっちはラビット隊に任せていいんだな?」


「大丈夫です。猛もやる気ですし。あの転移能力者に関しては、まぁ、ちょっと考えがあるんです。うまくいくかどうかはちょっと賭けですけど」


 転移能力の不意打ちは防げない。周介の感覚ではあくまで自身の脅威、具体的にはどれだけ直接的な危害を加えられるかというところが問題になってくる。少しでも危害を加える攻撃であれば周介は感知できる。


 だがあの能力、転移の能力はあくまで触れるだけだ。触れるという行為に対して周介の感覚は働かない。だからこそその脅威を感じ取ることができない。だから不意打ちとなり防ぐことができないのだ。


 だが、手がないわけではない。


 上手くいくかはわからないし、実際に上手くいったからと言って不意打ちを防げるかどうかは運だ。


 あの能力者は根性がある。骨折した状態でも、体がボロボロの状態であっても能力の発動ができたくらいだ。


 あれが組織に所属していたら、きっと良い能力者になっただろう。そんなことを考えてしまう程度には。


「相手の動きを徹底的に封殺して、相手を分断することを目的にする。初回の接触が一番重要ってことね。任せて。うちの二人を使って前衛二人は確実に分断するわ」


「あとは合流できないように牽制狙撃だな。倒せそうなら倒す。その辺りは任せてくれ」


「相手を動きにくいようにとにかく阻害する。いつもの通りだ。大丈夫。任せろ」


 それぞれの役割を再認識して全員が大きくうなずいてくれる。


 現場に行ってどのような動きをするかどうかはやはりそのときになってみないとわからないが、少なくとも各々のできることとやることをはっきりさせておくことはできた。


 後はぶっつけ本番、どれだけ対応できるかという話になってくる。


「ところで、あのロボットって人は乗れるの?」


「乗れますけど……今回もってきたのは試作機の方なので狭いですよ?」


「そうなんだ……あれに乗って戦えればいいなって思ったんだけど……」


「やめたほうがいいです。少なくともあれは人が乗るものじゃないです。コックピットがあるのもドクのロマンみたいなものですから……」


 コックピットをつけているのはドクのロマンと、操縦席に乗らないと操れないというブラフを与えるためでもある。


 そのおかげで周介の能力も誤認させられた部分もある。


「でもあれに乗って戦ってみたいなって思うよな。格好いいだろ?」


「乗り物に強い人でもきついと思いますよ?めっちゃ揺れますし……まぁ、今度訓練の時にやってみましょうか」


 実際乗ってみないとわからないこともある。いくら格好いいからと言って実際に乗ってみて次もう一度と言えるだけの人間がどれだけいるのか、周介としては微妙な気持ちだった。


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