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アロットロールゲイン  作者: 池金啓太
三十三話「世界の崩壊を阻むもの」

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「どうだった?彼は」


 周介の見張りを入れ替わったところで、ドットノッカーは声をかけられていた。


 それは今回の計画の要でもあり、中心人物でもあるスカァキ・ラーリスだった。そのそばにはインクバォも控えている。


 その目は真剣そのもので、先ほど周介たちに向けていたものとは異なる。その声も低く、かなり重要な話であるということはドットノッカーも理解していた。


「どうだった……とは?」


「言葉通りだよ。彼と話したのだろう?何か言っていたかね?」


「……俺たちの企みは、全部阻止して見せると」


「この段階でそれを言えるのは、彼が子供だからか……あるいは状況を読めていないのか……どちらだと思う?」


 随分と深堀して聞いてくるものだなと、ドットノッカーは訝しむ。だがその目は真剣なままだ。やや言葉尻が柔らかくなったものの、その声音は未だに低いままである。


 この問いはそれだけ重要なものだと、ドットノッカーも理解していた。


「どちらでもないな。状況をわかって、それでもなお、止めると」


 その言葉を聞いて、スカァキ・ラーリスは目を細めた。


 現段階で、止められるだけの力は周介にはない。どうあがこうと、もう計画は止められない。止められる可能性があるとすれば拠点である無人島、もうすでに仲間が住んでいるために無人ではないのだが、に到着する前にこの船が襲撃される。ないし拠点そのものが襲撃されるくらいのものだ。


 だがその気配はない。徹底した撤退ルートの構築のおかげで、まだ世界中の人間がこの場所に気付けていないのだろう。


「君の意見を聞きたい。止められると、思うかね?」


「……止められるとは思わない。もう、後は発動だけって状態だ。スイッチに手をかけてる状態で止められるほど、状況は悪くない。よほどの不意打ちを受けない限りは。それこそ弾道ミサイルでも打ち込まれたら、止められるかもしれないが……それでも発動まではこぎつけられる……はずだ」


 まともに考えればそれが答えだ。現状どうあがいても止められるとは思えない。


 仮にドットノッカーたちを追っていた全ての存在がこの船の存在を把握し、拠点の島の場所を確認したとして、既に発動一歩手前、秒読み段階に入っているのだ。


 ロケットの発射のように精密な計算が必要なわけでもない。あとはあの二人を魔石と同化させてしまえばいいだけ。そうなればあとは、流れに身を任せるほかなくなる。


 狙撃も弾道ミサイルなどによる攻撃も不可能になるだろう。そうなれば、この太平洋の海に攻撃を仕掛けるだけの方法が無くなる。


 一分も時間を稼げばいいのだ。もはや万に一つも、計画が失敗するだけの理由は見当たらない。見当たらないはずだが、どこか、不安が取り除けない。


 先程の周介の会話から、ずっと付きまとう感覚。あの目が、忘れられない。


 周介の目。決してあきらめることがないと主張するあの目。そしてあの気迫。殺気とは違う。だが圧倒的な威圧感を伴って放たれた気配。


 あれだけの圧力を持った人間が、何もしないなどあり得るだろうか。ドットノッカーの中の勘はそれを否定する。


 あれは危険だと。


「何か、懸念が?」


 そしてドットノッカーの抱えている不安を感じ取ったのだろう。スカァキ・ラーリスは距離を詰めてくる。

 なにも懸念などない。理性ではそう確信がある。


 だがどうにも無視できない。無視してはいけないと今まで培った勘が言う。


「いまさら何ができるとも思わない。この段階で、計画の妨害など、できるとも思えない。ただ……」


「……ただ?」


「……あの少年は、危険だと、そう思う」


 それは何の根拠もない、ドットノッカーの感性による判断だった。


 もしこれが組織や会社などであれば、一蹴されるような言葉だったが、スカァキ・ラーリスとインクバォは一瞬視線を合わせて小さくうなずき合っていた。


「なるほど、君がそのように感じたのであれば、最期まで油断をしないようにしよう。順番を入れ替える。先にラビット01を融合させて、彼の能力操作もまともにできない状態でトイトニーの融合を行うようにしよう」


「……いいのか?そんな簡単に」


「この船の中で、最もラビット01との交戦経験、があるのは君だ。何より、戦闘経験という意味でも、君の言葉をないがしろ、にするのはあり得ない。その君が『危険である』と判断した。これは大きい」


 そしてスカァキ・ラーリスは目を細めて隣にいるインクバォの方を見る。


「この子も、何やらあの少年には感じるところがあるようでね。今は能力を発動できていないようだが……強化した段階でどうなるかはわからない。ギリギリまで、あの少年への警戒を最優先とする」


 ドットノッカーはその状況を見ていないが、牢で拘束されている状態の周介相手にインクバォが小規模とはいえ爆破しようとしたという話は聞いている。


 そして、それを生身で避けたということも。


 ドットノッカーからすれば信じられなかった。インクバォの能力は発動直前になってもどこで発動するかがわからないのだ。


 どの場所が、どのタイミングで爆破されるかわからない。気付いたときには爆炎の中。そういう状況も不思議ではない。だがそれを避けた。いったいどうやって?その答えはわからない。だが、インクバォもまた周介のことを警戒しているということはドットノッカーも十分に理解できていた。


「本当にそれだけか?あんな少年に、それだけの警戒をする価値があると?」


 だが、ドットノッカーは少し疑問も持っていた。


 本来の予定では、トイトニーを先に融合し、本人の意識が完全になくなったところでもう一人、周介の融合を行う予定だった。


 今まで綿密に進めていた計画をこんなに簡単に覆していいものだろうかと、それほどの言葉の重みが自分にあるとは思っていないのか、ドットノッカーの疑念は晴れない。


 そしてその疑念を感じ取ったのか、スカァキ・ラーリスは少し考えるような素振りをする。


 その表情の変化が演技なのか、それとも本当に何か考えているのか。


 老獪な能力者の本心を読むことは誰にもできなかった。


「君は、能力者の脳がどのように変質、するか知っているかね?」


「変質?」


 いきなり話が全く別のところに飛んだことで、ドットノッカーは疑問符を浮かべる。


 この老人の面倒なところは話が回りくどいところだった。


 話があちらこちらへ飛ぶために、話の整理をするのが面倒なのである。先ほど周介たちに対しての説明もあちらこちらへ説明が飛んでいた。


 説明が下手なのか、彼の頭の中には理解しやすくするため、筋道を通すための話の順序があるのだろうが、理解に時間がかかるのが厄介だった。


「人類が生まれて数万年。そこから徐々に人間の脳は変質していっている。だが能力が生まれもうすぐ百年。能力者の脳は、数万年という時間をかけて変質した人間の脳が今まで使ったことがなかった部分を使っている。当然だ、今まで存在しなかったものを使っているのだから」


 自分の体と意志だけを操ってきた人間の脳。だが能力という存在を操るようになれば当然脳は今までとは別の場所を使うことになる。あるいは今まで使っていた場所を拡張するなどの変化が求められる。


「すべての人類が能力を持てば、能力者として脳が少しずつ最適化されていくのだろうが……能力者になるかどうかは本人の素質次第。それも遺伝するか否かもまだ解明できない。人間一人では決して進化しきれない部分を補うように、人間の脳は僅かにではあるが、能力に適応するためにマナによって変質するのだ」


「脳が……?それは、まずいのか?」


「能力を使い始めたばかりの時、のことを思い出してみなさい。能力を扱うだけでも精一杯だったはず。だが今は、手足のように操れる。違うかね?使い心地が違う、と言えばいいのかな?」


 ドットノッカーは否定できなかった。能力を始めて扱った時の事。そして覚えたばかりの頃の事。その時と今、確かに使い心地というものは違うと思う。この老人の選択した日本語が正しいものかどうかはさておき、慣れというレベルではなく能力を扱えるのは事実だ。


 それだけ練習してきた結果なのだと言えなくもないが、この老人の話を聞く限りそれだけではないのだろう。


「能力そのものを操るにあたり変質した脳、は特殊な感覚を生むことがある。それは第六感とでもいうような特殊、なものだ」


「第六感……?」


「あー……どういえばいいのか……感じ取るものは人によって異なる。気配だったり、事象だったり、あるいは声だったり。特定のことに関してのみ、勘が鋭くなると言えばいいだろうか」


 そこで区切ってスカァキ・ラーリスはゆっくりと指をドットノッカーに向ける。


「長く戦ってきた能力者程、命の危機に瀕してきた能力者程、その感覚に目覚めやすい。恐らくではあるが、君もそう言う感覚に目覚めているのだろう」


「俺も?」


「君の中で、どのような感覚かはわからない。危険を察知するのか、あるいは自分の敵になり得る存在を教えてくれているのか、それを感じ取っている可能性、は否定できない」


 自分にそんな感覚があるとは思えなかったが、確かに今までそれらが感じられたことはあった。


 だからこそいち早く逃げ出すこともできた、戦うこともできた。そう考えると、今までのことが偶然ではなくある種の必然だったのだと、そう思えなくもない。


「……そんな事だけで、俺の言葉を重要だと?」


「もちろんそれだけではない。君は長い事戦い続けていた。そんな経験豊富な能力者の言葉、を無視するつもりはない。何より、最期まで気を抜いてはいけないということを思い出させてくれた。そうだった。何だったか?勝って兜の緒を締めよ、だったか?」


「……それは終わった後の話だ。まだ終わってない」


「そうか。これは失礼。ラビット01に対する見張りを増やそう。警戒しすぎるということはない。それと、装備はそのままに」


「どうして?壊しておいたほうがいいんじゃないか?」


「装備を残しておけば、それを使いたいという考えが浮かぶ。あの区画においておけば、それを釣り餌にもできる。現状使えないということは、装着しないと使えないのだろう。見張りには装備の置かれている場所へたどり着けないように常に配置を。トイトニーは」


「あちらにも警戒は必要だろうが、それでもあの少年程の圧は感じなかった。口が悪いのが一番の問題か」


「であれば、最終段階における警戒の人員をラビット01に多く振り分ける。トイトニーの方は少数で問題はないだろう。すでにかなり体力を消耗しているはずだ」


「了解。あと、もう少しか」


 甲板からは彼らの拠点である島がもう見えている。周介が何をしようともう変わらない。変えられるはずがない。確信に近いものがあるのに、ドットノッカーの胸中からは一抹の不安が消えてくれなかった。


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