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周介が意識を喪失する少し前、川崎の工業地帯では繰り返される爆発によってかなりの被害が出てしまっていた。
ドットノッカーと戦闘を繰り返していた時に唐突に発生した爆発は、強化系に属する能力者を吹き飛ばし続けた。
死亡こそしていないものの、戦闘不能の状態に陥っているものも何人かいる。
「クソ！爆発野郎何処にいるんだよ！？」
『索敵の範囲外からの攻撃です。位置不明！』
知与の現在位置はドットノッカーのいる位置からするとさらに内陸側であるとはいえ、広大な索敵範囲を誇る知与の索敵に引っかからない程度の距離から攻撃を続けてるというのが恐ろしいところだった。
ブラックネーム『インクバォ』攻撃力もさることながら、最も危険視するべきなのはその攻撃範囲だ。
こちらが認識できないほどの距離から一方的に爆撃してくる。さらに言えばその精密な爆撃位置も脅威だ。
味方だと思われるドットノッカーには一度たりとも攻撃を加えていない。
ミーティア隊に匹敵するほどの攻撃範囲に、的確な定点爆破。そしてその威力。連射性。どれも非常に優れている。
ブラックネームに名を連ねているのは伊達ではないということを猛たちは感じていた。
「大将は無事なのか……！？状況どうなってんだ！？」
『落ち着きなさい06。今ここであたしたちが騒いでもどうにもできない。隊長の不在はあたしたちがフォローすんのよ』
瞳も内心気が気ではなかった。周介は無事なのか。どうにか助けに行けないものか。不安と焦りの色は強く、何もできない自分に対する苛立ちは募っていくばかりだ。だがそれを周りにぶちまけても意味がないと、瞳は必死に自分を律していた。
周介がいないのであれば、自分がこの部隊の次席指揮官だと自分に言い聞かせながら瞳は歯を食いしばる。
『ドットノッカーを逃がしちゃダメ。包囲網を再形成。ドットノッカーに肉薄していれば爆撃もしにくいはず。距離を詰めて。ノーマン隊は周辺の索敵を広範囲に展開。04も索敵範囲を広げて。多少見落としがあってもいいから』
『了解しました。索敵範囲最大まで広げます』
知与の狙撃は確かに優秀ではあるが、そもそも索敵できないほどの距離を取られてしまうと役に立たない。
知与は索敵の精密さを捨てて索敵範囲に重点を置く形で辺りを確認し始める。
『トータス隊、まだ動けますか？』
『まだ何人かはいける……包囲網の役に立つかはわからねえが……』
『援軍が来るまで逃がさなければそれで構いません。爆撃がどのタイミングで来るかわからないため、耐久力重視で。やられないことを前提でお願いします』
この爆撃はあくまでドットノッカーへの援護という形で行われているようだ。
幸いにして広く人のいない場所を選定していたおかげで、一般人に対する被害は少なく済んでいる。強いて言えば置かれている大量の車が、もうほとんど破壊しつくされているというところだろうか。
『警戒してください！北部より飛翔体複数接近！』
知与の報告に全員がぎょっとする。飛んでくるものなどいったい何があるかと聞かれて思いつくものがなかったのだ。
「飛翔体だ！？ミサイルか！？」
『いいえ、このサイズは………………箒です！人も乗っています！能力発動中……？ブルームライダーと推定！』
このタイミングで東京タワーのところにいたはずのブルームライダーがやってきた。
確かに既に活動を初めて、最後に箒の能力の発動が確認されてからかなりの時間が経過している。
だがこちらにわざわざ来るとは思っていなかった。
『高度……約三百！こちらに飛んできています！』
高度三百。肉眼での目視も強化無しでは難しい距離だ。知与が索敵範囲を広げていたからこそ認識できただけで、遠くからでは高度のせいで認識も難しいほどの位置にいる。
だがなぜこのタイミングでブルームライダーが姿を現したのか。今まで全くと言っていいほどに姿を見せなかった能力者がこのタイミングで。
その疑問を解消するよりも早く、辺りに再び爆撃が起きる。
考える暇を与えてくれない。
だがブルームライダーがわざわざこの辺りにやってきた理由は察しがついていた。
「こっちへのかく乱か、あるいはドットノッカーを逃がす役か、どっちにしろ俺らの邪魔になることは間違いない。射撃部隊！こっちに来る前に撃ち落とせるか！？」
『高度がありすぎますね。位置をこちらで把握できません。接近してきたタイミングで撃ち落とすのが最適かと』
知与が索敵範囲を広げてようやく確認できるほどの距離なのだ。通常の射撃部隊ではそもそも射程距離に収めることの方が難しい。
『お嬢、狙撃は可能ですか？』
『何とか。でも、乗っているのは一人だけです。箒を優先して破壊します』
知与の狙撃であれば届く。認識できている距離の中であれば知与の狙撃は問題なく相手を撃ちぬくだろう。
どんどん近づいてくるブルームライダーの動きを意識していると、不意にドットノッカーの動きが変わる。
先程までとは打って変わり、ブルームライダーの来ている方角を目指し始めたのだ。
「逃がすな！止めろ！」
「やっぱり逃がす役だ！ブルームライダーも撃ち落とせ！」
知与の狙撃が放たれ、ブルームライダーの操る無数の箒の一つが盾となって防ぐ。そのせいで本体に当たらない。
箒の数が多すぎて、本体まで攻撃が届かないのだ。連射できないのが狙撃の弱み。知与は歯噛みしながら次の弾丸を装填していた。
『ブルームライダー、接近してきます！水平距離五百、方角北北西。高度下がってきました。高度約二百！』
知与の報告にその方角を見るが何も見えない。目視で見える距離ではない。もっと空気が澄んでいれば見えたかもしれないが、この辺りは工業地帯だ。空気も荒んでいて靄もかかっていて見えにくい。
位置を大まかに報告されてもそれを感知できるのは知与だけだった。
狙撃を繰り返しても箒の数が多すぎて破壊しきれない。あっという間に近づいてきた箒群が目視できるようになってようやく射撃が始まるが、そのタイミングでドットノッカーは跳躍する。
ブルームライダーと協力してこの場を逃げ出そうとしているのだということはその場の全員が理解していた。
箒への攻撃は射程距離の問題で難しい。ならばと、全員が攻撃対象をブルームライダーからドットノッカーへと切り替えた。
『行かせねえよ！』
空中ではドットノッカーも思うように動けないはず。全員がドットノッカーに対する攻撃を集中した瞬間、ドットノッカーの直下で爆発が起きる。
全員が長距離の爆破支援であるということを即座に察知するも、爆破によって多くの攻撃が防がれてしまっていた。いや、防がれたというよりは強引に吹き飛ばされたと言ったほうがいい。
そしてドットノッカーの体そのものも、更に上空へと運ばれていく。
『当てます』
知与もまた狙撃相手をドットノッカーに変えたようだった。爆破によって体勢を崩しているその体めがけて放たれる弾丸は、一直線にその体めがけて襲い掛かる。だが着弾寸前で能力を発動したのか、その弾丸の起動が僅かにそれ、ドットノッカーの肩の肉を僅かにえぐり取った。
『損傷軽微！崩しきれません！』
他の強化能力者が跳躍して追おうとするが、直上に爆発が連続して起きていて上空へ跳びあがることができない。さらに言えば爆発の光によって地上部分からの射撃もほとんど盲目撃ち状態になってしまっている。
攻撃を何度繰り出しても当たらない。先ほどの知与の攻撃のように的確に撃ち抜かなければ防御すらしてもらえないのだ。
『雑用！道を作る！突っ込め！』
「おうよ！」
連続で起きる爆破を掻い潜る形で玄徳の加速の能力が発動し、一直線に空へと延びる。
そして迷いなく猛はその先へと突っ込んだ。
幾多もの爆発が空を覆う中、猛はそれを突っ切って空中へと飛び上がる。
ちょうど上空では箒の一つがドットノッカーに向かって接近しようとしているところだった。
「逃がすかよぉ！」
猛は推進剤を使って一気に接近していく。このタイミングでなければもはや攻撃を当てることなどできない。ここで逃がすわけにはいかないと突撃を仕掛ける。
だが接触する直前、念動力によって弾き上げられる。空中に撥ね上げられた猛は回転しながら空中の状況を確認しながらその姿を目にする。
更に上空の箒に乗っている、一人の人物。目の光から、能力者であるということはわかる。周りを取り囲むように展開している箒の群れのせいで姿を確認することは難しいが、猛の考えは即座に変化した。
「お嬢！フォロー頼む！」
推進剤を噴出させ、猛は更に上空へと向かう。
目標は、ブルームライダー。
ドットノッカーがブルームライダーを頼りに逃げようとしているのであれば是非もない。考え方を変えてブルームライダーを対処しに行くだけの話だ。
もっとも、猛の体に装着してある推進剤では上空までもつかはわからない。
だが猛が上空に向かうというところで、相手の意識をほんの少し猛の方に向けるだけでもよかった。
二度目の推進剤を使ったあたりで、ブルームライダーも猛のことを認識したのだろう。更に上空に逃げようとした瞬間、ブルームライダーの近くにある箒の一つが知与の狙撃によって弾け飛ぶ。
下手に動けば撃ち抜くぞという知与の圧がブルームライダーの動きを阻害する。下手に箒を動かせば撃ち抜かれる。
高度を上げようとすれば当然周りの防御を担っている箒だって動かさなければならない。だがその時に僅かな隙までもできようものなら、撃ち抜かれるという圧が知与からは放たれていた。
『狙撃で援護します。お好きにどうぞ』
「あぁ！最高だぜ！」
再び猛が推進剤を使って一気にブルームライダーと同じ高度まで跳びあがろうと加速した瞬間、爆撃が猛の近くで起きる。
本来であれば猛を地面に叩き落そうと、猛のやや上空で発動したものだが、タイミングが良かった。猛の体が急加速し上空に向かったタイミングで爆発が起こったおかげで、その体が更に上空へと運ばれる。
ただ制御も何もないただの爆破であったために、その体はブルームライダーの体からはやや離れた位置に飛ばされてしまう。
「まだ……まだああぁ！」
猛は回転する体を何とか制御しながら、再びブルームライダーの下へと最後の推進剤を使って突撃する。
