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アロットロールゲイン  作者: 池金啓太
四話「小動物が生き残るために」
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「ということで頼むぜ手越。俺の相手になってくれ」


「いきなり呼び出したと思ったらそんなことか。なんだっていきなり変な構えしてんだよ」


 周介は映画などで見る架空の格闘技のポーズをしながら手越を迎え入れた。手越はそんな周介をあきれながらもそれに合わせて妙なポーズで戦いの準備をしていた。


「兄貴とこいつは確か寮で同室なんでしたっけ?」


「そう。っていうかお前手越はこいつ呼ばわりかよ」


「別にいいって。自分の好きな奴にしか従わないっていうのは結構いるからよ。我の強さもやっぱ大太刀向きだわこいつ」


「そいつはどうも」


 玄徳は別に人付き合いが苦手というわけではないだろう。チームを率いていたのだからむしろそのあたりはお手の物であるはずだ。


 だがどうにも手越に対してはあたりが強いように見える。単純に嫌いなタイプなのかは判断できないが、一応手越は周介よりは能力者として先輩だし格上だ。敬語を使えとは言わないが、丁寧な言葉を使ってほしいと思ってほしいのも事実である。


「で、格闘技って言っても俺が教えられるのは手の動きだけだぞ?そのあたりの動きしか満足に練習してないし」


「それでいいんだよ。練習台になってくれ。掴み、投げ、組み技系を覚えたいんだ」


「ほー……なんで組み技に?」


「兄貴の体格じゃ打撃系は威力が低い。それに兄貴には能力で機械を動かせるって利点がある。万が一の時にも何とかできるように少ない力でも相手を組み伏せられる技のほうがいいって思っただけだ」


「ふむふむ、何も考えてないってわけじゃなさそうだな。オッケー。それなら俺がいくつか教えてやるよ。組み技限定でいいんだな?」


「まずはそこから覚えていこうと思う。何事も第一歩からだ」


 周介は自分に才能があるとは思っていない。それは事実だし、今まで、少しの間ではあるが少しずつ訓練してできることを増やしてきたのだ。きっとこれからも少しずつ増やしていくことしかできないだろうと周介は確信していた。


「んじゃ始めるか。まず組み技の中で一番簡単な奴から。相手の腕をつかむところから始めるか」


「掴むって、それだけでいいのか?ほい」


 周介は手越の手首を掴む。そこまで力は込めていないが、しっかりと掴むことで少なくとも多少振り回されるだけではこの腕は離さないだろう。


「あー、そっちの腕じゃないな。逆の手で掴んでくれ。相手が出してきた手と同じ手で掴むんだ」


 手越が出している手は右手、周介は左手で掴んでいたが、手越に教わっている通り、右手で掴む。


「そしたら掴んだ腕を引っ張りながら捻って肘か肩のあたりにもう片方の手を添えて押し付ける。体重をかけるって言ったほうがいいか?」


「こうか?」


「そうそう。そうすると大抵の相手は体勢を崩す。って言ってもこれだけじゃちょっと足りないな……百枝、ちょっと俺に殴りかかってみ」


「いいのか?んじゃ……オラァ!」


 手を放してからわずかな殺意さえ込めて放った右拳を、手越は軽く身を翻しながら躱し、同時に右で周介の腕を掴むと、そのまま引っ張りながら腕を捻り肩を押す。体勢が崩れ、何とか体勢を維持しようと足を踏み出した瞬間、手越の出していた足につっかえ転んでしまう。


 周介も転がりながらすぐに受け身をとって立ち上がるが、一瞬の間にいくつもの技をかけられたのはすぐに分かった。


「なるほど、あんな感じか……腕を掴んで引っ張って体を開かせて、肩を掴んで動けないようにしながら押し込んで足をかけて転ばせる……むずいな!」


「まぁ組み技系は総じて難しいぞ?今のは足も含めたけど、手だけでできるっていうと……もう一回殴りかかってこい」


「よし行くぞ。オラァ!」


 先ほどと同じように殴りかかる周介の腕をとって、手越は周介の体の内側に潜り込むように姿勢を低くする。


 腕を巻き込むように自分の体に引き寄せると、もう片方の腕を周介の股の間に入れてその体を回転させる。


 体と腕が邪魔になり、周介は殴り掛かった勢いのまま手越の体を起点に投げ出されてしまう。


 一本背負いの少し形を崩したようなイメージだろうか。手越自身が身をかがめていたため、その体を殴りかかる勢いのまま飛び越えるようなイメージの投げ技だった。


 叩きつけられる瞬間に周介は受け身をとるが、それでも先ほどの投げよりは衝撃が強い。背中から床にたたきつけられたからだろうかと、わずかに呼吸困難に陥りながらもすぐに立ち上がる。


「こんな感じか。別にお前の場合は腕だけって制限はないから、いくつかの組み技、ってか崩し技を教えてやるよ。組み技はその後な」


「……オーライ、やってやろうじゃんか」


 転がった後もすぐに立ち上がる周介を見て、受け身をとるのとバランス感覚に関しては既に鍛える必要はなさそうだと手越は笑う。


「お前もやるか?えっと、加賀って言ったっけ?」


「俺は姉御と訓練してるから要らねえよ。兄貴、実験台が必要だったらいくらでも言ってください!いくらでも相手しますんで!」


「ありがとよ……ってか玄徳さんや、露骨過ぎませんかね」


 手越と自分との態度の違いに、周介は少し申し訳なくなってしまう。


 手越は気にしないといってくれているが、これは少々問題かもしれないなと周介は少し困っていた。


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