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アロットロールゲイン  作者: 池金啓太
三十三話「世界の崩壊を阻むもの」

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「あぁ、それとさっきの質問に答えよう。私がここに来た理由、だったな」


 それは最初に問われたものだった。どうして葛城校長がここに来たのか。それが単純に疑問だった。


 普段であれば校長としての業務を優先している彼がなぜここにいるのか。その答えをまだ聞いていない。


「私が来たのは、君達の無事の確認もそうだが、少し、上層部と掛け合うためだ。しばらくの間、私にも席を用意してもらえないだろうかとね」


 席を用意する。その言葉の意味が分からないほど玄徳たちも馬鹿ではない。


 現役を引退し、組織内においては葛城校長の席は存在していない。完全にとまでは言わないが、組織からは脱した存在だった葛城校長が、その席を用意してもらおうとしている。


「現役に戻るつもりなんですか?」


「戻るといっても、実際に手腕を振るうつもりはない。指揮と指導をし直そうと、そう思ってな……先の戦闘で、随分と酷い有様だったのを見て、少々自分の指導不足を痛感したところだ」


 その言葉に、この中で葛城校長の訓練を一番知っている知与は背筋が寒くなる。わずかに殺気すら含まれているその反応に知与は無意識のうちに僅かに距離をとってしまったほどだ。


「あぁ、すまない。ともかく、今の大太刀部隊にはそれなりの指導が必要だと感じた。現場で動く大太刀部隊には……そう……一種の覚悟が必要になる。それを、最近の大太刀部隊のものは理解していないように感じられたものでな」


「覚悟……っていうのは?」


「……それを君たちが知る必要はない。君たちは小太刀部隊だ。何よりマーカー部隊だ。それを知るのは、我々大太刀部隊だけでよい」


 大太刀部隊だけが知るべき覚悟。それが一体何なのか、この場でそれを思いつけたのは直接指導を受け続けた知与と、元々大太刀部隊に所属している猛くらいのものだった。


「上層部が認めるでしょうか?校長先生がまた組織に所属するというのは……」


「本業が疎かになるようなことは私もしない。とはいえ校長というのも暇なときは見回りくらいしかやることはない。そういう意味ではうってつけだ。あまり気にする必要はない。幸い、あの子もやる気を出していると聞いた。一つ昔を思い出して指導するというのも、悪くはないだろう」


 要するに、上層部が認めようと認めまいと、葛城校長は今の大太刀部隊に対して指導をするつもり満々なのだ。


 こういう時に強い人間は本当に厄介だ。認めようと認めまいと、その力で強引に話を通すことができてしまうのだから。


 上層部としても大太刀部隊の訓練不足や実戦の経験不足を理解しているが故に断ることはしないだろう。

 もっとも、それが良い方向に話を進めることができるかどうかはまた別の話ではある。


 ただでさえラビット隊が欠けて現場の行動力が落ちている。現場指揮ができる人間が増えるのは素直にありがたいとはいえ、どのように判断するかは上層部次第だ。


 指導に関しては上層部としてもそこまで気にしないかもしれないが、さすがに現場に出るとなると話は別だ。


 訓練の延長という形でならばまだ拠点内の話に限られるだろうが、葛城校長のような立場のある人間を現場に出すというのは現時点の組織の今後というものに大きく影響を及ぼす。


 既に現役を退いた人間が今ある組織に口出しするというのはあまり良い事とは言えない。その辺りは葛城校長も理解はしている。


 だが、さすがに口を出さずにはいられない部分があったのも理解はできる。


 それが、先ほど言っていた覚悟の話だ。


 大太刀部隊の人間を教育するに当たり、絶対に必要になってしまうものだ。かつて葛城が教え損ねたこと、あるいは教えても忘れられてしまったことなのだろう。


「君達ラビット隊は、しばらくは休むと聞いている。その間に、英気を養いなさい。百枝君を助ける為に、必ず君たちの力が必要になる」


 その言葉に僅かな反応を示したのはずっと放心状態に近かった瞳だ。周介を助けるという言葉に対して、少しではあるがその目に光が宿りつつある。


「いざという時に動けないというのであれば意味がない。今は、しっかりと休んで体調を整えることだ。ここ最近は君達も働きづめだっただろう」


 ラビット隊が忙しかったことは葛城校長も把握しているらしく、少し申し訳なさそうにしていた。


 一つの部隊が常に負担を強いられる環境は、かつて組織の上層部にいた人間からすれば心苦しい状況なのだろう。


 少なくとも組織の体制側からすれば、あまり良い状態とは言えない。


「あの……校長先生。周介さんのこと……学校ではどういう扱いに……それに、周介さんのご家族には……」


「学校側に関してはこちらで対処する。入院か、実家の要件か……それは定かではないが……ご家族に関してはちゃんと報告するつもりだ。子供を預かっている状況でこんなことになったのだ。筋を通すのが大人の役目というものだよ」


 ただ怪我をしただけであればまだいいのだが、誘拐されたとなると話は別だ。さすがの組織側としても報告せずにはいられない。


 その後の対応、必ず救出するということも伝えておく必要があるだろう。


 ただし、周介がマーカー部隊であるということは伝えられない。本人たちからどのような情報が漏れて危険に晒されるか分かったものではないのだ。


 先日の白部の誘拐事件と一緒に説明し、今度は周介がその対象になった。そのような形で説明するほかない。


 葛城校長は部屋の奥でじっとしている瞳の方を見る。何を見ているのかわからないその目の奥には、僅かな光が灯っているように見えた。


 少なくともただ絶望しているわけではない。まだ、諦めていない。そのことが分かり、葛城校長としては少しだけ安心だった。


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