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「はぁ!?俺らが鬼怒川先輩のストッパー!?」
その話はさっそく手越たちアイヴィー隊の下へと伝えられた。小太刀部隊の大隊長室に集められたのはアイヴィー隊の各員、そしてオーガ隊の各員、さらにドクと、かなりの大人数になっている。
「そう言うことだ。現状、鬼怒川を止められるほどの実力を持った能力者を身内のために使うだけの余裕はない。そこで、現場においても優秀な実績を残し、なおかつ鬼怒川を止められるお前たちにそれを担ってほしい」
柏木大隊長の言葉に、手越はものすごく嫌そうな顔をしている。アイヴィー隊の隊長である小堤はそこまで動揺はしておらず、鬼怒川と相対することなどあり得ない桐谷と大網はそこまで気にしていないのか平然としていた。
一番いやそうにして声を上げたのが手越である。
「てごっち、そんな嫌そうな顔しなくたっていいじゃん。うちだって一人で動いていいならそうするけどさ、周りはそういう考えに至ってくれないんだもん」
「……鬼怒川先輩を一人で行動させるとか、怪獣に好きにさせるようなもんですよ……」
「酷くない?怪獣呼ばわりとか!うちだってか弱き乙女なんですけど?」
「か弱いって言葉を辞書で調べてください。で、大隊長……確かに、うちの隊長や俺の能力だったら、まぁ鬼怒川先輩を止められるかもですけど……そのために随伴しろと?」
「そう言うことだ。現場での活動もしてもらうことになるだろうが、主に鬼怒川の動向に注意してほしい。暴走しないように」
柏木の言葉に鬼怒川は『信用ないなぁ……』と少し情けなさそうに呟いている。むしろそれだけの力を持っていると信用しているが故の対処だろう。
「だが、それを認めさえすれば、オーガ隊の現場での活動も認められた。先日直談判した甲斐はあったということだ。むしろ喜べ」
「……ん。うちは現場に出たいんじゃなくて、百枝君の救助に回す人材を確保してほしいんだけど?」
「その点は安心しろ。すでに動いている。情報収集は常に行って、なおかつ痕跡の追跡も行わせている。救助用の部隊編成も行っているから」
「その中に俺たちアイヴィー隊は?」
「含まれていない。アイヴィー隊の強みは拠点防衛など罠を張るような状況だ。敵の拠点に殴り込みをかけるような状況では、その真価を発揮できないだろう」
柏木大隊長の言葉は的を射ている。
アイヴィー隊が最も能力を生かすことができるのは待ち伏せだ。どこか敵の拠点に向かって攻略するような状況は不向きだ。
人命救助などの状況では役に立つことはできても、人質の奪還、拠点の攻略と言った部分ではどうしても後手に出てしまうこともあるだろう。
もっとも、手越だけであれば話は別なのだろうが。
「そのため、他に回すための戦力は鬼怒川達オーガ隊と随伴はできない。そうなった時、アイヴィー隊は適任だ。小堤、お前の意見を聞こう」
「…………こちらとしては問題はありません。鬼怒川を止めればいいんでしょう?事前に体に糸か布でも仕込んでおけば問題なく」
「そうもあっさり言われると腹立つなぁ……止められるのは事実だけどさ」
「能力の相性の問題だ。いちいち突っかかるな。大隊長。俺は問題ありません。手越、お前は好きにしろ」
「へ?好きにしろって……」
「お前の能力なら、拠点攻略時にも役立つことができるだろう。百枝を助け出すとき役に立つかもしれない。わざわざお守りに付き合う必要もない」
「あ!ひど!それに救出作戦の時はうちだって行きたいんだけど!」
いっていることが無茶苦茶だと、鬼怒川の発言に多くの人間がため息を吐くが、柏木大隊長はそこまで気にしてはいないようだった。
「オーガ隊がラビット隊の代替として拠点防衛を行うのであれば、少なくとも救出隊に選抜されることはないだろう。よほど状況が変わらない限りは新体制のままでいく事になるはずだ。アイヴィー隊はそれを心掛けてほしい」
「オーガ隊と一緒に活動することを念頭に入れておけということですね。了解しました。暴走を止めるという意味だけでよいのであれば問題ありません」
小堤がさも当たり前のようにそう言ってのける中、鬼怒川は納得していないようだった。
「えー……うちも百枝君の救助には加わりたいんだけど……うちの部隊全員置いていくからうちだけでも参加しちゃダメ?」
「隊長だけ抜けるなんてことが許されるとでも?そんなわけがないだろう。この拠点の管理範囲を百枝の代わりに守ると言ったのなら守れ。自分の言葉には責任を持つのが隊長の役割の一つだ」
柏木大隊長の言葉に鬼怒川は不満そうにしている。とはいえ反論しないのは柏木大隊長の言葉が正しいものだと理解しているからなのだろう。
よほど状況が変わらない限り今回の采配は変わらない。
「そのため、ラビット隊に関してはしばらく表の活動を休止、ないし後方支援に注力してもらう。実際、隊長がいないのでは活動にもかなり影響が出るだろう」
「それは……そう……ですが……」
「こういう言い方をしてしまうのもなんだが、これもいい機会だ。お前たちはずっと働き詰めだった。少し休め。精神的にも肉体的にも、休息は必要だ」
柏木大隊長は自分で言っておきながらそんなことはできないだろうということは何となく察していた。
自分たちの隊長が攫われているにもかかわらずのうのうと休める人間ではないということくらいはわかっている。
だが上司としてはこう言わざるを得ない。ラビット隊はずっと働き続けていたのだ。少しは休ませないと、その反動が出てくる。
特に精神的にやられている時に働かせても何かしらミスが出るものだ。それを予見できないほど柏木大隊長も馬鹿ではない。




