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アロットロールゲイン  作者: 池金啓太
三十四話「光を追って。光に縋って」

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 大門の読み通り、鬼怒川は高速で動きながら島の中の状況を把握しようと努めていた。


 これだけ派手に動き回って、なおかつ空中に放り出されるなど隙も作りだしているにもかかわらず、自分に攻撃が一向に飛んでこないのだ。


 遠距離攻撃ができないというだけの話かもしれないが、戦闘を続けているにもかかわらず先ほど確認できた人影が自分に対して攻撃だけではなく何のリアクションもしてこないことに鬼怒川は疑問を抱いていた。


 爆発がその体を包む中、鬼怒川は考える。


 そろそろ相手も鬼怒川の能力の性能を把握してきたころだ。そしてそれは鬼怒川も同じ。速射性能、射程距離、威力、操作。どれをとっても一級品の能力だ。組織内でもこれほどの能力を、これほどの精度で扱える能力者は数えられる程度だろう。


 だが、だからこそ鬼怒川が行う対応はシンプルだった。


 鬼怒川の能力はできることが少ない。能力自体が単純であるために、能力そのものでできることは肉体を変化させることと、体を使って暴れることくらいだ。


 おおよそほとんどの強化系、変貌系の能力者が、鬼怒川と似たような考えを持っている。


 そのおかげというべきか、できることが少ないが故に、少ない選択肢の中でどのように対応するのかというところが、強化系変貌系の能力者の特徴でもある。


 鬼怒川は辺りの瓦礫を投擲しながら、一歩一歩踏みしめるように距離を詰める。大門の予想した通りの対応だった。


 爆破が鬼怒川本人を襲うが、鬼怒川は足の裏から杭のように突き出した角を地面に突き刺して吹き飛ばされないようにしている。


 徐々に距離は詰まっていく。


 爆発という効果の性質上、至近距離で使うことはできないはず。もし至近距離で使おうものなら、自分自身も巻き込んでしまうことになる。距離を取ろうと動くのは間違いない。


 ただ、相手は空を飛んでいたという報告も上がっていたことから、何らかの飛行手段を有していても不思議はない。


 一気に距離を空けられることを危惧した鬼怒川は、どうしたものかと考えだす。


 鬼怒川には飛行能力がない。跳躍してそこから上手く腕などで軌道を調整することはできても、できるのはそこまでだ。推進力を得るというのがまず難しい。


 腕の形を変えて、羽のようにすれば何とか、その場に飛ぶくらいのことはできるかもしれないが、それ以外のことができなくなるのでは逃げられてしまう。


 遠距離攻撃の手段も少ないために、どうしても空中に逃げられると面倒なことになる。その辺り何とかならならないだろうかと、鬼怒川は歩を進める。


 葛城校長ならばナイフなどを投擲して空中に出るだろう。むしろあの人はそちらの方が得意分野だ。


 同じようなことができればよいのだがと考えて、ふと、葛城が刀を構えて振り下ろしている時のことを思い出す。


 刀を振り下ろした時に僅かに生じた風。独特の音を鬼怒川は覚えていた。


 鬼怒川は、いや鬼怒川に限らず多くの強化、及び変貌系の能力者は武器を使うことができない。


 単純に強化された肉体に耐えられるだけの武器が存在していないのが理由だ。


 どのような武器も、強化されている肉体に耐えられずに壊れてしまう。


 武器を使って戦うということは、武器が壊れないように戦わなければいけないということだ。つまり、その分攻撃力が落ちるのである。


 だが、鬼怒川は自分の作り出された肉体を見て考える。


 本気を出した鬼怒川の肉体は、加減状態と違って鋭く巨大な角がいくつも生えている。拳部分についているメリケンサックのように見えなくもない突出した角。


 これも別に鬼怒川が意識して作り出したわけではなかった。本気を出すとこうなってしまうだけで、最初からそう言うものだと思っていた。


 では、こういうのはどうだろうかと、鬼怒川は笑う。


 周介を真似て、新しい腕を生やすことだってできたのだ。それなら、できるはずだと、鬼怒川は右腕に集中する。


 右腕に力を込めていくと、腕から新しい角が生えてくる。鋭く、だがどこか荒々しい、細身の角だ。


 前腕部から、手の先に延びるような形で伸びた角は、刃のように鋭くなっており、形状的に見れば、角というより、刃のように見える。


 手の先からさらに六十センチほどまで伸びた角は手の動きを阻害することもなく、十分な硬度を維持したまま鬼怒川の腕に生え、馴染んでいた。


 手で持つことはできないが、鬼怒川は葛城のそれを真似て構え、そして振り下ろす。


 腕のふりだけで音速を超えているからか、角の刃の軌跡を描くかのように衝撃波が発生し、島の一部を破壊していく。


 射程距離はそう長くはない。遠くなればなるほど、その衝撃波は威力を弱めていってしまうだろう。


 だが、十分だった。


「いいね、刀っていうには、ちょっと見た目があれだけど……」


 葛城を真似たからこそ、刀のような形になっているが、実際はただの角だ。刀のような鋭さも、洗練さもあるはずもない。


 だがその強度は鬼怒川の能力によって生み出されただけあって、本物の刀とは比較することすらできない。


 全力で振るえば、さてどうなるかと鬼怒川は腕を振り上げ、思い切り振り降ろす。


 地面にも叩きつけられるほどの勢いで振り下ろされた角刀は地面をたたき割り、衝撃波を発生させていた。


 一直線に、刀傷のように島に刻まれた衝撃波の跡。その先にいたであろうインクバォは、爆破で防ぐのではなく、かなり離れた場所に高速で移動し回避していた。


「ようやく動いてくれたね。遠距離攻撃……っていうにはあんまりに雑な攻撃だけどさ……ちょっとは脅威に思ってくれたかな?」


 脅威、などという言葉で片づけられるようなものではなかった。


 振り下ろされた角刀の一撃は、叩きつけた瞬間に地面を叩き割った。そしてその軌跡に沿うような形で衝撃波が生まれていた。


 周りに存在している爆炎や土砂をまき散らしたことによる砂煙。それらすべてが角刀の軌跡によって作られた、線状の衝撃波に乗って襲い掛かってくるのだ。


 もちろん距離が開けばその分威力は減衰する。だが、細かな砂利や粒子などを含んだ衝撃波を体で受ければどういう被害が出るか、想像に難くない。


 ただ吹き飛ばされるだけならばまだいい。体中に襲い掛かる砂などは、十分以上に殺傷力を持った武器になり得る。


「その足……いや、靴かな?随分と妙なことするんだね」


 鬼怒川は先ほど高速で移動したインクバォのからくりを見抜いていた。


 爆破の能力を持っているインクバォがいったいどのようにして飛行、ないし高速移動していたのか。


 鬼怒川の目には、足の裏、正確には靴の裏から爆破が起きたように見えていた。


「上げ底の靴とか、身長が低いことを気にしてるのかな?そんなに気にするほど背は低くないように見えるけど?」


 インクバォの履いている靴。そこに種があるのだ。


 靴そのものが特注の金属製。そして靴の底を上げ底にして、上げ底部分を空洞にする。地面と接する部分には何もつけないことで、筒のような形状にするのだ。


 そこに爆破を起こせばどうなるか。


 大砲の原理と同じだ。爆発などを、力を外側に向けようとしたとき、放たれた衝撃は逃げ道を探す。完全密封してあるのであれば全体的に壊れてしまうが、その逃げ道がそこにあれば、その場所からすべての力は逃げていく。


 それを推進力にして高速で移動したのだ。


 周介達が使う推進剤の加速と似ている。だがそれを能力で、しかも自分の爆破の能力で行うあたり恐ろしいことをする。


 少しでも爆破地点を間違えば、自分の脚のすぐ近くで爆発が起きる。爆発の出力を間違えれば、特注の靴の耐久力が持たず、足ごと爆破に巻き込まれるだろう。


 恐らくは飛行用の専用の装備も持っているだろう。足だけでは器用に飛ぶことなどできはしない。


 周介達が空を飛んでいるところを何度も見ている鬼怒川は何となくそれを察していた。


 だが、今それは身に着けていないようだった。最初にこの辺りの建物をほとんど破壊したのは間違っていなかったと鬼怒川は安堵する。


 もし自由自在に飛行されたら、その時は一方的に攻撃されるだけだったかもしれないのだ。


 今、インクバォは自由に飛行できない。脚部爆破による一時的な加速と、空中への退避ができるくらいだと鬼怒川は判断していた。


 飛行というよりは高速移動を用いた離脱に近い。空中に出ることによって不利になるのは鬼怒川もインクバォも変わりはない。


 今の爆破の威力では、鬼怒川にダメージは与えられない。ただし、鬼怒川も高速で突撃していてはインクバォを捕まえられない。


 相手に高速移動という手段がある以上、中距離からの攻撃はほとんど回避されてしまう。物体の投擲による攻撃は爆破で防がれる。


 であればどうするか。


 インクバォにとって鬼怒川はこの場で倒さなければいけない相手ではあるが、鬼怒川にとっては今すぐに倒さなければいけないというわけではない。


 鬼怒川の今の役割は、あくまで陽動だ。あの爆破を全て自分に向けることができればそれでいい。


 今すぐではなく、体制を整えてから制圧すればいいだけの話である。


「うーん……直接倒したいけどもう一手足りないな……さてどうするか……」


 接近戦には至れない。中距離の制圧力は相手の方が圧倒的に上だ。


 機動力で圧倒的に秀でている鬼怒川が近づけないのは相手の中距離での攻撃力が高すぎるが故である。

 だからこそ鬼怒川は中距離での攻撃手段を模索した。


 その結果角刀を得るに至る。だが、いまひとつ足りない。もう少し何かがないと、あの男に近づけない。


「うん、急いでも仕方がない。じっくり行こうか」


 こういう時一番やってはいけないのは焦ることだと鬼怒川は周介との訓練で学んでいた。


 焦ればそれだけ自分の動きが悪くなる。味方の支援が得られるようになるにはこの男をどうにかしておかなければいけない。


 この場に来られるのは一部の人間だけなのだから、しっかりと役目を果たさなければならない。


 一時間でも二時間でも、半日でも何日でも、鬼怒川は戦うつもりだった。


 それは一種の削り合いだ。


 体力と気力を削り、相手の戦闘能力をそぎ落とす作業だ。


 もっとも、鬼怒川に攻撃は通じず、体力気力共に十分。本気の状態だったとしても、仮に相手が同格である辰巳であったとしても、三時間以上は余裕で戦えるだけの持久力を持っている。


 逃げる相手を追うのは、鬼怒川からすれば十八番のようなものだ。相手からすれば悪夢のような状況である。


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― 新着の感想 ―
[良い点] そっかぁ、人生において周りを気にする事なく戦える乗って数えるほどしかないはずだし、「考える」事を始めた全力戦闘はおそらく初だから 成長の余地がすごいのか…
[一言] インクバォの内心が見たくなる。 脂汗やばいだろうなぁ…。 近接だけでもやばいのに遠距離攻撃が加わるなんて周介帰ったら大変ね
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