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アロットロールゲイン  作者: 池金啓太
三十四話「光を追って。光に縋って」

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 鬼怒川が戦い方を変えると、大門はそれを察知していた。


 爆発を切り裂くように時折発生する衝撃波。どのようにしているのかは不明だが、それが鬼怒川が行っていることを大門は即座に理解する。


 そして先ほどまで動くことがなかったインクバォが動き回り、鬼怒川に対しての意識が更に集まっていることを感じ取り、全員に合図を出す。


「そろそろ行くぞ!装備の最終確認後出撃!救助部隊は水中から進行!タイミングを見て陽動部隊出撃!連絡取り合ってタイミング間違えるな!?」


 大門の言葉にそれぞれの部隊の人間が野太い声を上げる。


「ドク、船の位置は誤らないように。近づきすぎると沈められますからね?」


「わかっているよ。その辺りは見誤らない。でも大丈夫かい?あんな中に突っ込んでいくなんて……」


 ドクからすれば、まるで天変地異でも起きているかのような光景があの島で巻き起こっている。


 近づけばそれだけで命が失われるかもしれない。そんなレベルの戦闘が行われているというのに、大門たちは迷うことなく出撃の準備を進めていた。


「むしろ、それだけ余裕がなくなったってことですよ。それでもこっちのことを意識しているでしょうが、こちらに攻撃するだけの余裕はなくなっています。さすがというほかないですね」


「巻き込まれたりしないのかい?周介君がどこにいるかもわからないのが厄介だけど……」


「大丈夫です。おおよその見当はついてますから。問題は、あれ以外の戦力がどれくらいいるかですね……少ないと良いんですけど」


 少ないと良いと言いながらもそんなことはあり得ないだろうと大門は何となく諦めているような節があった。


 こんな状況にしたような連中が、戦力を控えていないはずがない。


 インクバォという強力な戦力を置いていったのはある種必然というべきか。それだけ相手がこの場所を、引いては周介を重要視しているということがよくわかる。


「陽動部隊や救助部隊にも言っておくけど、敵は可能な限り生かして捕らえてくれるかい?仮に殺しちゃうとしても、頭部だけは無事でいてくれるとありがたいな」


「善処しましょう。向こうが無茶苦茶やり出したら、その時は諦めてください」


 大門の目的はあくまで周介の救助。それ以外は二の次三の次だ。


 周介を助け出す以上の目的はない。はっきり言って現時点で相手の戦力がどれほどいようとすべて倒せばいいとさえ思っているくらいだ。


「それよりドク……あのロボット、なんかさっきと体勢変わってません?」


「ん。そうなんだよね。何をしているのか僕にもわからないんだよ。周介君が何かしようとしてるっていうのはわかるんだけどね」


 ずっと船の甲板で仁王立ち状態だったΔは、何度か屈伸をするような、足場を確かめるような動きをしている。


 いったい何をしたいのかは不明だが、それ以外の動きをすることはない。


 暴れる様子もないし、物を壊す様子もない。多少邪魔ではあるがそれだけだ。


「あれ、百枝君が動かしてるんですよね?」


「意識があるかどうかは定かじゃないけどね……大門君、頼むよ」


「はい。任せてください」


 救助部隊の指揮をするのは大門だ。


 非常にデリケートな判断が求められる状況で、大門ならば問題なく対応してくれるだろうとドクとしても安心だった。


「……どうやら、宇佐美君も救助部隊として動くようだね」


 瞳に自由に動いていいと言われている猛も、救助部隊の側として動くらしい。


 大門としても異論はなかった。周介を助けるという目的のためならば、猛はいろいろと役に立ってくれるだろうということは理解できていた。


「変貌型能力者はいくらいても有り難いですよ。特に彼の場合現場経験豊富ですから。助かります」


「……暴走しないか心配だけどね。周介君を助けるためだから」


「その辺りは大丈夫でしょう。あれだけ現場に出てたんです。状況判断はできると思いますよ」


 猛の経験値は大門に比べれば劣るものの、それでもマーカー部隊として活動した実績は本物だ。


 特に周介のような何をするかわからないような護衛対象と共に外部で活動していたこともあって、とっさの判断力はかなり高い評価を得られるようになっている。


「そう言えば笹江君は連れていかないのかい?」


「姫ちゃんは一緒に行くと危ないので、この場所で強化だけかけてもらいます。あとは船に残ってもらう形で。しばらく強化はもちますから」


 笹江は能力の強化こそできるものの、現場に行って巻き込まれる可能性もあるということで船に残る形になっている。


 あれだけ激しい戦闘が行われている状況では、純粋な戦闘要員以外はほとんど役に立つことができないだろうことを多くのメンバーが理解していた。


「それでは行ってきます。細かく連絡は入れますので、何かあれば連絡ください」


「うん、気を付けてね」


 大門は頷いてから救助部隊の面々を引き連れて船から海へと降りていく。


 救助部隊は潜水装備を使って海の中から島へ上陸。そして上陸するタイミングで陽動部隊が上空から降下するような形でタイミングを合わせる予定になっている。


 潜水用の装備を身につけて全員が海の中を進んでいく。強化能力を保有している面々が先導して勢いよく泳いで強化のかかっていないメンツを牽引している。


 それなり以上に離れている島までの遊泳になるが、驚くほどに早く到着することができていた。


「こちら救助部隊、もうすぐ島に到着します。陽動部隊、出撃願います」


『了解。陽動部隊。出撃開始』


 ミーティア隊の能力によって射出される陽動部隊の面々が空中に飛び上がっていき、上空からパラシュートなどを使って降下していくのが海面からも確認できた。


 大門はその様子を確認してから周辺状況を確認しながら一気に上陸し物陰に隠れていく。


 相手がどこまで大門たちの存在に気付いているのかはわからない。隠れても意味がないかもしれないが、取れる手段はすべて取っておく必要がある。


 パラシュートによってゆっくりと降下してくる陽動部隊の人間は鬼怒川の援護をするべく展開し始めている。


 救助部隊が潜入していることがわかっているため、救助部隊が見つからないように派手に戦闘をすることが目的だ。


 そして、今鬼怒川と相対しているインクバォ以外にも能力者がいたのだろう。大規模な戦闘の音が島中に響き始めていた。


「やっぱりほかの能力者もいたか。息をひそめてたんだろうね……」


「そりゃあんなのがいきなり襲い掛かってきたらそうなるわな……相手には心から同情するね」


 まったくだと、救助部隊の何人かが同意しているのをしり目に、大門は島の周辺の確認に勤めていた。


 周介がいるとすれば、建物か、あるいは島の中心か、あるいは座礁しているあの船のあたりであると考えていた。


 建物の方は鬼怒川がおおよそ壊していたためにあのあたりにいないのは何となくわかっている。


 となれば島の中心か、あるいは座礁している船の上だ。


 船の方はかなり大きく破損しており、火災があったからか、船の外装部分はかなり焼け焦げている。


 船体の一部には穴が開いており、もう船として航行することはほぼ無理だろうといえるレベルの有様だった。


「船の中か、あるいは島の中心か……とりあえず船の中を調べるか」


「索敵手がいれば楽なんだけどな……行こうぜ。船の中なら外から見つかることも少ないだろ」


「島の真ん中だった場合時間ロスだ。ここは部隊を二つに分けるか?そのほうが効率的だろ」


「確かに。部隊を分けよう。スピード勝負だ。僕らは船を捜索する。こっちは少数でいい。島の中を捜索するチームをむしろ多くする。ただし見つからないように注意してね。ただでさえ戦闘が激化してるんだから」


 大門は簡単にチーム分けをすると、それぞれが行動を開始する。


 大門は船底の部分に空いている穴から船の中へと侵入していく。


 トイトニーの証言から、この船が貨物船だということは聞いていた。内部の具体的な構造に関してはトイトニーの証言からはまともに情報を得ることはできなかったが、最後に周介たちが向かったのは甲板で、魔石が存在したのも甲板上だったと聞いている。


 周介がいるとしたら、甲板の上か、その近くのどこかだ。


 大門は数名を引き連れて船内を探索する。その数名の中には猛もいた。


 島の中心かこの船の甲板近く。どちらが周介のいる可能性が高いかと聞かれたら、この船の中のどこかの可能性が高い。


 だからこそこの船の捜索に猛を連れてきていた。


「随分と派手な火事があったみたいだね……中も黒焦げだ……」


「大将がなんかやらかしたんだろうな」


「そうなのかい?彼がそんなことができるとは思えないけど」


「やろうと思えばできるだろうよ。マジで何やらかすかわからねえからな……守る側からすれば勘弁してくれって感じだけどよ」


 猛も周介との付き合いがそこまで長いわけではない。だが出向してからずっと周介の動きに振り回されてきたのだ。


 その苦労は身に染みている。


 きっとこの船も、周介のやろうとした何かに振り回された結果なのだろうということは何となくわかっていた。


 トイトニーの証言の中に、周介が逃がしたという点と、周介が何か叫んでいたというものがあった。


 それがどういう意味を持っているのか。猛は何となくだが、わかってしまった。


 二人一緒に死ぬか、片方だけでも生かすか。


 周介ならば絶対に後者を選択するだろうと、猛にはその確信があった。


 そんな周介がこの船を操れば、何かしらの無茶はする。座礁しているのも間違いなく周介の仕業だ。


 この火事も無関係ではない。猛は船の中の焼け焦げた壁を撫でながら渋い顔をしていた。


「どうする?まずは上に出てみるか?」


「そうだね。彼がいるとしたら甲板上部付近だ。あとはどうやって救出するか……」


 大門も猛も、周介がどのような状況なのかを何となく予想はしている。


 問題はどのレベルまで魔石と融合させられているかという話になる。


 腕や足程度であれば、その部分を切り落としてでも助け出すことができるのだが、実際どの程度なのかは見てみないことには分らない。


 三メートルほどの巨大な魔石。運び出すのだって相当苦労するだろう。


 大門たちは船の中を駆け抜けながら周介を探し続けていた。


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