1574
「相変わらず、本気だとすごいことになるね」
遠くの船の上から観察している大太刀部隊の面々は、島の上で起きている戦闘を見て呆れていた。
爆発と衝撃波、そして距離があるのにもかかわらずここまで届く轟音。一体どのような戦闘をしているのかほとんどのものは把握しきれていない。
この中でそれを確認できているのは極僅かだ。その中の一人、大門は渋い顔をしている。
「だけどなかなか近づけていない。相手の反応速度と能力の精度はこちらの予測以上のものがあるみたいですね。あの速度に中間距離の能力発動で対応してる。すごいな……あんなこと、うちの射撃系でできる人いないですよ」
「えぇ……?そんなに?」
「威力、精度共に格が違いますね。特に爆発なんてピーキーな能力であれができてるあたり……すごいな……さすがはブラックネームってところでしょうか」
能力によっては鬼怒川の突進を防ぐこと自体は不可能ではない。例えば念動力などがこれに該当する。
自身の周りに強力な力場を発生させ続け、鬼怒川の進行方向を受け止めるのではなく受け流す形で展開できれば、その突進を防ぐことはできる。
もっとも、鬼怒川の速度で突っ込んできた場合、相当の力で受け流さなければ軌道を逸らすよりも早く突撃される可能性があるが。
だが、インクバォの能力は爆発。瞬間的に、特定の箇所で発生する強力な一撃。攻撃力だけで言えばかなりの力であることは間違いない。
だが定点発動型の能力は空間把握が難しく、狙った場所に発動するには相当数の訓練を要する。
さらに言えば、鬼怒川の突撃を逸らせるために必要なのは場所だけではなくタイミングも重要だ。
音速を超えるほどの速度が出せる鬼怒川の突撃を逸らせるには、瞬き程のタイミングのずれが致命傷になる。
「鬼怒川君でも近づけないっていうのは、やばいんじゃないのかい?」
「いいえ、問題ないでしょう。まだ両者ともに様子見の段階のようですから。それに、僕なら別の方法で近づきます」
「別の方法?具体的には?」
「歩いて近づきます」
歩いて近づく。その言葉にドクは驚く。一体何を言っているのだとドクは驚愕する。
だが大門は大真面目だった。
「速度を上げて近づくからタイミングを合わせて弾かれる。速度が高ければそれだけ面倒になります。相手の攻撃を耐えるだけの防御力があるなら、そして変貌型としての特性を活かすなら、足場をしっかり作ってゆっくり防御しながら近づくのが一番楽でしょう」
「じゃあ……鬼怒川君はどうしてそれをしないんだい?」
「たぶんですが他の戦力を懸念してる。動き回りながらそのあたりを把握しようとしているんでしょう。相手の戦力をすべて把握してから次の段階に移行しても遅くはありません。爆発のおかげで、僕らの方へ意識をそらせる狙いもあるかもしれませんね」
「じゃあ、今なら第二陣を送っても問題ない?」
「いいえ。まだ余裕があるように見られます。今送り出したら空中で叩き落されるでしょうね。もう少し相手の意識を集中させなければ……」
鬼怒川が次の段階に進み、もっと相手を追い込まなければ今突撃したところで空中で爆破されるのが関の山。
ならばもう少し様子を見たほうがいいと大門は考えていた。
「当初は陽動部隊を送って少ししてから救助部隊を向かわせる予定でしたが、予定を繰り上げたほうがいいかもしれません。陽動部隊と救助部隊をそれぞれ空と海、両方から同時に向かわせましょう」
「相手の意識を逸らせるためかい?」
「それもあります。ですがあれだけ派手に戦闘しているのに、誰も戦闘に参加しようとしていないのが気がかりです。もしかしたら、あの島にはそれほど戦力が残っていないのかもしれない」
「戦力がいない……?そんなことがあり得るのかい?あれらの目的から考えて、魔石を守っておくのが重要なんじゃ……」
敵の目的は全世界の機械の暴走だ。機械によってもたらされるという世界の崩壊を防ぐのが目的であるのなら、あの魔石による能力の暴走を引き起こし続けることこそが重要なことであるように思える。
となればあの場所にあると思われる魔石を守るのが何よりも重要なのではないか、そのように組織は考えていた。
だが、もしかしたら違うのかもしれない。まだ、まだ何かあるのかもしれない。
鬼怒川があれだけの激しさで戦う中、確かに誰も戦闘に参加しようとはしていない。
巻き込まれたら即座に死ぬと本能的に判断しているのかもしれないが、それにしても反応が少なすぎる。
「もう少し近づけば……索敵も可能かもしれないけれど……小島君、どうだい?」
「難しいですね。精度を下げていけばそれなりには……けど、そうすると相手の射程距離にはいるかもしれません」
「船を破壊するわけにはいかないか……最大望遠で確認できないかな?」
「土煙と爆炎がすごくて確認できません」
「あぁもう……出たとこ勝負か……そういうの嫌いなんだけどなぁ……大門君。突入のタイミングは任せるよ。いつでも出られるように準備しておいてくれるかい?」
「了解です。任されました」
大門は戦闘の様子を確認しながら機を窺っていた。鬼怒川が次の行動に移るのはそう遠い話ではないと確信しているからこそ、突入の準備を進めていく。




