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アロットロールゲイン  作者: 池金啓太
三十四話「光を追って。光に縋って」

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 トイトニーが周介の手助けによって敵の拠点を脱出し日本の王子ヶ浜にたどり着いたのは三日前のことだ。

 四日近く海の上をさまよい、脱水症状と空腹で死にそうになりながらも彼は浜辺に運よくたどり着いた。


 周介の個人装備は、機械暴走後もずっと動き続け、トイトニーをのせた救命艇を日本に向けて運び続けていたのだ。


 浜辺にたどり着いたとき、運よく海の様子を見に来ていた近隣の漁師の人に助けられ、一命をとりとめた。


 そして食事と休養を与えられた後、自分がいるのが日本であるということが分かった時、彼は何とか日本の組織と連絡を取ろうとした。


 だが日本語がわからない。何とか身振り手振りで自分が能力者であることを告げ、組織に連絡を取ってもらった。


 そうして能力者を回収にやってきた関西拠点の人間が、トイトニーと一緒にあった、周介の個人装備などを見て、過去の訓練の映像からそれを知っていたために周介と戦闘経験のある辰巳の下へと連れていったのである。


 その結果、辰巳のところでドク、風見の名前を出したことで鬼怒川の方に電話がかかってきたというのがここまでの流れだった。


『ということだ……ラビット01がいなければ……あの場で俺も……』


 スピーカー状態に加え、フシグロによって常時翻訳を行われていることで、全員がトイトニーの言葉を理解できていた。


 彼は自分が知っている限りのことを話した。


 軍施設の襲撃の際に捕まったこと、それから監禁されていたということ、周介が来たこと、そして敵の目的。最後、周介の手によって助け出されたこと。そして海の上で放浪しながらも、常に周介の個人装備が動き続け、運よく日本にたどり着いたこと。


 全てを聞いたとき、柏木大隊長は眉間にしわを寄せながら歯噛みしていた。


「未来予知で得た情報をもとに……世界の機械を暴走させる……?人類を救う……そんな、そんなことを……本気で考えていたというのか……!こんな、これだけのことをしておいて……!よくも……!」


 柏木大隊長は怒りに震えているようだった。世界を救う。人類を救う。そんなことを考えておきながらやっていることと言えばどうだ。


 多くの機械を暴走させ、その結果多くの人が死んでいる。多くの人々が今なお苦しみ、苦労を強いられる。

 そんな状況にありながら、何を根拠にと言ったら子供の頃に見た友人の予知の結果だという。


 ふざけるなと、叫び散らしたい気持ちを必死に抑え、柏木大隊長は拳を握りしめていた。


「三メートルはある巨大な魔石……か……それに接続されたとなると……」


「……トイトニー……周介は……ラビット01は……どうなったんですか?」


 今日初めて、瞳が口を開いていた。その目は縋るようで、だがどこか諦めたようで、生気の感じられないものだった。


 その言葉を聞いて、トイトニーは申し訳なさそうな声を出す。英語がわからなくともそのくらいはわかる。


『最後に見た姿は、連中に囲まれているところだ。あの状況から、逃げられたとは考えにくい……今、世界がこんな状況になっているんだ……つまりは……』


 そう言うことだと、最後の方は言葉になっていなかった。


 つまり、周介は既に魔石と同化させられていると考えるべきだろう。


 それがどういうことなのか、わからないほど瞳も馬鹿ではなかった。


 マナ溜まりに落ちた時でさえ、死ぬ寸前だったのだ。死んでもおかしくなかったのだ。


 魔石では、助かるはずがない。


 瞳が絶望している最中、柏木大隊長がふと思い出す。


「待て、予知……そうか……予知か」


「大隊長、どうしました?」


「…………これは、割とプライベートなことも含んでいたので共有はしなかったんだが……以前、百枝を予知能力者に見てもらったことがあってな」


「あぁ……サンドマンですか?」


「その時、彼の数年後を見てもらったんだが、イメチェンこそしていたものの、普通に生きていた」


「本当に!?」


 一番食いついたのは瞳だった。未来予知は確定した未来とは言えないが、数年後の未来で周介が生きているということは、つまり周介はまだ生きているということに他ならない。


「連中は、生かした状態で保持したいはずだ。魔石に接触させても、どうかさせても生きていられるようにスカァキ・ラーリスがその体を変質させていたら……あるいは……」


「大隊長!今すぐに救助隊を組織しましょう!まだ間に合うかもしれない!」


 ドクの申し出に、柏木大隊長としても拒否はしたくはなかった。だが先に言ったように、場所もわからないのに闇雲に探させるわけにはいかない。


 ただでさえ人手が足りないのだ。そんな状況で無暗に人手を割くわけにはいかない。


「トイトニー、何か他に情報はないかい?どんなことでもいいんだ。どんな情報でもいい。相手の本拠地がわかるような、そんな情報は」


『そう言われても……見えたのは海と空くらいで……いや待て、そうだ、星。星が見えた。明け方で数は少なかったが……確認した』


「それだ!その星の形が分かれば!おおよその位置を特定できる!」


 星の配置などにより現在位置を確認する方法、所謂天測航法と呼ばれるものだ。


 空に見える天体と視地平との間の角度を測定することで地球上の現在位置を知ることができる。


「それを教えて……いいや、関東拠点に来てくれ!クエスト隊全員総がかりで位置情報を確認する!君の頭を覗かせてもらうことになるかもだけど」


『俺の頭の中でよければ好きなように覗いてくれ。あの少年を助けるためなら、俺はなんだってするぞ』


『急ぎのようなので、私が連れていきます。一時間もしないで連れていけると思うので』


 辰巳がトイトニーを送ることが確定したところで、全員が動き出そうとしていた。


 その中で、瞳だけが一人、椅子に座り込んで震えながら泣いていた。周介が、生きているかもしれないと、その可能性が出てきたことで彼女の今までの不安が、ようやく少しずつ氷解しているのだ。

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― 新着の感想 ―
[一言] ようやく希望が見えてきたのかな…… そういえば髪が伸びてたんだっけ? 身長は残念だったようだけど……何がどう絡んでくるかこれからも楽しみにしてます
[良い点] 毎日ドキドキしながらみてます。 あの時の未来の話は予想してなかった!相変わらず伏線が面白いです。
[一言] そいえば数年後の未来見てた!!
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