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アロットロールゲイン  作者: 池金啓太
三十四話「光を追って。光に縋って」

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 鬼怒川の訓練も、普段のような戦闘訓練ではなく魔石の力を扱うための訓練ということもあって、今までとは少し毛色が違っていた。


 大気中に存在していいるマナを取り込むのではない。自らの肉体の中に存在している魔石から、必要量のマナを引き出さなければいけない。


 とはいえ、いきなりそんなことを言われてもわからないの一言だった。普段の能力発動のためのマナの供給だって、以前行った過剰供給状態を引き出すための訓練でようやく意識したところだったのだ。


 いきなり魔石からマナを引き出せと言われても、そう簡単にできるはずがない。


 結局、周介は魔石からマナを引き出すことなどできずに夜を迎えることになる。


 訓練の合間にも、周介のことを心配してか、多くの組織メンバーが周介の下にやって来てくれていた。


 完全に日が落ち、多くの者が休む中、訓練を終え、一度は部屋で休んでいた周介だったが、一向に眠ることができず、甲板の一角で海を眺めていた。


 視線の先には月がある。蒼く輝く月が海を照らし、夜闇に溶ける黒い蒼をあたりに染み渡らせている。


 幻想的な光景だ。光を反射する黒く広い大海原に、蒼い光を放つ月と満天の星空。日本では絶対に見ることのできない光景だろう。


 都心で見られる電気によって作り出される光の群れと違い、どこか穏やかで、波と風の音もあいまって、どこか幻想的だ。


「周介、寝ないの?」


 そんな中、周介がいつの間にか部屋からいなくなっていることに気付いたのだろう。瞳が周介のいる甲板までやってきていた。


「ん……なんか寝れなくて……なんでだろうな。なんか眠くならないんだよ」


 それなりに疲労感はある。だがどうにも、目が冴えてしまっていた。妙な感覚だった。体は疲れているのに、頭だけはずっとクリアなままなのだ。


 そして、眠気も襲ってこない。こんなことがあるのだろうかと、周介は少しだけ不安になっていた。


 そして暗くなった部屋で、自分の体が、体の魔石や、体にできた奇妙な筋が、青く光っているのが見えた時、その不安はさらに強く膨れ上がる。


 自分はいったい、何になったのだろうかと。


「なぁ……瞳……俺……今いったい、どうなってるんだ?」


 瞳に聞いても答えが返ってこないことなど周介には分っていた。周介自身にも、そしてドクにもわからないのだ。


 門外漢の瞳にそのようなことがわかるはずもない。だがそれでも聞かずにはいられなかった。


 自分がどうなったのか。そして自分がどうなるのか。


 訓練の時には、必死に集中することで忘れることもできた。だが、今は無理だった。こうして何もしない時間を与えられると、考えずにはいられなかった。


 自分のした事。そして自分がどのようになったのか。これから自分がどのようになるのか。


 概要は聞いた。だが具体的なことは何もわかっていない。


 暗闇の中明かりもなく放り出されたような気分だった。


 そんな周介の横に、瞳は座る。当たり前のように。そして周介の方に自分の頭を乗せるように寄りかかる。


「瞳、あんまり俺に近づかないほうがいい……俺の体の魔石、何かあったら」


「いや」


「……なぁ……頼むから」


「嫌よ。あたしは、あんたといる。もう、離れたくない」


 周介の体が安全かどうかは全くわかっていないのだ。魔石に触れた時のように過剰供給状態が起きても不思議はない。


 触れないほうがいい。近づかないほうがいい。理屈ではその通りだが、瞳はそれを拒んでいた。


「あんたがいなくなって……怖かった……死んでるんじゃないかって……もうあんたに会えないんじゃないかって……そう思うと、すごく、怖くて……」


「…………」


 周介は何も言えなかった。


 魔石に取り込まれるあの時、周介は自分が死ぬことも覚悟した。覚悟して、最期はその場にいたすべての敵を道連れにするつもりで能力を発動した。


 もう、瞳には会えないことも、全て覚悟して。


 だが瞳たちは違う。そんな覚悟などまったくない状態で、ずっと不安な状態でい続けたのだ。


「もう嫌なの。あたしは……あんたがいなきゃ……ダメだって……思い知らされた」


「……瞳……けど俺は……俺はさ……こんな風になって……それに……ドクから聞いただろ……この世界の……人たちを、山ほど……」


 考えないようにしていても考えてしまう。思い出してしまう。ドクがいった、億単位の犠牲者のことを。


 億単位などと言われても想像もできない。具体的にどれほど、ということがそもそも想像できないのだ。


 数字だけで言われても周介のような普通の感性を持っている人間にとって億単位の人間など、ただの数字のようにしか思えない。


 ただ、それがとんでもないということくらいはわかる。


 そんなことをした人間と、瞳が一緒にいないほうがいいのではないかと、そう思ってしまうのもまた事実だった。


「関係ない。あたしは……あんたと一緒にいる。あんたと一緒にいたい。お願い……お願いだから……あたしを一人にしないで……!」


 自分からあまり我儘を言わない瞳が、こんな風に懇願するのはずいぶんと珍しいことだ。


 周介の服の裾を掴みながら、僅かに震えている瞳を見て、どうするのが良いのだろうかと周介は悩んでしまっていた。


 自分が今後どうなるのか、そのことも含めて、真剣に考えなければいけない。


 どんなに考えても答えは出ないが、今は生きていられたことを喜ぶべきなのかもしれないと、周介は考えていた。


 その考えが、甘かったと気付かされるまで、そう時間はかからなかったが。


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― 新着の感想 ―
[良い点] まだ周介のメンタルを落としにかかるか…! この作者、イイ!
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