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アロットロールゲイン  作者: 池金啓太
三十四話「光を追って。光に縋って」

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 ドクは拠点で頭を抱えていた。


 トイトニーが関東拠点にやって来てくれたおかげで、クエスト隊の総力を結集することで得られた情報はかなり多い。


 相手の能力者の顔や協力者。その中にエッジリップまでいるというのは拠点の中ではかなり驚きの事実でもあった。


 敵の情報も可能な限り得ることができ、そういう意味では収穫はかなり大きかったといえるだろう。


 だが一番欲しい情報。敵の拠点でもある位置がどうしてもわからなかった。


 敵が貨物船とどこかの島を拠点にしているというのはわかる。それが得られただけでもかなりの情報だ。

 だが、問題はその位置がわからないことだ。


 星の位置によってその場所を割り出すことをしたかったが、明け方の空は星の数がかなり限られており、正確な位置の特定には至らなかった。


 大まかな位置は、判明している。だがそれでも範囲が広すぎるのだ。


 具体的には、日本の国土よりもずっと広い範囲。具体的には大陸規模の範囲にまでは絞ることができた。その中にある島のどれかなのだが、当該箇所に登録されている島らしい島はない。


 最近できた新しい島、ということは考えにくい。恐らくはどこかの権力者が個人所有しているうえに、どこかの段階で地図から消され、万が一の時に使えるようにするために完全に表から姿を消す形でデータが改竄されたのだろう。


 実際はあるが地図に載っていない島。厄介極まりない事だった。


 今はフシグロがそのあたりの位置の地図情報を調べているが、それも見つけ出せるかは怪しいところだった。


 情報が足りない。あともう少し、具体的にはあと二時間、いや一時間程度でも外に出る時間が早ければ、星の数ももっと多く位置を特定するに至ったかもしれない。


 だがそれを言っても仕方がない。どうにかして位置情報を割り出して救出に行かなければいけないというのにそれができない。


 もどかしかった。


 衛星の写真などを使えればいいのだが、人工衛星も機械の暴走によって勝手に駆動してしまっており、カメラなどの向きが一定にならないために役に立たない。


 どうすればいいのか。そんなことを考えている中、ドクの下に報告が入る。


「主任、百枝君救出用の戦艦、開発は順調だとのことです」


「オーケー。こっちの総力を結集して攻勢に出られるように準備をしておかなきゃね」


 今ドクたちは太平洋側に出撃できるような船を作っていた。多くの人間が乗り込むことができ、今の機械暴走状態でも問題なく使えるような機構を取り付ける。


 と言ってもこれに関してはそこまで問題はなかった。ドクたちは何度も試行錯誤を繰り返して様々な機械を作り出してきたのだ。


 動力部分が勝手に動き出す程度であれば問題なく船程度であれば作ることができる。


 船で言えば海に接している部分のスクリューが推進力を生みだしている。この部分が勝手に動き続けるというのであれば、それを船内に格納できるような部分を作ればいいだけだ。


 動力部分を可変型にするとどうしても負荷が強くかかりすぎるため、船そのものの部分に開閉できる蓋のようなものを取り付ければよい。


 後は進む時はその部分に注水してから蓋を開ける。逆に止めておきたいときはふたを閉めてその中を空気で満たす。


 そうすることでスクリューが勝手に回っていたとしても空転するだけで推力は生み出さない。


 補助動力として帆船としての機能も取り付けておいて、どのような状況でも航行できるような戦艦。能力者を多く搭乗させ一気に攻め込むための機構も取り付けている。


 ドクは本気だった。


 今まで兵器はいくつも作ってきた。今回ドクは周介を助けるために今まで培った技術を全て注ぎ込むつもりでいた。


「他の船は?特に日本が元々保有していたものや、日本に駐留していた護衛艦なんか」


「報告によると、やはりどの船も港から姿を消しているそうです」


「潜水艦とかもだよね?ってことは……海外なんかでは原子力潜水艦とかも?」


「……同様です。姿を消しています」


「マジかぁ……どこに行ったのかもわからない状況じゃ探しようがないけど……人の制御を離れた原子力とかやばすぎるなぁ……」


 ドクの懸念は世の中で起きている機械の暴走よりも、その余波の方だった。


 既に海外の原子力発電所ではいくつもの箇所がメルトダウンを起こしている。


 日に日にその数は増えている。制御が効かなくなっている場所から、そして対処しようとしてそれに失敗して、海外のいくつもの原発がその周囲に放射能をまき散らす結果になった。


「日本の状況は?」


「稼働中の原発に関しては、稼働状況を止めることはできないのでメルトダウンだけは起きないように制御の構造を変えています。日本は稼働中の原発の数が少なかったのでまだ助かっています。停止、及び点検中のものに関しても八割以上検査完了。問題ないことを確認しています」


「それはよかった。いや、よくはないのかな……海外が酷いことになってるんだから」


「特に国土が広い国は全然手が回っていないみたいですね。初動が救助関係で遅れたっていうのもあるんでしょうけど……」


 日本は世界に比べればまだましな方だ。


 暴走が起きた時がちょうど深夜から朝にかけての時間だったのが大きい。


 そうではない場所はもっとひどい被害を受けている。特に原発や核を保有している国などでは、悲惨というしかないような状況が続いているという。


 一刻も早くこの状況を脱しないと危険だ。それはドクもよくわかっている事だった。


「早いところ救出しなくちゃ……製造自体は順調。けど、問題は……」


「その位置……ですね」


 問題になってくるのは敵の位置だ。トイトニーが救命艇で数日かけて海を進んで日本にたどり着いたという点から、日本からのおよその距離はわかっている。


 星の位置的にある程度絞れてもまだ広すぎる。それらの情報を組み合わせてもまだ大海原全てを探せるだけの情報がそろっていないのだ。


「主任は、百枝君がまだ生きていると思いますか?」


「正直に言えば、五分五分だと思ってるよ。確かに未来予知で周介君の姿が確認できたのは大きい。けど、未来予知はあくまで未来の中の一つを確認するだけでしかない。髪が伸びていたというあたりから、年単位で未来の話だ。時間が遠ければ遠いほど、未来は不確定になりやすい」


 それは未来予知の特性であり弊害でもある。


 遠い未来になればなるほど、間に挟まる事象によって大きく影響を及ぼして未来が変わることがある。


 未来を本人が知っただけでも未来が変わるというくらいだ。未来というものはどうしようもなく不確定で、不安定なものなのだ。


「ただ、未来の情報のすべてで周介君が健在だった。さすがにそれも無視できない。普通、これだけの規模の能力強化を、マナの過剰供給を受けたら生きていられない。けど、敵側にはスカァキ・ラーリスがいる」


「……百枝君を改造して、無理矢理に生かしていると?」


「その可能性は捨てきれない。少なくとも生かした状態で能力を発動させたかったはずだ。死んでしまえば能力を発動するかどうかは運に左右される。それを避けるために労力をかけた……なら簡単には殺さないはず……」


 ドクの考えは半ば都合がいい考えでもあるが的を射ていた。実際その通りでもある。


 ドクたちはそれを知ることができていないため、完全にまだ確証を得られていない。ただ生きていてくれと願うことしかできなかった。


「生きているという未来だけを信じたいですが……そういう訳にも行きませんか」


「未来予知の情報をあてにするっていうのも……少し怖いからね。他の情報を混ぜて確認しないと…………」


 ドクは自分で口にしていて不意に思う。


 未来の情報は未確定なものが多い。だが未確定にならないものも多い。


 例えば、この世界において、日本では朝日は必ず東から昇る。必ず昼と夜が来る。


 太陽が破壊でもされない限りこれは絶対だ。


 特定の人物の行動によって構成されたこの社会の情報は常に変わり続ける。未来の情報一つで大きく変わる。


 だからこそ誰かを見た時の未来予知は参考程度にするのが常だ。


 だが、世界の現象や、そこにある場所に関しては違う。そこに存在している自然に関しては、世界そのものに関しては違う。


「そうだ、未来の情報。未来の光景……それを意図的に引き出すことができるのなら……未来の知識を得ることができるのなら……」


「主任?どうしたんです?」


 独り言のようにつぶやいていたドクは、何かを思いついたのか、携帯を取り出す。


「フシグロ君!緊急!桃瀬君!桃瀬美鈴君を!彼女を呼んでくれ!いや僕が行く!彼女は今どこにいる!?」


 ドクの言葉に一緒にいた、そして遠巻きに作業していた製作班の人間がそれぞれ怪訝な表情をする。


 いったい何事だろうかと、一体どうしたのだろうかと全員が疑問符を浮かべていた。


『彼女は今拠点内にて能力の訓練、及び勉強をしています。どうしました?』


「場所は!?この場所かい!?」


『拠点内の教育施設B棟にいます。他に必要なことは?』


「クエスト隊のメンバーに伝達!急いで!ここからは時間勝負だ!」


 ドクが急いで出ていこうとする中、一瞬だけ足を止めてその場にいた製作班全員に指示を出す。


「周介君を助け出しに行けるかもしれない!戦艦の開発を急ピッチで進めて!フル稼働!全員に伝えて!」


 ドクがフル稼働などという言葉を使うことは基本的にはない。何せ毎回毎回大隊長に文句と一緒に稼働率を下げろといわれ続けているためだ。


 そんなドクが、フル稼働で製作に取り組めということはそれだけの理由がある。


 製作班の人間は全員が笑みを浮かべていた。


「いいのかよ風見!本当にフル稼働させるぞ!?」


 ドクの言葉を聞いていた製作班は笑って聞いた。それが何を意味しているのか分からないほど馬鹿ではなかった。


 つまりは、何回徹夜しようと、何時間残業しようと、どれだけ設備を使おうと、どれだけ騒音を出そうと問題がないということだ。


 一見すれば問題が出るようなものであるだけに、一応再確認する必要があったのだろう。


「大丈夫!最悪僕が怒られるだけさ!責任は僕がとるから!何よりもまず先に完成させるんだ!言っただろう!?時間勝負!僕ら製作班の意地の見せ所だよ!」


 ドクの言葉にその場にいた製作班全員が歓喜に打ち震える。


 今まで我慢してきた、欲求不満のぶつけ先がようやくできた。ようやく好き放題できると聞いて、全員が笑う。


「全員に連絡しろ!総動員だ!あのバカの指示だって言えば俺らはお咎めなしでやり放題だぞ!」


 製作班の人間の野太い声が聞こえてくる中、ドクは少しだけ後悔しながらその場を後にしていた。


 だが、それでいい。今はこれでいい。ドクは覚悟を決めながら進んでいた。

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― 新着の感想 ―
[一言] あ、ひょっとして・・・行方不明になった船とか飛行機とか、全部敵アジトに集結させて突っ込ませてるんじゃなかろーか。ブチギレモードの周介だとそれくらいやりかねない。
[一言] 未来視は動かないものを探すのにはそんなに凶悪なのか。
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