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アロットロールゲイン  作者: 池金啓太
三十四話「光を追って。光に縋って」

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「瞳、放してくれるか……?」


「周介?」


「……ドクのところに行く。聞かなきゃいけない事がある……!」


 周介は瞳を引きはがすとベッドの上から起き上がり立ち上がる。


 その時に、部屋の一角にあった鏡で自分の体の状態を再認識する。


 長く伸び、僅かに蒼く変色した髪、そして体のいたるところにできた奇妙な幾何学模様。その両目は金色に代わっていて、まるで別人になってしまったかのようだ。


 コスプレでもしているような外見の変化に周介はため息を吐いてしまう。


「待って周介、せめて服着て。ほら。あんたほぼ下着状態なのよ?」


「あー……そっか……悪い」


 周介は今自分がほぼ下着姿だったことを思い出す。下着に肌着。しかも肌着に至っては背中の部分が大きく破れてしまっている。こんな状態で出歩いたらさすがに顔をしかめられるかもしれなかった。


 瞳が出してくれたシャツを羽織り外に出ようとすると部屋の扉が勢いよく開く。その向こう側にいたのは知与だった。


「周介さん。まだ横になっていないとダメですよ。体力だって回復していないでしょうから少しでも休んでください」


 恐らくは索敵で周介が動こうとしていることを把握したのだろう。扉の前で仁王立ちしてそこから退く気配はなかった。


「話を聞いたらすぐにでも休む。今は、先に聞かなきゃいけない事がある」


「ダメです。休んでください。話をするというなら、仕事が終わった後で先生をここに呼んできますので、それまで待っていてください」


「待てない。今すぐに確認する。しなきゃいけないんだ」


「したところで、今周介さんにできることはありません。そうでしょう?」


 知与がここまで強情になるというのは珍しい事だった。


 よほど、周介には聞かせたくないことがあるのだろう。


 とはいえ、周介だってもうそのことを知っている。ドクが言わなくとも、フシグロが教えてくれた。


 既に何が起きたのかおおよその話を聞いた。周介が聞きたいのは、瞳やフシグロでは言えないような部分だ。


 大人として、ドクならばそれを言ってくれる。周介はそう確信していた。


「お嬢、どうしたんすかいきなり……って、兄貴、起きて大丈夫なんですか?まだ休んでたほうが……」


「玄徳。今ドクはどこにいる?」


「え?あぁ……今は……メンバー集めて今後の話を……」


「そこに連れて行ってくれ。ドクに話をしなきゃいけない」


 周介が知与を押しのけようとするのを玄徳もまた止める。


 玄徳だって周介はまだ休んでいたほうがいいと思ってるのだ。


「待ってください兄貴。まだ万全じゃないでしょう。せめて今日は休んでください。どっちにしろ、船の修復が終わるまでは戻ることだってできませんよ。まだ休んでいられます」


 休むだけの時間はある。


 だが休む前に確認したいことがあったのだ。確認しなければいけない事があるのだ。


「……こんだけの状況になったんだ。俺が、それを確認しなきゃいけない。玄徳、今回のこと……俺は……」


 その言い分から、そして周介の反応から、世界がどんな状況になっているのかのおおよその状況を把握したのだということを理解した二人は一瞬怪訝な表情をする。


 どうしたものかと迷う知与に対して、玄徳は意を決する。


「兄貴。差し出がましいことを言わせてもらえれば……今兄貴にできることは休むことだけです。焦って何を聞いたって、まだ何かができるわけじゃありません。起きたばかりで混乱してるんですから、少しでも休んでください」


「でも……」


「でもでもなんでも、とにかく休んでください。先生は後で俺が声をかけておきます。兄貴の体は今どういう状況かもわからないんです。今焦って動いて、取り返しのつかないことになったらどうするんですか」


 玄徳は周介の肩を掴むと踵を返させて無理矢理部屋の中に押し込むとベッドの上に横にさせる。


 力では周介は玄徳には敵わない。当たり前と言えば当たり前なのだが、こういう時は年上なのだなということを実感する。


「それに、戻ったら忙しくなりますよ。きっと休む暇もないでしょう。今しかゆっくりできませんからね。それじゃ、先生に声をかけてきます。姉御、兄貴をしっかり見張っててくださいね」


 玄徳はそういって知与を伴って部屋から出ていく。


 瞳でも知与でも止められなかった周介の行動をこうもあっさり止めるあたり、玄徳は本当に慣れている。


「……周介、玄徳の言う通り、今は休んでおきましょう?今話を聞いても、できることはないんだから」


「……滅茶苦茶気を遣われてるってことはわかった……たぶん、いま世界中大変なことになってるんだな……俺が思ってる以上に」


 フシグロの言葉だけではどのようなことが起きているのかはそこまでイメージできなかった。


 ドクに聞けば、具体的にどのようなことが起きていて、どのような被害が出ているのかもわかるはずだ。

 それを確認したかった。そして、それをどうにかしなければならなかった。


 自分の責任だと、周介はそう考えていた。


 あの時逃げていれば、こんなことにはならなかったかもしれない。いや、もっと別のタイミングでどうにかできたかもしれない。


 そんなことがぐるぐると頭の中をめぐって、まともに思考などすることはできなかった。


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