表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
アロットロールゲイン  作者: 池金啓太
三十五話「傷の痛みに耐え、前へ」

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

1597/1751

1597

「ん……あれ……?」


「お、大将、起きたか。もうすぐ拠点だ。まだ寝てていいぞ」


 周介が目を覚ました時、周介は猛の体毛に包まれて移動しているようだった。


 いつのまにか寝てしまっていたのかと、周介は微睡の中で目をこする。夢を見ていたような気がするが、一体どんな夢だったのか、思い出すことはできなかった。


 懐かしいような、初めて見るような、そんな夢だった。


 太平洋の一角にある島から周介を救出した一行は、船の準備を整えた後、日本へと戻っていた。


 日本の港にたどり着いた船は、周介をまず拠点に移送するために行動してたのだろう。


 もっとも車も満足に動かないため、猛の体に包む形で移送したのだ。ちょうど周介が寝ているためにそうせざるを得なかったというのも理由の一つでもある。


 急ぎ拠点に戻るのは周介の体を調べるためということもあるが、周介の無事を多くの人間に伝えるためでもある。


「悪い、寝てたのか」


「つっても少しの間だ。船でもあまり寝てなかっただろ。休んでていいんだぞ?」


「いや、大丈夫。拠点に戻るときくらいは、起きていたいし」


 猛の動きが緩やかになり、拠点に続く建物の中に入ったということがわかると、周介は自分の足で歩き始める。他のメンバーも同じようにやってきた。そして全員で拠点の中にはいる。


 予め拠点に話は通していたため、周介達がやってきたとき、その反応はかなり大きかった。


「百枝!マジだ!マジで生きてるよ!」


 拠点に周介が戻ってきたときにまず出迎えてきたのは、同世代の手越をはじめとするメンバーだった。


「うぉ!?あだ!?」


 周介に抱きつくように飛びついてきた手越、福島、十文字の三人を支えることができずに周介は押し倒されてしまう。


「おいお前ら!大将は病み上がりなんだ!ちょっとは遠慮しやがれ!」


「兄貴!?大丈夫ですか!?」


「あぁ、悪い悪い。ちょっとテンション上がっちまった」


「ごめんね百枝。大丈夫?」


 福島と十文字が詫びるも、その段階でようやく周介の外見が変わったことに気が付いたのか、二人とも目を丸くしている。


「なんだ百枝、お前イメチェンしたのか?髪伸ばしたりして……なにがあったんだよ」


「正直言って……あんまりにあってないよ?」


「うるさいな。俺だって好きで髪伸ばしたわけじゃないんだよ。いろいろあったらしいんだけど……俺も正直よくわかってない。だから絡むな!」


「そんな事言うなよぉ。お前俺たちがどんだけ心配してたかわかってんのかぁ?」


「そうそう。少しくらい大目に見てやってよ」


「うぜぇ!それに邪魔!髪が絡まる!」


 周介の髪が絡まるのを阻止しながら、猛が周介の上から三人を引きはがす。


 ただ、周介の帰りを待っていたのはこの三人だけではなかった。


 拠点の人間の中を割ってやってきたのは大隊長の柏木だった。


 今回のことで大きく迷惑をかけたであろう相手に、周介は起き上がるとすぐに頭を下げていた。


「大隊長、ご迷惑をおかけしました」


「……よく戻った。無事、と言っていいのかどうか、微妙なところではあるが」


 周介の体を見ればわかる。服を着ていても、その変化は顕著だ。


 髪の長さだけではない、目の色も、肌にできた奇妙な幾何学模様も、そして服の上からでもわかる奇妙な突起。魔石が体から生えているという話は聞いていたが、まさかこれほどとは思っていなかったのだ。


 無事、と言っていいものか本当に迷うところだ。本人の意識がある事に関しては素直に良かったと言ってやりたいところだが、同時に、意識がない方が幸せだったのではないかと思えて仕方がなかった。


「百枝、まずは休みなさい。そして体の検査を行ってもらう。それが終わったら、大隊長室に来ること。いいな?」


「はい。わかりました」


 周介としても否やはない。少なくとも体のことを調べることは周介にとっても重要なことだ。心臓が止まった状態なのに生きているなどと冗談にしても目覚めが悪い。


 なにがどういう訳で生きていられるのかなど、詳しく調べないと周介としても不安で仕方がないのだ。


 と言っても、心臓が止まった状態でも生きているなど前例がなさ過ぎて調べたところでわかるかどうかも怪しいところではあるが。


 大隊長がいなくなった後も、周りには周介の帰還を喜ぶものが多かった。特に製作班の人間は周介が返ってくるのを心待ちにしていたようだった。


「いや良かったよ、そろそろ電気が本当にやばくてね。いろんな人に代わる代わる発電してもらってたけど……ちょっと限界が……」


「あー……はいはい。後で発電しておきますから」


「ごめんね!帰ったばっかりだっていうのに!」


 周介の帰還というよりは、効率よく発電できる人間の帰還を喜んでいるというのが周介としては非常に複雑な気分ではあった。


 ただそれでも、必要としてもらえるというのはそれはそれで嬉しくもある。


 周介が今まで組織の中で貢献してきた分だけ、必要としてくれる人間が多いということでもあるのだから。


「オラオラ、大将は病み上がりだって言ってんだろ。とっととエイド隊のところに行かせろ!お前らだって暇じゃねえだろ!」


「んだよ!もうちょっとくらいいいじゃねえか!」


「そうだそうだ!横暴だぞ!」


「横暴でも何でもねえよ!マジで病み上がりだって言ってんだろ!ずっと意識なかった状態なんだからちょっとは遠慮しやがれ!」


 魔石と同化している間、周介は完全に意識がなくなっていた。その間の栄養補給だって行っていなかったのだ。


 一応、起きてから何度か食事はとったが普通に食事の摂取はできている。その辺り問題はないと思いたいが、本当に問題がないのかどうかだって怪しいものだ。


 少なくとも現時点で問題がないからと言って、そのまま放置していいというものでもない。


 病院などで調べたいところだが、周介の状態を鑑みるとそれも難しいため、白部の時に運び込んだ医療、検査用具を使って調べることになったのだ。


 あの時の器具がこうしてまた役に立つのは、少しだけ複雑な気分ではある。


 いくつもの計器で繋がれ、周介の体の状態を調べている間にも、拠点の人間が周介の様子を見に来ていた。

 白部の一件があったため、拠点の医務室には通常の病院と同じかそれ以上の設備が運び込まれている。


 今までエイド隊の治療が主な手段だったのが、精密な医療機器を併用した状態にすることでより精度の高い状態把握と、専門知識によって多くの知見を得ることができるようになったと言っていい。


 ただ、そんな精密な機械を使っても、高度な技術と専門の知識を用いても、周介の肉体の今の状態に対しては何一つとして明確な答えを出すことはできなかった。


「こんな状態を見るのは初めてよ。一体どういう体になったのやら」


 周介の主治医状態になっているエイド隊の人間が計器を見ながらため息交じりに笑う。本来は笑うような状況ではないのだろうが、あまりに突飛な状況に笑うしかないというのが正直なところなのだろう。


「すいません」


「謝るような事じゃないわ。少なくともあなたは被害者なんだから」


「俺の体、どうなってるんですか?」


「……患者に自分の状態を正確に伝えることは……場合によってはやめるべきなんだろうけど……この場合仕方ないわね」


 病状を聞いた瞬間、精神的な動揺が肉体に影響を及ぼすことだってある。その為医者から患者に病状を伝える際は、濁した表現なども使われることが多い。


 ただし、命にかかわる場合に限り、正確に伝えられることもある。間違った情報を伝えて面倒なことになるよりは、という観点からのものだろうか。


「以前確認させてもらっていた百枝君の肉体と比較したものだから、あくまでビフォーアフターだと思ってちょうだい。結論を言えば、君の全身で変異が確認できました」


「全身……ですか」


「そう。骨の形も臓器も、皮膚も、何もかも。細胞に関してはまだ検体を採取できていないからこれから確認するけれど、恐らく細胞単位で変異が発生しているでしょう」


 周介の全身で変異が見られるというのはドクも言っていたことだ。ある程度は理解していたためにそこまでの衝撃はなかった。


「あの、俺心臓が止まってると聞きました。それは……大丈夫なんですか?」


「大丈夫ではないわよ。普通ならね。けど、血液は君の全身をめぐっている。どういう訳か問題なくね。あぁ、君が生きているかどうかという論争に関しては答えは出ているわ。君は生きている。別にゾンビとかのアンデッドになったわけじゃないから安心しなさい。生命活動も確認できているし、何より多くの人間の能力の対象になってる」


「そう……ですか」


 周介の肉体はとうに死に、能力か何かで疑似的に動かされているのではないかとも考えていた。だがどうやらそういうことではないらしい。


 食事をとって代謝も行っている。そして生物にしか発動できない能力の対象にもなっている。


 その辺りが周介が生きていると定義するだけの証拠になっているようだった。本当の医学的にどうかはさておき、能力者としてはそれで十分なのだろう。


「後で細胞と血液を採取させてくれる?ただ、君は攫われる前にかなり出血していたと聞くわ。今日すぐにとは言わない。そうね……一週間後。細胞やら血液やらの採取をさせてほしいの。いいかしら?」


「はい。構いません。特に血に関してはよく調べてほしいです。俺の体の中の、一体何がどうして勝手に動き回ってるのか、俺も知りたいですから」


「そうね。普通なら心臓が止まってるのに血液が動き続けてるっていうのはあり得ないわ。あなたの血液にも何かしらの変異が起きているのは間違いないの。それが解明できれば、少しは安心できる」


 血液が勝手に動くなどということはあり得ないために、何かしらの変異があるのは確実。問題はそれがいったいどのようなものなのかという点だった。


「心臓が止まる事での弊害って何かありますか?あんまり意識してこなかったんですけど」


「心臓はポンプでもあり、逆流を防ぐための弁の役割も持っているわ。血液が逆流しないようにね。そして運動量に応じて心拍を高めて運動強度に耐えられるだけの酸素を供給することが目的でもあるの。だからあなたが運動をした時の血液の動きが早くなっていたりしたら……血液そのものが心臓の代替を行っているといえなくもない」


「心臓の代わりの臓器が作られてるとかそういうことはないですか?例えば……太ももなんて第二の心臓って言われてるでしょう?」


「残念ながらそのあたりは確認できなかったわ。幸いにもというべきなのかもしれないけれどね。勝手に動く血液っていうのはちょっと想像できないけれど……そもそもあなたの場合体がかなり特殊な状態になってしまっているから」


 周介の全身に変異が見られている時点で、体の隅々が奇妙な状態になっていても不思議はない。


 血液は人間になくてはならない存在だ。必要な酸素と不要な二酸化炭素を運ぶという重要な役割を担っている。


 これがなければ生きていることはほぼ不可能だ。代替の人口血液などもあると聞いたことがあるが、それらを入れる気にはなれなかった。


 そもそも心臓が止まってしまっているのが厄介だ。何故止まっているのか。何故動かないのか。それが問題でもある。


 心臓は止めようとして止められるものではない。その為、止まるということはある種の異常がある事に他ならない。


 その異常が、周介の身体に影響をおよぼす可能性が高いのは間違いなかった。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[良い点] 発電の仕事、これを頼まれるというのは周介にとってどれだけ救いになるのだろうか。 [一言] >生物にしか発動できない能力 生物か否かをはっきりと判定できるというのは言われてみればそうなんで…
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ