表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
アロットロールゲイン  作者: 池金啓太
三十四話「光を追って。光に縋って」

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

1549/1751

1549

 ドクはすぐに大隊長やラビット隊のメンバーと、信頼できる部隊の人間を集めていた。


 上層部のメンバーはここにはいない。いるのはあくまで現場で活動していた人間の中でも、かなり限られた人間だけだ。


 その総数は二十人にも満たない。


 呼び出したその理由は、今回発生した、この世界的な規模で起きている機械の暴走。その原因に関してだ。


「みんな、集まってくれてありがとう。忙しい中、時間を作ってくれて……本当にありがとう」


 ドクの顔は真っ青だ。血の気がない。憔悴しきっており、誰よりもこの中で精神的にも肉体的にも疲労しているということは誰の目にも明らかだった。


 そして、その次に精神的にやられているのが瞳だ。


 何日も眠れていないのか、その目にはクマができ、目は虚ろなままだ。


 周介に近しいものから、かなりの疲労を蓄えているのがよくわかる。


 特に瞳は周介が攫われたから、ずっとこんな感じだった。どこを見ているのかもわからない目で、ずっと仕事をしている。休めといっても変わらないのだ。ただ、じっとしてるだけ。


「風見、このメンバーを集めた理由は?随分と、偏ったメンバーだが」


「このメンバーは、僕が信用できると思って集めたメンバーです。口が堅くて、何より僕らの力になってくれるメンツであると」


 他のメンバーが役に立たないというわけでも、信用できないというわけでもない。あくまでドクの個人的な判断で、ドクが話しやすいメンツを集めたというのもあるのだろう。


 少なくともこの場の面々は、ドクに信頼されていると、そう言われると悪い気はしなかった。


「フシグロ君、ここからの会話はすべて、記録しておいてくれるかい?重要なことを話すから。同時に、この場所に誰も入れないように、誰も聞けないように」


『了解。一字一句すべて記録します。部屋の鍵をかけるくらいはできますが、能力による盗聴は防げませんからね』


 フシグロの声が室内に響くと、ドクは小さく息を吐いてから、全員を見渡す。


「さて……結論から言います。僕はたぶん、この世界中で起きている機械の暴走。その原因が分かりました」


 ドクの言葉に全員が僅かに反応を示す。


 だが、同時に何となく予想はできているようだった。この異空間を作り出しているのと同様の、何か特殊な現象なのだという認識を多くの者が持っていた。


 長く能力に携わっていたものほどその結論に至りやすい。だが、ドクの答えは全く違うものだった。


「この現象は……この現象を作り出しているのは…………百枝周介君です」


 先程まで反応を示していた全員が、目を見開く。中にはドクが今何を言ったのかわからないという顔をしているものもいる。


 その言葉に誰も声を出せずにいた。


 そんな中、小さく、呟くような声が、静かな会議室の中に漏れる。


「…………周介…………」


 瞳の目に、僅かにではあるが光が戻ってきていた。


 その反応と同時に、玄徳がドクの方を見る。


「先生、どういうことですか?兄貴がこれをやったと?こんなことをあの人がやると、本気で思ってるんですか?」


 周介がそんなことをする人間ではないのは、この場の全員が知っている。その証拠に玄徳の言葉にほとんどのものがうなずいていた。


「そもそも、百枝君の能力は射程距離一キロもないはずですよね?どうやってこれだけの広範囲を?それとも実は似ているだけで、別々の能力だとか?」


 仮に周介が協力的であろうとなかろうと、周介の能力の限界は判明している。その射程距離の限界というものを理解しているだけに、多くの者はドクの言葉が決して正しくないということを理解していた。


「いいや、世界中の姉妹組織の人間と情報共有してるけど、どこでも起きている現象は同じだ。検証結果として、この世界で起きている現象は、単一の能力によって引き起こされているものだと思う」


「それじゃあ……なおの事」


 周介が原因などということはあり得ないのではないか。


 全員がそう考える中、ただ一人、この中でたった一人、その可能性について思い浮かぶものがいた。


「……そっか……強化したんだ」


 それを口にしたのは鬼怒川だった。


 この場にいる中で唯一の魔石持ちである彼女は、その可能性に誰よりも早く気付くことができていた。


「そう……能力を強化する方法がある。現に周介君は一度、その強化をしているんだよ。マナ溜まりに落ちて、彼は第二の能力を覚醒するに至っている。同様の高濃度のマナの中に浸るか、あるいは、魔石を使えば、強化は不可能じゃない」


 マナ溜まり、あるいは高濃度のマナの結晶体である魔石を使えば能力の強化は可能。


 それは拠点にいる数少ない魔石持ちの鬼怒川が一番よくわかっていた。


 魔石の力を限界まで引き出せば、数十倍の能力出力を得ることができる鬼怒川からすれば、その考えに至るのはある意味必然だ。


 それが周介にも行われた。


 その事実に、鬼怒川から放たれる圧力が強くなっていく。


「待って、待ってください。そもそもなんで先生は兄貴がそういう状況だって思うんすか?確かに……兄貴は攫われました……どこにいるのかもわからないっすけど……」


 玄徳が憔悴したままの瞳の方を一瞬だけ見る。言葉を選んでいるのがよくわかるが、ドクはその気遣いに少しだけ申し訳なく思っていた。


 何せこれから、さらに絶望的なことを告げなければならないのだから。


「……今起きている機械の暴走、どういう機械が暴走しているか、皆も聞いてると思う。アナログ的な機械ばかりさ。逆に電子機器なんかは物理的に破壊されていない限り全部無事なんだ。これは不幸中の幸いだと思うべきだよね」


 機械が暴走していながらも、まだ人間の社会が形を何とか保って居られているのは通信網が未だに残っているからだ。


 それらの機械が無事であったからこそ、まだ人として最低限、社会性を保って居られている。


 逆にこれが無くなれば、人間は動物のそれと変わりなくなっていただろう。


 そうなればもはや現代人の活動などではない。石器時代の動物のそれに近いものになってしまうのだ。


「僕がね、周介君がこれを引き起こしたと確信を持ったのは……ラビットシリーズを外に出した時なんだよ」


「あ……そういえば出してって頼まれたのって……」


「そう……それを確認したかったんだ。これを見てほしい」


 ドクは撮影していたラビットαの動きを全員に見せる。


 倒れた状態から非常に滑らかな動きで立ち上がり、一方向を向くために方向転換する。


 短い時間ではあったが、ラビットαが問題なく動いている様子が見て取れた。


「……これが、なんだと?」


「今回、僕が出したのはアクチュエータも動力も何もついていない、周介君が動かすことを前提としていた、初期のラビットαです。そして、これをこんな風に操ることができるのは周介君だけです」


「まて、その人型ロボットだって、機械だろう?なら、機械の暴走で動いても不思議はないじゃないか」


 確かに不思議ではない。この機械の暴走が一体どういう原理なのかもわかっていない以上、勝手に動き出した、以上の説明ができないのが現状だ。


 少なくともその原因が全くわかっていないのだから。


 だがドクは確信をもって言う。


「機械の暴走の原因が、一種の念動力であるのは全員知っているでしょう。駆動部分にかかる念動力。タイヤとか歯車とか、そういう部品に関してかかる念動力です。そして、このラビットシリーズは、単純な念動力ではこんな風に動かせないんです。これを見てください」


 ドクが映し出したのは、音楽の譜面のような図だった。だがその列が異様だ。二十、三十ではおさまらないほどの行が存在しており、そこにいくつもの記号が記載され、なおかつ時間経過とともに動くように設定されているのがわかる。


「……なんだこれは?」


「先ほど見せた、ラビットαが立ち上がるために必要な部品の稼働状況の図です。これと同じ動きができれば、先ほどのようなスムーズな動きができます。各部品の動きが全体の動作に影響するため、これが少しずれるとバランスを崩したり、歪な動きになります」


 楽譜のようにすら見える大量の部品の動きに、全員が唖然としている。普段周介が動かしている時にいったいどのように動かしているのか知らなかった者がほとんどだ。


 知っているのはラビット隊の面々とドクくらいのものである。


 機体を当たり前のように動かしているためにそこまで難しくはないとさえ思っていたが、各部品をこれほど精密に動かさなければいけないという事実に驚愕する。


「単純な機械の操作だけでは絶対に動かせません。何故ならラビットシリーズはあくまで部品の集合体でしかないんです。初見の人間じゃ絶対にこんな風には動かせない。こんな風に動かせるのは、周介君だけなんです」


「それで、百枝がこの状況を引き起こしたと……?マナ溜まりか、魔石で強化して?」


「はい。その可能性が、非常に高いと……いえ、ほぼ確実だと思います。周介君を攫った連中、あの連中が仮に、トイトニー、白部君、そして周介君のような、機械を操れる能力者を生かして捕らえていた理由が、ここにあるんだと思います」


「……生かした状態で能力を強化する。死んだ状態では能力が発動するかどうかはわからないということか」


 死亡した時点で能力を発動する死体になっていれば話は別だが、死亡した時点で能力の発動が途絶えてしまえば、能力の強化ができるかは怪しい。一種の賭けになるだろう。


 それを考慮して、生かして捕らえる。なるほど筋は通るとこの場にいる人間は納得していた。


「連中の目的は?機械を使えなくすることそのものが目的だと思うか?」


「…………はっきり言ってわからないというのが正直なところです。仮説に仮説を重ねることになりますが……全世界への能力発動が目的ではないのではないかと思います。具体的には、特定の一か国を目的とした攻撃だったのではないかと」


「というと?」


「周介君の能力が強化されすぎて、その効果が全世界に及んでしまっただけで、本当は特定の一か国に攻撃を仕掛ける前準備だったんじゃないでしょうか?機械が使えなくなれば、戦闘行為をするうえでもかなり優位に戦えます。例えば……そう、アメリカなど」


 現代の戦闘行為において使用される機械の占める割合は大きい。


 戦車や装甲車と言った機械兵器もそうだが、やはりここでも運搬用の機械というものが重要になってくる。

 輸送機の類が使えなければ軍隊はまともに移動すらままならないのだ。現代において騎兵など一部地域を除き儀式的なもの以外使われていない。


 結局機械がなければ大国の軍隊もまたその戦力を大幅に削られることになる。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ