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アロットロールゲイン  作者: 池金啓太
三十三話「世界の崩壊を阻むもの」

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「あの腕の奴は?アイヴィー隊が捕まえてただろ。ブルームライダーの場所と同じところに現れたやつ。あれも協力者だったのか?」


 それは手越が対峙し捕まえた能力者のことだ。ブルームライダーの出現と行動に合わせるようにやってきた能力者で、肉体強化と変換、そして念動力の両方を併せ持ったような能力を有していた。


 タイミングとしては、ブルームライダーのそれに合わせる形でやってきた。戦闘能力は高いとはいえ、その対応能力はお世辞にも高いとは言えなかった。


 他の場所に現れた能力者に比べると、その対応能力が数段劣っていたのは言うまでもない。


 あれもまた協力していた能力者なのだろうかと、疑惑が出るのは当然だ。


 どちらかというと、協力者なのではないかという疑惑よりも、あれは協力者ではないのではないか、という疑惑の方だが。


「一応あの能力者もファラリス隊に調査してもらった。そして個人所有していたパソコンなんかも既に調査済み。結論から言えば、ブルームライダーの活動を知って、それに合わせて活動して名を売ろうとしてた愉快犯?みたいなものだったよ。単純に無関係なただの暴れたがりってわけさ」


「なんだよ……傍迷惑な話だな」


「まったくね。ただ、今回のことでさ、能力者の活動が増える可能性がある。今回君達に来てもらったのはそういう事情もあったんだ」


 話が妙につながらないような気がする。そんなドクの言葉に全員が疑問符を浮かべてしまっていた。


「今回の映像、もちろん公式としても投稿したりしていたけれど、羽田のものも取り上げられた。その中で、一般人の盾になってラビット隊が奮闘したのを、君達も見たと思う」


 盾になれるような能力ではないというのに、一般人の盾となって負傷しながらも、一般人だけは守り切った。


 その姿に、あるものは感動し、あるものは怒り、あるものは不甲斐なさを感じていた。組織の中でもあの行動に関しては賛否両論だった。


 できないことをやろうとした。いや、正確に言えばできるけど適性がないことをやろうとしたというべきだろう。


 その結果、無理をして負傷して捕まった。


 あんな風に戦うべきではない。一般人など無視して能力者だけを攻略するべきだった。そんな風な意見も散見された。


 だが、マーカー部隊の隊長としては正しい行為だと判断する者もいた。あの行動をとれるものがマーカー部隊であるべきなのだと。


 どちらの意見も正しくあるが、現場からの意見は圧倒的に前者だった。現場の厳しさを知っている前衛型は特に前者の意見が多かった。


 あんな風に戦うべきではない。あんなものは戦いではないと酷評した。いや、酷評というべきではないだろう。


 なんであんな風に戦ってしまったのだと、なんであんな風にボロボロになるまで一般人を守ってしまったのだと、そのように尽くしてしまったのだと、文句を言っているのだ。ほかならぬ周介に対して。


 対して称賛をしているのはどちらかというと体制側の人間だ。組織の行動が正しいものであると、より良いものであるとアピールしたい、宣伝材料にしたいと考えているような人間だ。


 二つに分かれた意見は様々な思惑があるとはいえ、その思惑の中でも現場に波及するようなものが確かにあった。


「あの映像を見た能力者は思っただろうね。一般人を巻き込むような攻撃をすれば、組織の人間はそれを守らざるを得ないと。守るために体を張ってくれるだろうと。攻撃を受け止めてくれるだろうと」


「……一般人を巻き込めば、俺たちにも攻撃を当てられるって考えるバカが増えるってことですか?」


「まぁ、そういうことだね」


 それは考えとしては当然のものでもあった。人質を取られれば警察が動きにくくなるのと道理は似ている。


 組織の場合別に人質を取られても何も気にせずに行動することはできるのだが、マーカー部隊に関して言えば一般人へのアピールを目的にしている部隊でもある。


 そのせいもあって行動に制約も含まれる。


 そうなれば一般人を狙う相手に対しては動きが鈍るだろう。


「一般人は危ないってわかってねえから虫みたいに集まってきやがるからな……守るのは楽じゃねえぞ?」


「それだけじゃないな。能力者自体も、それを人間に使えばどうなるかわかってないような奴が多い。自分の力じゃ人は死なない。そんな風に考えるバカがいても不思議じゃないぞ?」


「そんな奴いるか?組織に喧嘩挑む以上、ある程度訓練はするだろ?」


「それを一般人に向けて使ったことない奴の方が多いだろ?むしろ居ないんじゃないか?能力をただの人間にぶつけたことがある奴なんて」


 能力は簡単に人を殺せる。銃火器と一緒だ。


 だが銃火器と違うのは、能力の上限、力が個人によって異なるということでもある。それを把握し、運用の際には特に注意しなければいけないのだが、個人で把握を行っている能力者はそれが雑になりがちだ。


 結果、想像もしていなかった、などというずれたことを言い出す可能性が非常に高い。


 自分の能力がそれほどの脅威になるなどと考えられなかったと、想像力の欠如した物言いをするのだ。


 未熟な能力者を相手にするときに気を付けなければいけないのは、そういう力の加減が一切できないという点である。


「でもドク、一般人を守りながらってのは今までと同じとして、相手が俺らじゃなくて一般人を狙ってきた場合、対処を変えたほうがいいんじゃねえの?」


「変える……というと?」


「今まで、ラビット隊は相手を拘束すること前提で動いてきた。そうじゃなくて、相手を容赦なくぶちのめす。そういうのも必要なんじゃねえのか?」


 それは今までラビット隊をはじめとするマーカー部隊が可能な限り避けてきた方法でもあった。


 もちろん相手を戦闘不能にするというのは今までもやってきた。ただそれは、あくまで手加減をした状況だ。


 相手の命も気遣った状態での戦闘だった。だが、この場で出ている内容は、そういうことではないことくらいはドクもわかっていた。


「最悪の場合、殺すことも視野に入れると?それは……あんまりにも……」


「別にラビット隊のやり方を否定してるわけじゃねえよ。それができりゃ最高だし、あいつらはマーカー部隊だった。一般人にもウケのいい行動をするのが連中の仕事だってのはわかるし、すげえと思う。けどよ、それで仲間が傷つくくらいだったら……そう思っちまうんだよ」


 大太刀部隊の面々も、別に人殺しをしたいわけでも、ましては容認しているわけでもない。


 今回、周介は一般人を守ることを優先した。その結果がこれだ。周介は誘拐され、今も生きているのかどうかも定かではない。


 そんな状況になるくらいなら、味方を危険に晒すくらいなら、大太刀部隊の人間はそれを引き起こす人間を殺す。それを選択できる。


「原因を取り除く。その考えは僕も賛成だよ。でもその方法が殺すだけとなると、簡単には首を縦には振れないかな」


 ドクとしても簡単に人殺しを容認するつもりはない。ましてやその方法が殺すだけとなればなおのことだ。

 死んでしまえばそこまでだ。何もできはしない。そんなことになるのはドクとしても避けたかった。


「なら、相手の手足をへし折る。あるいは切り落とす。骨折した状態でもまともに動くことができるようになるにはだいぶ訓練が必要だ。両手両足使い物にならなくなれば、まともに考えることもできなくなるだろ」


「ん……まぁ……それは……そうだけど」


 大太刀部隊の中で骨折をしたことがないものは少ない。だからこそ身をもって知っている。骨折した状態の痛みは尋常ではない。骨が折れた状態で動き続けるためには、それ相応の訓練が必要になる。具体的には苦痛に耐える訓練だ。


 それをしていないものにとって、骨が折れた状態で戦うことはほぼ不可能に近い。相手を無力化する方法として、相手を殺さない手段としては、悪くはないだろう。


「今回、映像でもラビット01が相手の腕へし折ってましたよね。あいつが、あんなことをしなきゃいけないくらい追い詰められてたんだ。本来、あんなのは俺達大太刀部隊がやらなきゃいけない仕事だ」


「……それは……」


 大太刀部隊は戦闘部隊だ。戦うことが目的の部隊だ。戦い、相手を倒すことを目的とした部隊だ。


 盾として傷つくことも、相手を傷つけることも、所謂汚れ役を引き受けることも、またその仕事の内に含まれている。


 周介達のような小太刀部隊の、マーカー部隊にそんなことをやらせることそのものが間違っているのだ。


「うちも同じ意見だね」


 そこに賛同の声を上げたのは、オーガ隊の隊長、鬼怒川桜花だ。その賛同の声にその場の全員が顔をしかめる。


 暴れたいだけではないのだろうか、と、そのように考えてしまうのも無理はない。実際その考えがないわけではないのだから。


「うちら大太刀が、小太刀の前に立つ。戦うのはうちらの仕事だ。誰かを傷つけるのも殺すのも、傷つくのも殺されるのも、うちらが担うべき仕事だ。それを誰かに譲るつもりはないよ」


 その言葉には、今までの鬼怒川にはなかった圧がこもっていた。それは大太刀部隊としての自負心か、あるいは周介を奪われたという事実からか。


 どちらにせよそれは自分がやるのだと、自分たちがやるのだと、自分たち以外にはやららせないと鬼怒川は言ってのけた。


 鬼怒川の言葉は、その場にいた多くの大太刀部隊の中に、ストンと、何の抵抗もなく入っていく。そしてどういう訳か腑に落ちてしまう。


 大太刀部隊としての役回りを、その仕事を、鬼怒川は本能で理解している。


 それ以外のことなどする気はないと、そう思っている。


 今までの鬼怒川は、自分が楽しければそれでいいと、そう思っている快楽主義者だった。


 だが周介と会い、周介を鍛え、大太刀の指導を始め、変わりつつある。いや、既に変わっていると言っていい。


 鬼怒川の言うことに従うなど癪だ。そう思うものもいる。どの口が言うのだと反感を持つ者もいる。


 だが、それでも鬼怒川の在り方こそが大太刀部隊のそれなのだと、全員が感じ取ってしまう。


 理屈ではない。一種の本能のようなものだ。闘争を、戦闘を、そして破壊を生業とする大太刀部隊として、戦闘に特化したもの全員が感じていることだ。そして今、全員がそれを確信する。


 鬼怒川こそが大太刀部隊の頂点であると。


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