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「指揮命令系統に関しては、以前から見直しをしようという動きもあった。それに関しては状況把握体制を改善する。ツクモシステムを使うことで、ドローンカメラを展開して状況把握ができるようになった……と、そういう話だったな」
「はい。ツクモの協力のおかげで、ドローンの飛行に関しては問題はありません。ついでに言えば先日行われた調査のおかげで地形データも取れました。問題が起きた範囲でドローンを展開して空の目を展開します。そうすれば屋内でない限りは現場以上に状況を把握できます」
言音の能力と協力すれば、ドローンの電源を繋げた状態のまま飛行させることだってできる。有線でコンピューターと繋げておけば、ツクモによる自動操縦も可能だ。
現場よりも広い視野で状況を把握することができれば、能力者たちへの指示もより具体的にできるだろう。
現場の指揮官に依存することが無くなるのは大きな利点だった。
「指揮命令系統は、拠点と現場で併用し、必要とあれば裁量権も現場に与えはする。そうして臨機応変に対応するのが良いだろう。だが、いざという時に指示を聞かないのでは問題だ。その場合を考えなければ」
「オーガ隊が命令無視をすると?」
「その可能性を考えておくべきだと言っている。命令無視というのは言い方が悪いな。命令に従っていても、やりすぎる可能性を考えるべきだということだ」
その言葉にその場の全員が納得してしまう。
鬼怒川は良くも悪くも昔から暴れていた。もちろん本人だって暴れたくて暴れた時もあれば、暴れたくなくても暴れてしまったことだってある。
きちんと常識を、最低限、必要な程度は学んだ今の鬼怒川は、少なくとも自分の好き勝手に暴れるということはあまりしない。しないわけではないが。
真面目にしなければいけない場面においては、下手な行動をするということはないだろう。特に止められている状態であれば、自分の立場なども考えて自粛する程度のことはできる。
問題は、指示を受けて大義名分を与えられた時だ。
普段ブレーキを意図的に駆けている彼女が、やってもいいと許可を出された時、どれほどアクセルを踏むのか、予想ができない。
もちろん指示を出した以上は指揮者の責任にはなるが、問題は彼女自身も悪気があってやるわけではないというところにある。
「そこで、彼女を止められる人間を常に一緒に行動させるべきだと思う。私は間違ったことを言っているか?」
「いいや、正論だ。だが……」
「……鬼怒川を止められる人物……か……」
「ラビット01は、彼女をうまくコントロールしていたらしいが、彼はいないしな……」
鬼怒川を止めることができる人物。オーガ隊を止められる、ではなく、鬼怒川を止められる人物こそ求められているのだ。
オーガ隊もかなり暴れることが好きなタイプの能力者がそろっているとはいえ鬼怒川よりはマシだ。
一番力を持っていて、一番暴走しそうになる鬼怒川こそ止めるべき相手でもあるのだ。
「他に鬼怒川を止められると言えば、葛城先生と……BB隊くらいか」
「既に現役を退いた葛城先生に苦労を掛けるわけにはいかんだろう。それにオーガ隊とBB隊を一緒に行動させるなんてのは戦力過多すぎる。何よりもったいない」
BB隊はこの組織の中で唯一といっていいほどにオーガ隊と拮抗した戦力を有していて、なおかつ上層部の意向にもきちんと従ってくれる優良な部隊だ。
オーガ隊を止めることは問題なくできるだろうが、問題としてはそんな優良な部隊を味方部隊のストッパーのためだけに活用するのはあまりにももったいないという点である。
「鬼怒川を止められるとなると、やはり大太刀か?強力な念動力を有している能力者であれば、相性的に止められるだろう」
「となるとアカシャ隊か……他にも何人かに声をかけるか……だが大太刀部隊の強力な念動力の使い手は他の活用法があるからな」
上層部の人間が迷っている中、一人、ドクと柏木大隊長は互いに視線を交わして小さくうなずく。
「一人、いえ正確には二人になりますが。鬼怒川を完全に止められる部隊ならあります。前提の条件さえクリアできれば」
柏木大隊長の言葉に全員が疑問符を浮かべる。
二人で鬼怒川を止めるのかと、そんなことができるのかと。普通の能力者であればまず無理だ。柏木が挙手しているということは、小太刀部隊の所属なのだろうということはわかるが、それができるとは思えないだけに疑問は残る。
「誰だ?小太刀部隊にそんな人間がいたか?」
「……アイヴィー隊の小堤。そして手越です」
その発言に全員が思い出したようにその二人を脳裏に浮かべる。物体を固定する能力を持つ小堤と、念動力によって物体を手の形に変えて操作する手越。
この二人の能力どちらか、あるいは二人がいれば、条件さえ整えられれば鬼怒川の動きを完全に止めることも可能だ。
特に小堤。彼の能力を活用した場合、事前に鬼怒川の装備などにあらかじめ能力のマーキングを仕込んだ物体を込めておけば、能力の効果範囲に入っていさえすれば、いつでも鬼怒川を無力化できることになる。
「アイヴィー隊の基幹要員は全員学生です。ラビット隊と同じく比較的時間も取りやすいので、動きやすいかと」
上層部全員が顔を見合わせる。戦力として手軽で、なおかつ動きやすく、さらには鬼怒川を止めることができるという特徴を持っている小太刀部隊。
これを活用しない手はないと、この場のほとんどの人間が考えていた。




