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アロットロールゲイン  作者: 池金啓太
三十二話「近づく崩壊の足音」

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 ドットノッカーと対峙しているメンバーは、その動きが先ほどの爆発からまた変わったことに気付いていた。


 先程まで周介を追うような形でとにかく行動していたドットノッカーだが、今度は周介を追うことよりも海側へ移動することを目的とした動きをし始めた。


 川崎の工業地帯の浮島の北側海。つまりは羽田空港側だ。海を隔てて向こう側にあるため、それでも二キロ近くあるわけだが、視界の先にある空港などには相手を向かわせたくはない。


 空港には一般人が山ほどいる。そんな場所に向かわせたらそれこそ大惨事になりかねない。


 考えられるのは飛行機を奪取して逃げることだろうか。そんなことをされたら追跡がかなり面倒なことになる。


 周介の保有している装備でも旅客機クラスの速度を出すことは難しい。本格的な航空機を使えば問題なく追うことはできるだろうがその準備をするのが面倒だ。


「海の方に行かせるな!包囲網海側に寄せて!ドク!援軍まだですか!?」


『もうちょっと!もうちょっとだから踏ん張ってくれ!今全速力で向かってるところだから!』


 全速力で向かってくれているのはありがたいのだが、早く来てくれないとドットノッカーを抑えきれない。空中、もとい海上に飛び出したら撃ち落とすことくらいはするつもりだが、それでも止まらない可能性を否定できなかった。


 特に周介、玄徳、猛の三人はこのドットノッカーを海に逃がしたという過去がある。


 あの時と同じ轍を踏んで溜まるかと、かなり意識してドットノッカーを押しとどめようとしていた。


 単純な戦闘能力では劣るラビット隊だが、戦闘における立ち回りに関しては実戦と訓練を繰り返してきたこともありかなり優秀だ。


 ドットノッカーが行きたい場所に行かせないように攻撃をし、相手の動きを阻害して押し返す。


 もちろんドットノッカーも反撃して周介たちを弾き飛ばそうとするが、そこは歴戦の能力者である古守が徹底的に防御する。


 周介は自分から回避をするためにそこまで気にしてはいないが、玄徳やトータス隊の中衛に位置している能力者たちを実に巧みに守っている。


 腕を振りかぶり、攻撃を放とうとした瞬間にその腕めがけて念動力の打撃が飛んでくる。


 そのせいで軌道が逸れ、明後日の方角に念動力を飛ばしてしまうのだ。


 ドットノッカーが攻撃の動作に入ると同時にピンポイントの射撃。これほどまでに精密な能力の発動はそうみられるものではない。


 そして攻撃によってできた隙を見て強化の施されている猛たちが攻撃を仕掛け、ドットノッカーの体を内陸側に押し込むのだ。


 海に逃げようとして、また船にでも回収されたら笑えない。


 特にあの時のように、ブラックネームまで来ているとなるともう笑えない。あの時と同じ状況になるのは勘弁願いたかった。


 あの時と違うのは、台風が来ていない事。そしてあの時の場所よりも人が圧倒的に多いことだ。戦闘面でも、一般人という意味でも。


『ラビット隊とトータス隊!あと射撃部隊!そっちにもしかしたらブラックネームが行くかもしれない!詳細な状況わかってないんだけど、かなりやばいかも!』


「海ほたるの方は!?アカシャ隊は無事ですか!?」


『幸い命には別条はないよ。高速道路がおしゃかになったくらいだ。あと打撲と火傷多数。それと、拘束しかけていた能力者が殺された』


 その事実に周介たちは全員眉を顰める。


 仲間だったのか、それとも敵だったのか。どちらにせよ面白くない話だ。こちらが戦っているところに横やりを入れてきたのだから。


 ただ、間違いなくドットノッカーとは繋がりがあると見るべきだ。ならば、少しくらいは情報を知っているとみて間違いはない。


「むかつきますね……簡単に人を殺すとか……そういうの……!」


「おい大将!頭冷やせよ!?変に突っ込んだりするんじゃねえぞ!」


 現時点でも前に出過ぎていると思っている猛の必死の叫びを聞くだけの冷静さが周介にもまだあった。


 誰かを簡単に殺されるほど腹が立つことはない。それは以前周介がエッジリップと出会った時の事と似ていた。


 以前と違うのは、周介が頭に血が上ってすぐに駆けださなくなったことだろうか。


「わかってるよ。ただ、目の前の奴には知っておいてもらいたいね……!」


 周介はドットノッカーの攻撃が届かない位置に一度距離をとると、拡声器を使ってその声をドットノッカーにぶつける。


「おいお前!いったい何が目的だ!?人を殺したり高速爆破したり!いったい何がしたい!?」


 周介の言葉にドットノッカーは僅かに反応を示した。だが周介が話しかけているからと言って他のメンバーが手を止めることはない。


 常に攻撃をし続け、ドットノッカーを少しでも疲弊させようと動き続ける。


「あの爆破野郎とつるんでなにを企んでる!?この間の人さらいの一件もその一環か!?人様に迷惑かけて何考えてんだ!?」


 会話というよりは説教や文句のそれに近くなっているが、相手の意識を散らすことには成功しているようだった。


 話を聞こうとしながらも、周介からやや距離を取り始めている。先ほどまで追ってきていたのとは真逆の行動だ。


 本当に何を考えているのかわからず、周介達は疑問符を抱えてしまっていた。


 ドットノッカーと周介の距離は先ほどよりもかなり広がっている。


 トータス隊を主軸にした強化変貌能力者と古守率いる射撃系能力者の併用包囲網の構築は上手くいっている。


 海側から引き離し、内陸側にドットノッカーを確実に釘付けにすることができている。


 そこはいい。だが問題は先ほどまでの動きとドットノッカーが更に異なる動きをしている点だ。


 周介を追っていたと思えば海へ逃げようとし、それが叶わないとなれば周介から距離を取り始める。


 包囲網のさらに外側で周介はドットノッカーを観察し続けた。


 いったい何が目的なのかさっぱりわからない。というより動きに一貫性がないのだ。


 状況に応じて動きを変えているにしても、どういう意味を持ってるのかを判別しにくい。


 周介を狙ってたのはまだ理解できた。あの時、新潟で出会った際に追っていた人物に因縁を返そうと思ったのかもしれない。


 ただ。それにしては鈍い攻撃と動き方が妙なのが気になってしまう。実際にどのような目的で動いているのかがわからないのが一番厄介だった。


 今までのように短絡的な行動をとっているような能力者であればわかりやすかったのだが、この男相手にはそうもいかない。


 戦闘中に、そして周介の向ける言葉に答えようとしているのか、それとも独り言をつぶやいているのか、途中口が動いているように見えた。


 いったい何を口にしているのだろうか。何をしゃべろうとしているのか。


 周介は読唇術の類は身に着けていないために判断できなかった。


 聞き取ることができないほど小さな声だ。独り言の類の可能性は高い。


「04、ドットノッカーが何か喋ってる。わかるか?」


『すいません、一瞬だったので……メガホンという単語はわかったんですが……』


 メガホン。周介が持っている拡声器の事だろうがいったい何を言いたかったのかはわからない。


 単純に拡声器がうるさいとかそういうことだろうかと思いながらも、ドットノッカーは徐々に周介から距離をとっていく。


 当然包囲網も周介から離れていく。一体何が目的だろうかと疑問符を浮かべている中、それに反応したのは知与だった。


『行動中の全隊員へ。川崎工業地帯の一角、能力者出現。転移能力者です。いきなり現れました。方角は……北西』


 転移能力者がいきなり現れたという報告に周介たちはその方角に意識を向ける。


 転移能力者というとドットノッカーと行動を共にしていた根性のあるあの転移能力者だろうかと、関わったことのある何人もがその人物を思い浮かべた。


「全員警戒!転移能力者を使って逃げられるかもしれない。射撃班。転移した瞬間に狙い撃てますか?」


『少々難しいですね。位置が指定できてればよいのですが……』


「ドットノッカーを中心に攻撃を集中してください。相手が突っ込んだときに即当たるように。前衛部隊も転移能力者がいつ来てもいいようにしてください」


 転移能力者による離脱。それは最も警戒するべきところだ。


 何を目的にしているのかはわからないが、もうこれ以上ドットノッカーを取り逃がすのは避けたい。


 ただでさえブラックネームまでこっちに来ているかもしれないのに、これ以上余計な手間をかけたくないというのが正直なところだった。


「04、転移能力者の位置をマップに表示。それと周辺のどこに転移したか逐一報告、頼むぞ」


『了解しました。お任せください』


「ドク、ノーマン隊から件のブラックネームと思わしき能力者の位置は上がってきましたか?」


『まだだね。今全力で場所を確認してるところだよ。もう少し待ってくれるかい?』


 こっちに来なければいいのだがと、周介は先ほど爆発が起きた方角を一瞬確認する。ドットノッカーが周介から離れてきているおかげで、攻撃そのものが飛んでこなくなってきている。周りを見るだけの余裕ができるのは素直にありがたかった。


『お待たせ!援軍部隊そっちに到着するよ!射撃部隊メインだ!これでドットノッカーを制圧してくれ!』

 空中からスワロー隊に連れられた能力者たちがこの戦場に降り立ってくる。


 これで楽になるぞと全員が考えていた時、その悲鳴にも似た声が響く。


『転移能力者が消え…………っ!隊長!』


「は?」


 転移能力者が消えたという報告と、周介を呼ぶ悲鳴が続くとき、周介は一瞬何が起きたのかわからなかった。


 誰かに肩を掴まれた。その感覚があった次の瞬間、視界が唐突に切り替わり、空を見上げていたのだ。


 そして自由落下を始めている。自分が地面に立っているのではなく、空中にいるということに気付くのに、少し時間がかかったほどだ。


 そして落下の風を感じて初めて『自分が転移させられた』という事実に気付く。


「な……なに!?」


 転移能力者が周介の体を羽交い絞めにする。


 周介の体を離すまいと必死に抱き着き、再び転移の能力を発動していた。


 空中、回転する体に安定しない姿勢。だが今自分がどこにいるのかはわかる。海の上の上空だ。


 いったい何が起きたのかと混乱するが、混乱するよりもまずはやることがある。


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― 新着の感想 ―
組織ほんま肝心な時に無能やな。部隊を出し渋って、俯瞰してる状況やのにこれ?一般人が邪魔なことくらい分かってるのにろくな対策しない同じ展開とか興ざめすぎる。攫われるにしてもそれまでの計画もいいようにされ…
[一言] 周助ッ〜〜〜!!!
[良い点] 隊長が狙われるのは分かってた。 でも、このアツい展開にワクワクが止まらない!
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