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アロットロールゲイン  作者: 池金啓太
三十四話「光を追って。光に縋って」

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「あのロボット……前に一度戦ったことあるけど、水の中でも行動できるの?」


「あれは大将が動かしてるだけの張りぼてみたいなもんだ。中の電子機器はともかく、それ以外のところは水に濡れようがお構いなしだな」


「ってことは、海の底からでも余裕でこっちに来るってことか……一体何が目的だろう……?」


「さぁな。あれを動かしてるのは大将だ。何を狙ってるかなんて……そもそも考えることができてるかどうかだって怪しいだろ」


 あの状況ではと猛は今の周介の状態を確認する。


 魔石に肉体が取り込まれている状態で意識があるのかどうかも怪しい。体の背面部分は完全に魔石の中に取り込まれてしまっており、磔になっているような状態だ。


 魔石は僅かに発光し続けており、周介の能力が発動していることが見て取れる。


 魔石に取り込まれていない肉体部分にも僅かに蒼い光を放つ筋のようなものが形成されており、その肉体がどんどん浸食されているのが見て取れる。


 時間はない。


 あの体がすべて魔石に取り込まれてしまえば、もう二度と助けられなくなる。そんな予感が全員の中にあった。


 Δは海に飛び込んだが間違いなくこちらに来ている。あのΔがこの場所に来た時何をするかなんて想像もできないのだ。


 ただ、猛の中にだけ、一つの可能性、ある嫌な予感が存在していた。


 もし、周介ならこんな状況でどうするか。あのような状態で、何をしでかすか。


 ずっと見てきたのだ。ずっと一緒に行動してきたのだ。毎回振り回されてきたのだ。毎回冷や汗をかかされてきたのだ。


 猛には、何となくわかってしまっていた。


 もし想像通りであったなら、万が一、そのようなことを考えていたら。


 猛はこの救助部隊に入れてもらう時、瞳たちに周介のことを託されていた。


 自分たちは現場に行けないからと、後は頼むと。


「……ったく……こっちの身にもなれってんだよ……」


 その願いを無下にはできない。何より猛自身、今度こそ周介を守るべきだと、助けるべきだという考えを強く抱いていた。


 小太刀部隊を守るのも大太刀部隊の仕事なのだと、猛は理解している。そしてそれを今こそするべきなのだと自分自身に言い聞かせる。


『射程距離に入りました。これよりミーティア隊と連動して直接火砲支援を行います』


 知与の声が無線で届くと同時に、島に唐突に爆発が発生する。能力によるものではない。衝撃波を伴って発生したそれは兵器によるものであると猛は直感的に理解していた。


「場が混迷してきたね。ここでエッジリップが動くかどうか……動いてくれればいいんだけども……」


 大門の願い虚しく、エッジリップはその場から動く気配を微塵も見せなかった。辺りに爆音が鳴り響いていても我関せずといった様子で、どこか虚空を見つめ続けている。


「動かねえな……誰か囮になってあいつを引きはがすか……あるいはここで事を構えるか……」


「いや待って、誰か飛んでくる」


 大門が誰よりも早くそれを察知し全員で隠れると戦闘の余波か、あるいは単純に吹き飛ばされたからか、敵の能力者の一人が甲板部分に吹き飛ばされ、コンテナに何度もぶつかってちょうど魔石の近くで止まる。


 なにやら日本語ではない言語で喚き散らしている。猛にはその言葉が何を言っているのかさっぱり理解できなかった。


「だいぶ怒ってるね……僕らの襲撃はかなり予想外だったみたいだ」


「言ってることわかるのか?」


「ニュアンスだけならね。これでも海外出張多いから、ちょっとは勉強するさ」


 問題の多いオーガ隊と違ってBB隊は戦力としても申し分ない上に品行方正であるために海外への出張も何度もこなしている。


 そういう時は大抵通訳がついていてくれたが、大門も自分で別の言語の勉強などはしていたのである。


 吹き飛ばされてきた能力者は強化系であるからか、コンテナにものすごい勢いで何度もぶつかったというのに平然としている。


 そして魔石の前に座っているエッジリップを見かけると、腹を立てたように叫びながら近づいていく。


「なんだ?なんていってる?」


「サボってんじゃねえよゴルァ的なことを言ってる。こいつのせいであいつらが来たんだろ的な事言ってる」


「こいつって、大将の事か?」


「たぶんね」


 能力者がエッジリップに食って掛かり、辺りのコンテナを殴りつけてうっ憤を晴らすその勢いのまま周介にも手を伸ばそうとした瞬間、それは起きた。


 船の上、甲板とその上に置かれているコンテナに一筋の線が走る。それが刀と能力による斬撃であると理解できたものはどれほどいるだろうか。


 伸ばされた手が、重力に引かれて甲板に落ちる。


「子供に、手を……出すな」


 目から赤い光を漏らしながら、周介に攻撃を仕掛けようとした能力者に対して、何のためらいもなく攻撃した。


 腕を斬り落とされたと認識できたのは、その腕から血が噴き出た瞬間だった。


 腕を押さえて悲鳴を上げる能力者が崩れ落ちるのを大門たちは驚愕の表情で見ていた。


 敵だろうと味方だろうと、攻撃するものを許さない。


 正気ではないその男の狂気に、大門たちも僅かに冷や汗を流していた。


「仲間割れか?こっちからすりゃ好都合だけど」


「そんな都合が良さそうなものじゃないね……なんだあれ……明らかに殺す気で斬りかかったよ」


 大門はその目ではっきりと見ていた。腕が切れたのはあくまで叫びながら近づいた能力者が回避したからこその結果だ。


 エッジリップが放った攻撃の軌跡は、その体を両断する位置で振るわれていた。


 強化がかかっているであろう能力者の体でさえも容易に両断するだけの威力をあの攻撃は持ち合わせているということだ。


 厄介極まりない。


 腕を失った能力者は半狂乱になりながらもエッジリップ目掛けて襲い掛かろうとする。


 ここで逃げていれば、命は助かったかもしれない。だが同時に、船に入っている斬撃の痕からして、もはや逃げられないと悟ったのかもしれない。


 襲い掛かり、攻撃しようとした、その延長線上に周介がいたのが、彼にとっての最大の不運だっただろう。

 周介への攻撃をトリガーに、再びエッジリップの持つ刀が振るわれる。


 今度は、腕だけでは済まなかった。


 腰が、足が、胴体が、それぞれ両断されていく。


 強化が施されていようといまいと関係ないというかのように、簡単にその体がバラバラにされ、その部位が甲板の上に転がっていく。


 甲板上を大量の血が溢れていき、周介の目の前には人間だったものの部位が内外問わずぶちまけられていた。


 そしてエッジリップはゆっくりと周介の前に戻ると、再び先程のように座っていた。


「あれはダメだね。意識があるのかないのか」


「あの刀野郎が?」


「うん。たぶんだけど正気じゃないんじゃないかな?特定の行動に対してのみ反応してるみたいだ。今は……ラビット01を守ることだけに反応してるみたいに見えた」


 先程のエッジリップの言葉を大門ははっきりと聞いていた。


 子供を守るようなそんな言葉。少なくとも手を出さない限りは手を出すことはないのだろう。


 あの赤い目。過剰供給状態を引き出した故の後遺症か何かか。大門は詳しい情報を知らなかったが、それでもあの状態なら周介が害されるという可能性は低いと考えていた。


「一番いいのは射程外からの狙撃だね。射程距離に限界があって、特定の行動にしか反応しないなら、一方的に攻撃することもできるはずだ」


「味方もあっさり殺すくらいだ……確かに正気じゃないとは思うけど……っ!?」


 唐突に轟音とともに船が揺れる。完全に座礁して動くはずのない船が揺れるその理由。戦闘が激しくなっているのだろうかと思うのと同時に、猛には思い当たる点が一つあった。


「もう来たのか……!」


 猛の危惧は当たっていた。


 海水の中から顔を出し、一歩一歩踏みしめるように島に上陸する鉄の巨人。


 ラビットΔがやってきたのだ。コックピットの中に入った海水が、地上に出ると同時に流れ出ていく。地面を踏みしめる度に周囲に振動が響き渡る。


 巨大なロボットがやってきたという事実に、組織に所属していない全ての能力者、敵側の陣営は目を丸くしてしまっていた。


 その隙を見逃さずに、組織側の人間は一気に攻勢を仕掛ける。


「やっぱりあれは陽動としては最高だよね。視線を集めるのには最高だよ」


「それだけじゃねえよ……あの野郎……マジでやる気か……!?」


 猛は即座に能力を発動していた。


 唐突に戦闘状態に移行した猛に大門たちは驚いていた。何をする気なのかと。


 その答えはすぐに分かった。Δは大きくかがむと跳躍し、船の壁面を掴みながら甲板の上に躍り出てきたのだ。


「そうか、自分のところに?自分で自分を助けようとしてるとか、そういうこと?」


 Δを周介自身が操っているのであれば、そういうことも可能なのかと大門は納得していた。

 だが、猛はその考えを否定する。


 もし、周介がそんなことを考えるような人間だったら、猛としてもどんなに楽だっただろうか。


 周介が自分の身を最優先にできるようなまともな考えを持っていたのであれば、どんなに助かっただろうか。


 周介は、ラビット隊の隊長は、猛が自分より上だと認める男は、そんな真っ当な考えをする人間ではないのだ。


 頭のネジが何本か外れている。そんな風に思えるような行動をとるのが周介なのだ。


「大将はそんなことするような奴じゃねえよ……!そんな奴だったらどんなに良かったか!?」


 船の上に置かれているコンテナを蹴散らしながらΔが進む。猛は既に準備に入っていた。


「大将は、自分で自分を殺す気だ!!」


 一人では絶対に止められない。それを確信しているが故に猛は走る。周介のいる方ではない、向かう先は、Δのいる方だ。


 瞬間、猛が危惧していた通りΔは勢いよく走り出す。そして自らの重量を武器にするために拳を振り上げる。


 猛の言葉を証明するように、明らかな殺意を持って襲い掛かるΔ。その行動を見て大門たちでさえ驚愕を隠せなかった。


 死んだ場合、一部の例外を除き能力は解除される。今回の場合においても、その可能性は非常に高い。


 自分の能力が世界中に及んでいることを理解したうえで、周介は、Δが来たら自分で自分を殺すことを選択したのだ。


 仲間に助けられるよりも早く、もう手遅れになっているであろう自らを自分自身で始末をつける為に。


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― 新着の感想 ―
[一言] 流石はラビット隊で最前線で盾になり続けた男は違いますね。 よく分かってらっしゃる。今度こそ守ってくれ
[良い点] そういう奴だった…!!  猛の踏ん張りどころだー!
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