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「ったくよー、ドクにも困ったもんだよなぁ。大変だったぞ今日はよぉ」
「悪かったって。でもあの後すぐに手伝ったじゃんか」
「ゴミあさりって時点で全員やる気ないから大変だったんだぞ?久しぶりに手を全部使った。あれやると疲れるんだよ」
周介たちはその日の作業を終えて寮の自室に戻ってきていた。椅子の背もたれに全力で体重を預けている手越に、周介は自動販売機で買ってきた茶を差し入れる。
手越は瞳が抜けた穴を埋めるべく、自身が操れる最大数量の手をすべて使ってゴミの分別を行っていた。
いくら能力でそれができるといっても、それを操るのが人間である以上疲れることには変わりはない。
何よりそこまで重いものを持つことができないような能力でもあるのだ。廃品として運び込まれたものは複雑に絡まり取り外すのが難しいものもあっただろう。
知恵の輪のような状態になっている廃品を一つ一つ外して分別していくのは骨の折れる作業だったに違いない。運搬しかしていない周介には分らない苦労だ。
「で?装備はいいものになったのか?」
「まぁな。俺ら全員分の装備を新調してた。いくつか機能も増えてたし、デザインも変わってたよ」
「ドクはそういうとここだわるからな。俺の装備も何回変わったことか」
「あぁ、そう言えばお前の装備も結構格好いいよな。特殊部隊の装備みたいで」
手越が身に着ける装備は周介の言うように軍などの特殊部隊の人間が身に着けるそれに近い。隊服というべきなのだろうが、それを身に着けさらに能力を発動するための道具を格納しておける入れ物を用意してあるのだ。
「最初は鎧みたいな感じだったんだ。んでお前が今つけてるみたいなプロテクターみたいな感じになって、そっから一気に変わってったな」
「鎧ねぇ、でもそっちの方がよかったんじゃないのか?守りは固くなるだろ?」
「いやダメなんだ。前に言ったと思うけど、俺の能力は一つの手で持てる重量が決まってる。しかも重いものを持てばその分動きが遅くなる。俺自体が重すぎると運ぶのがきついんだよ」
手越は自分の能力を使って自分自身を持ち上げることで宙に浮くことが可能となる。鎧のように重く頑丈なものをつけていれば自分の身を守ることに関しては使えるのだろうが、運ぶことに関してかなり後れを取ってしまうのだろう。
「もとより俺はそこまで機動力がある方じゃないからな。なるべく機動力と、なおかつ適度に頑丈な服っていうと、あぁいう感じになったんだよ。本当に最低限の軽いプロテクターをつけて飛ぶって感じのな」
「なるほどな。それだと俺らの装備も今後変わっていくんかね?」
「だろうな。時期とか目的に応じて装備は変わっていくと思うぞ。特にお前の場合使える装備は多いだろ?それこそ最終的には空だって簡単に飛べるんじゃね?」
「ドク曰く空を飛ぶのは通過点らしいぞ。どこまで行くのか知らないけど」
周介の思い浮かべる装備と、ドクが思い浮かべる装備の最終形は全く違うのだろう。
だがどちらにせよ、周介たちが身に着けるものをドクが作ってくれている以上、要望は出せても文句を言うことはできない。
それに、機能的に必要なものばかりなのだから、あとは個人の趣味になってしまう。デザインに関してもドクが考えているのかどうかはさておき、現状嫌いな形でもないために周介からすれば装備の改良に関して断る理由も特にないのだ。
「手越のチームの人達も似たような感じの装備で固めてるんだよな?」
「一応な。コンセプトって言っていいのかわからねえけど、ドクなりにある程度チームの特色を出そうとしてるらしいぞ?特にうちの隊長とかはそれが顕著だな。盾持ちだからっていうのもあるのかもだけど」
手越のチームの隊長、小堤は戦闘や行動において盾を使うことが多いらしい。周介もその現場を一度ではあるが見ている。
あの盾で敵の攻撃を防ぐことができているというのがまたすごいところである。見たところ非常に薄い、ただのプラスチックのようにも見えたのだが、それでも高速で飛んでくる看板などを完璧に防いでいた。
それが彼の能力によるものなのか、あるいは装備の力によるものなのかは不明だが。
「能力とか、その部隊の性質によっていろいろと特色を変えるのがドクなりのやり方らしいな。お前らの場合は、運搬とかになるんだろ?それならそれに適した形になるんじゃね?」
「今の装備からして全くそんな感じしないけどな。なんだ?宅急便とかそういう感じの服装になるのか?」
「それは知らないけど、その可能性はあるな。ラビット隊だろ?ウサギ印の宅急便か。黒猫に負けんなよ?」
「比較対象が宅配業者っていうのが何とも複雑な気分だよ。まぁウサギ部隊なんて名前になった時点でお察しなのかもしれないけどさ」
ラビット隊という名が着いた時点で、いや小太刀部隊としての活動を主にしているという時点でそこまで戦闘向きの格好いい部隊になるという考えは最初から周介にはなかった。
戦闘自体があまり好きではないために当たり前かもしれない。だからこそ宅配業者と比較されるのも、半ば仕方がないことだろうというのも納得はしていた。
とはいえ、複雑な気分であることに変わりはないのだが。