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アロットロールゲイン  作者: 池金啓太
三十四話「光を追って。光に縋って」

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「どう思う?周介君の状態」


 ドクは一度周介の部屋から引き上げると、医療関係者、そしてラビット隊の面々と周介の話をしていた。


 周介は今は横になっている。起きたばかりだったが、恐らく疲労がたまっていたのだろう。肉体的にも精神的にも多大な負荷がかかっていたことは間違いないのだ。


 その体の状態を心配してか、今は瞳だけが部屋に残っている状態である。


「少なくとも、まともに会話はできてたな。正直、目が覚めるとは思ってなかったから、だいぶ驚いた」


「髪がめっちゃ長くなってたっすね。あれ、大丈夫なんすか?」


「あと、兄貴の目、両目共に色が変わってましたね。両方金色になってました」


「え?それは気づかなかった。後でちゃんと確認しないと……」


 ドク自身もまだ見逃した部分があったことに少しだけ恥ずかしくなりながらも、ドクはため息を吐いてから全員を見渡す。


 ラビット隊の面々だけではなく、医療関係者もいるこの場でしなければいけない事があった。


「周介君の体組織は、少なくとも人間のそれとは異なっている。今後、彼を治療することは難しくなる。これまで以上に彼の体調の変化には気を付けてほしい。ちょっとした怪我だって、致命傷になるかもしれない」


「エイド隊の治療ができなくなるかもってことですか?」


「可能性はある。何せ彼の体にエイド隊の能力が効くか、試してみないとわからないんだ。それに……今は触れても大丈夫だけど、触れた人間が過剰供給状態を起こさないとも限らないんだよ?」


 今の周介は魔石の塊のようなものだ。どれほどの魔石が周介の体に取り込まれたのかは定かではないが、超高濃度のマナを蓄積していることは間違いない。


 今あのように人の形をしているのが不思議なくらいだ。いくらスカァキ・ラーリスが能力を使い続けたからと言って、人としての意識が保てていることも、奇跡としか言いようがない。


「ドク、大将の状態、どうなってるのか調べたほうがいいよな?」


「もちろん。けど、同時に少し困ってもいる。彼のことを表に出していいものかどうか」


「どういうことです?」


「……百枝周介という人物のあの外見。隠せると思う?」


 長く僅かに蒼みがかった黒い髪。両の目は金色に変化し、その体には筋のような幾何学模様が浮かび上がっている。


 髪の方はまだ被り物をするか、切ってしまえばいい。目も今までと同じようにカラーコンタクトをつければいいだろう。


 だが、体に浮かび上がっているあの文様は別だ。


 いくら隠そうとしても限度がある。さらに言えば節々から突き出ている骨と融合してしまっている魔石も問題だ。


 あんなものが出ていて、まともな人間であると思ってもらえるほうが少数だろう。


「それに、彼は学校もずっと休んでいたことになるし、寮にもずっと帰っていなかった……あの状態を見て、無事でいられたと思えるかい?あの状態で、また普通の日常に戻れると思うかい?」


「……先生はなにが言いたいんですか?兄貴が戻りたいと思えば、戻ればいいじゃないですか」


「そうもいかないだろう?明らかに異なる外見……能力に関して隠しておくのは難しくなる。最悪の場合、周介君は今回の災害で死亡したことにする。もちろん普通に生活できるように努めるよ?でも、今の学校に通うのは……たぶん、難しいだろうね」


 今の学校には周介の知り合いが山ほどいる。その変化が気になるものもいるだろう。それが一体何なのか、能力者であると気付かれるのも時間の問題だ。


 能力者であることがばれたところで日常生活が送れないわけではない。だが、周介の場合はラビット隊という立場も持っている。そこが問題だった。


「それに……周介君の存在を普通に明らかにした時、一番まずいのが、今回の機械の暴走の話になる」


「……大将が機械暴走の原因だって、知られることが問題なのか?」


「そう。その事実を知ってる人間はかなり限られてる。世界的に公開した情報もかなり制限したからね。うちの拠点の中でも、相当限定的だ。そこで情報を封鎖したい」


 肉体の変化もそうだが、今回の機械の暴走で周介が原因だったと危惧されることの方がドクは恐れていた。

 周介だけの責任にするつもりなど毛頭ない。だが第三者から見てどのように受け取られるかもわからないのだ。


 周介を守るためにも、ここで周介の情報を止めるべきだと考えていた。


 百枝周介という人物の情報から、ラビット隊に繋がり、そして世界の崩壊につながることをドクは何よりも恐れていた。


「でもドク、若だって、普通の学校生活を送る権利があるはずっすよ。あんなに頑張って、今までずっと、そうしてきたのに……」


「……そうだね。気の毒だと思う。けど、もし周介君の事実が明るみに出てしまったら、周介君は今後ずっと、世界中の怨嗟を向けられ続けるんだ。そんなのは僕は許せない。彼は被害者なんだ。断じて加害者なんかじゃない。恨まれる理由なんてあっちゃいけないんだよ」


 理屈ではその通りだ。だが、人の感情とは時として本来向けられるべきではない場所にまで向けられる可能性がある。


 それは周介とて例外ではない。仮に周介が原因で機械の暴走が起こったと知られれば、今回犠牲になった多くの者の恨みが周介に向けられることになるだろう。


 それがたとえ自分たちを守ってくれていた、守ろうとしてくれていた人物だろうと、関係がないのだ。


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