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アロットロールゲイン  作者: 池金啓太
三十四話「光を追って。光に縋って」

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「この円の中心に、百枝が?」


「えぇ、まず間違いなく。あらかじめ出していた座標とも一致しています」


 ドクは勝木大隊長や他の攻略メンバーも合わせて、この船に対しての情報共有を行っていた。


 地図上に表示されている線はドクが直接書き込んだものだ。そして写真に表示されている場所をそれらの位置と合わせることで、その根拠としている。


 この円の中心こそ今回救助部隊が向かおうとしていた場所だ。あくまで広範囲の円の中心、そして星から算出した位置なので若干のずれはあるだろう。


 だが、それでも算出された位置は決して間違いではないという裏付けになりそうだとは考えていた。


「位置が間違っていなかったというのは、運がよかったというべきか?ただ、目の前の船は邪魔にしかならないぞ?あれはどうする?」


 目の前で大量の列をなしている船は、完全に船の進路を妨げているような形だ。


 このまま航行するにはあまりにも邪魔になってしまっている。


 このまま進むにしてもあの船をどかさなければいけないだろう。とはいえ、船の操舵は行えず、進み続けている船をどのようにしてどかすか、ドクたちとしても悩みどころだった。


「あの速度だ、壊すなら邪魔にならない程度にしなければならない。船は破壊したあとどれくらいで沈むものだ?」


「沈めるより、単純に航行できないようにした方がよくないですか?スクリュー部分壊せば船は止められるでしょう?そっちのが楽じゃありません?」


「そうすると後がつっかえないか?あ、でもそうすれば船が通れるだけの隙間はできるかな?」


「船を浮かせたり、水の道を作る事とかはできないか?水瀬いるだろ?」


「あんだけの船を全部浮かせるだけの道ってなったら相当だぞ?どっちかって言うと俺らが乗ってる船の道を水で作ったほうがましじゃないか?」


「海の中を潜るとかは?周りを空気で固めて移動すれば海の中を進めるんじゃね?そこまで長い距離じゃないんだろ?」


 あぁでもないこうでもないと様々な意見が飛び交う。


 進行方向を阻む形で列をなす船を壊すか、あるいは空中、水中に別のルートを見出すか。


 どれもすべて不可能ではないだけに迷うところだった。


「可能なら被害は出したくない。無駄に壊してあとで文句を言われるのも面倒だ。これが円を描いているなら、迂回は無理……空中に水の道を作るか、海中に潜るかの二択になるか?」


「壊したほうが楽じゃないですか?そのほうが隙間は作れますよ?あるいは海を凍らせて船を一時的に動けなくするとか?」


 いろいろな意見が出てくるなかでドクは少し考えていた。


 船を壊したり、水の道を作るのも悪くはない。だがこの大量の船もまた周介の能力によって操られている。


 何故円を描いているのか。自分の場所を教えようとしているのか、それとも侵入を阻もうとしているのか。

 答えはわからない。だがドクは少し試してみたいことがあった。


「その前にやってみたいことがあるんですよね。ちょっと準備してますんで、他の方法考えておいてくれますか?」


「おい、何するつもりだ?」


「ちょっとね!」


 ドクがそれだけ言い残してその場からいなくなった後も、大太刀部隊と製作班の人間がこの状況で取れる手をあぁでもないこうでもないと議論する中、ドクは言音の下にやってきていつも現場で使っていた袋を出してもらう。


「僕だよ。お疲れ。用意してほしいものがあるんだ。急ぎ目で頼むよ。いつも通りの搬出方法でいいから」


 拠点と連絡を取り、準備を進めてもらう中、言音に出してもらったのは巨大な、Δを取り出すためのものだった。


 甲板上に展開されていく袋は、そのファスナーを開いていきその中から巨大な鉄の巨人を取り出していく。


 甲板にΔが現れたことで、救助に参加していた多くの面々がその姿を目にしていた。


 いったい何をするつもりか。そもそもなぜΔを取り出しているのか。


 疑問が飛び交う中、ゆっくりとその場に姿を現したΔは少しの間、横になった状態で姿勢を保っていたが、ゆっくりと動き出す。


 体を起こし、立ち上がると目の前に連なってる船の奥の方を向いていた。そしてこの先に自分がいるとでも言いたげに、まっすぐとその方向を見据えている。


 やはり動くかと、ドクは泣きそうになっていた。


 この機械の暴走が周介の操作であることはもはや疑いようがない。その動き方が、今まで何度も見た周介の操作そのものだったのだ。


 意識があるのかないのか、それもわからない状態で、それでもΔを操った。


「周介君、この船はいったい何のためのものなんだい……?自分の位置を僕らに知らせているのか……それとも……僕らを近づけさせないためのものなのかい?」


 誰に言うでもなく、ドクは独り言のようにつぶやく。


 そうではないと、近づけさせないためではないと思いたかった。周介がそんなことをするわけがないと。


 衛星からでも見えるほどの船の操作をしているのは、自分の位置を知らせるためのものであってほしかった。


 だが今こうして大量の船がドクたちを阻んでいるのも事実。


 何かリアクションがあるのではないかと思ってΔを出したが、αを出した時とそこまで変わらない。


 壊すか別の道を行くか。その二択のどちらかを選択するべきなのだろうかとドクが考え始めた時、それは起きた。


「先生!船が!」


 それに真っ先に気付いたのは索敵範囲を可能な限り広げていた知与だった。


 彼女はドクの下に駆け寄ると、船がやってくる方角の方を示してドクにそれを知らせようとする。


「どうしたんだい?船がどうかしたのかい?」


「列を作ってる船の一部が、進路を変えています。レーダーでも同様の」


『主任!今どこに!?船のルートが変わってきました!こっちに向かって……いえ、これは……!』


 操舵室で常にレーダーの監視をしていた製作班の人間からも緊急で無線が入る。


 いったい何が起きているのかと、ドクは訝しみながら知与を伴って操舵室の方に向かっていた。


「何がどうなってるんだい?船のルートが変わったって」


「はい。これを見てください。円を作ってる船が、途中から進路を変えているんです。方角としては、こちらに接近してきています」


 レーダーに示されている船影は、確かに途中から円を作る軌道から変化しこちらに向かってきているように見える。


 だがさらに良く見れば、正確には自分たちの船よりもさらに後方に向かおうとしているように見えた。


 円が切れるような形で進路を変えている船と変えていない船の部分で隙間ができている。そして進路を変えた船は、先ほどよりもさらに大きな円を作り出そうとしているようにも見えた。


 まるで、ドクたちの乗る戦艦を円の内側に取り込もうとしているかのような動きである。


「まさか……いや……そんな事……周介君……?」


 Δを表に出した直後に起きたその変化に、ドクは何が起きているのかを考えようとするが、その思考をするよりも早くやるべきことがあると自分に言い聞かせた。


「各員!これより本艦は航行を再開する!近くにあるものに掴まってほしい!右舷左舷中央!すべてのスクリューを再度着水!推進装置を進行状態へ移行!」


 艦内放送で全員に指示が伝えられていく中、甲板で議論していた面々はいったい何が起きているのかと、動き出した船の揺れでバランスを崩しながらも状況把握に努めようとしていた。


 まさか特攻でもする気かと、船の動向を確認していると、彼らの目にも船の進路が変わっていて、船の列に切れ目が生じていることがはっきりとわかるようになっていた。


 なぜ船が進路を変えたのか。Δが姿を現したからなのかと議論される中で、船は一気に加速していく。


 そして列の切れ目を利用して、船によって作り出された円の内側へと入っていく。


 船が円の内側に入ってしばらくすると、再び列は円を作るように切れ目を完全に閉じてしまう。


「閉じ込められた?」


「……迎え入れられたっていうべきなのかな?僕らを待ってたのかもしれない」


「待ってた?あの船が?」


 船が、というより、その船を操っている周介が、という言葉をドクは続けることができなかった。


 そしてドクは現在位置と進行方向、そして目的地を確認してあとどれくらいかかるのかを把握しようとする。


「この速度なら……あと三日……早ければ二日もあれば到着できそうだね」


「えぇ。途中に障害とかがなければの話ですけど……同じように船があった場合は……」


「……また、きっと招き入れてもらえるよ。たぶんだけどね」


 ドクも確証があるわけではない。だが、周介は自分たちを待っている。そう思わずにはいられなかった。


 拒んでいるのではない。場所を明らかにして、自分の場所を早く見つけてほしいが故にこのようなことを強いているのだと、そう考えてしまう。


「風見、どういう状況だ?船の内側にはいれたようだが……」


 勝木大隊長も状況を確認しようと操舵室にやってきていた。


 船を壊さずに済んだのは喜ぶべきことだが、何がどうしてこうなったのかが全くわからない。


 状況の把握をしようにも、正直に言えばドクもどうしてこうなったのかわかっていないというのが正直なところだった。


「所謂開けゴマってやつですかね。僕らが来たってことを、どうやってかはわかりませんが、認識してくれたみたいですよ」


「……まだ意識があるというのか?」


「どこまであるかはわかりません。ですが、少なくとも僕らを待ってる。それはわかります。早く助け出さないと」


 魔石と融合させられてまだ意識がある。船で巨大な円を作り場所を明らかにしようとしたり、船を操って円の内側へ迎え入れたりと、その操作には確かに何かしらの理性のようなものが感じられる。


 どの程度までそれが働いているのかはわからない。少なくとも本当に理性が働いているのであれば、世界中での暴走を止められなかったのかという疑問も残る。


 だがそれを言っても仕方がないことだ。道が開けたのだから進むだけだ。


 目的地までは、まだ少しかかる。


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