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アロットロールゲイン  作者: 池金啓太
三十二話「近づく崩壊の足音」

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「そろそろ乗り換えだな。行けるか?」


 飛行機の中、一般人たちが怯えている中でその人物はゆっくりと立ちあがる。


「現在位置再確認だ。おい、位置情報は正確だな?」


「大丈夫。確認したよ。そっちは……あまり大丈夫ではなさそうだ」


 負傷者二名。両者ともに出血している状態だったが、一人は絶対に意識を失ってなるものかと歯を食いしばっている。


 もう一人、周介は血こそ止められているものの未だ意識が戻っていない。


「この飛行機はどうする?落としたほうが情報が漏れなくていいんじゃないか?多少なりとも情報が伝わるのはよくないだろ?」


「無作為に人を殺すなって言われたの忘れたの?あんまりやらかしすぎると怒られるよ?」


「俺らの目的が達成される方が優先だろ?ここまで来て情報が漏れてご破算なんてのはごめんだぞ」


「だからって主義にそぐわないことしてどうするのさ。何もしないと約束したんだ。それを反故にしたらただの外道だよ」


「外道に落ちたってやらなきゃいけない事ってもんがあるだろ。やるべきことやらねえのはただの甘えだ」


 二人が言い合っている中、歯を食いしばって意識を保っていた転移能力者が立ち上がる。


 折れた両腕は一応添え木をされているが、それも応急処置に過ぎない。撃ち抜かれた足も含めて激痛が襲っているだろう。そんな中、口論をしている二人の間に体を割り込ませる。


「いい加減にしてくれ……」


「おい、お前動くなよ。せっかく血が止まったってのに。また傷開くぞ」


「そんなのは後で治せばいいよ。俺たちは、ここから、すぐにいなくなる。ここで余計な人を殺す必要なんて、ない」


 転移能力者はこの飛行機の人間を殺すことには反対のようだった。


 その言葉に、片方は苛立ちを隠せないようだった


「必要ならある。俺たちの情報を隠蔽するためには、全員死んだ方が確実だ。違うか?」


 情報秘匿の観点から言えば、どこで飛行機が墜落したかもわからないような状況にするのが最適だ。


 大海原で飛行機の残骸を見つけるのは至難の業だ。少なくとも一朝一夕で見つけられるようなことはあり得ない。この広い海の中で一つの点を見つけることがいかに困難か、実際にやってみるまでわからないのが現実だ。


 その気になれば今すぐにでも実行できる。それだけの能力を有しているのが能力者だ。だがその人物がそれ以上口を開くよりも早く転移能力者は強くにらみつける。


「この飛行機の人間を一人でも殺してみろ。あんただけ置き去りにして転移してやる。あんた一人じゃ、飛行機が墜落した時に助かるなんてことはできないだろ」


 それは脅しだった。この飛行機から脱出する手段は二つ。一つは転移能力による離脱。もう一つはパラシュートや飛行機そのものを海へ不時着させることだ。


 前者の場合であれば、転移で合流地点まで向かうこともできるだろう。だが後者の場合、まともな移動手段もない状態ではいつ死ぬかもわからない。


 もしかしたら運が良ければ助かるかもわからないが、そんな万に一つあるかもわからないようなことをする必要性はない。


 仮にこの場で人を殺そうものなら、そんな必要もない命の賭けをしなければならなくなる。


 強い言葉を放っている人物としても、そんなのはごめんだった。


「わかった、わかったよ。俺たちはここからさっさと離脱しよう。そのほうが俺たちのためってわけだ」


「最初からそうしていればいいのに……さぁ、移動するよ。頼める?」


「大丈夫です。頭はガンガンしますけど、能力は使えます」


「オーケー。んじゃ、ご搭乗の皆様。大変ご迷惑をおかけしました。俺たちはここらで途中下車とさせていただきます。あとはお好きなように空の旅をお楽しみください」


「まった、この人の装備、どうすんの?たぶん発信機とか取り付けられてるでしょ?」


「爺さんから装備は一緒に持ってこいって言われてる。たぶん発信機とか通信機だったら頭装備だろ?あとで俺が壊しておく。それ以外のカバンとかはこの飛行機に捨てておけ」


 周介の装備を手際よく外していき、四人で一塊になるとその様子に一般人の乗客は一瞬安堵したような、だがまだ安心できないような不安そうな表情を浮かべる。


「見なよ、変な事言うから皆さん怖がっちゃてるじゃない。もう少し考えて喋りなよね」


「うるせえな。俺だってちゃんと考えて喋ってるつもりだよ。少なくとも作戦の成功第一に考えてる」


「そう?ただ八つ当たりしたいだけなんじゃないの?」


「お前に八つ当たりしてもいいんだぞ?」


「二人とも……やめろ……二人とも置き去りにするぞ……」


「わかったわかった。ごめんって」


 この中で一番負傷している転移能力者が、この二人を御しているように見える。少なくとも現時点で、この二人はこの転移能力者をないがしろにすることはできないようだった。


「それじゃ、ランデブーポイントに向かうよ。頼んだ」


「わかりました。行きます…………ごめんなさい」


 転移能力者が小さく謝罪の言葉を告げた瞬間、周介を含めた四人の姿が消える。


 能力者がこの場からいなくなった瞬間、全員が安堵の息を漏らしていた。


「皆さん、お怪我はありませんか?気分のすぐれない方などいらっしゃいませんか?」


 能力者がいなくなったのを確認してから客室乗務員が体調不良を訴える者がいないか確認して回っている。

 そしてすぐに機長の下に向かい、能力者がいなくなったことを報告しに行っていた。


 一度まずは羽田空港に戻る。寄り道などというレベルではなく移動させられた。燃料的な意味でも、事情を説明するという意味でも、羽田に一度戻る以外の選択肢は彼らにはなかった。


 この飛行機のルートが、組織が感知できていた周介の最後の位置となる。発信器などを発する装備を破壊され、言音の入り口の通じているバックもはぎ取られ、周介は一人、別の場所へと連れ去られることになってしまった。


 件の作戦が始まるまで、もはや秒読み段階になっていた。


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― 新着の感想 ―
[良い点] 敵方転移能力者、ホントに頑丈……というより、タフか。覚悟決まってる雰囲気ある。 [気になる点] これは久々に周介一家登場か、いや最悪に至ってはいないから事情説明もなしか。ラビット1の中身の…
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