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アロットロールゲイン  作者: 池金啓太
三十二話「近づく崩壊の足音」

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「追加の能力者か……ここか海ほたるのどっちか……海ほたるって言うと……あっちか」


 周介は戦闘しながらその方角を意識していた。


 今周介たちがいる場所から海ほたるのある方角はわかるが目視はできない。距離的には十キロ程度離れているだろうか。


 見晴らしの良い海の上にあるとはいえ、それでも距離が離れすぎているのに加えて湿度の高いこの季節では遠くまで見通すことは難しかった。


 襲い掛かるドットノッカーの攻撃を回避し、相手の隙を誘発しながら周介自身も射撃をし続ける。周介が撃つ弾丸は基本ペイント弾だが、その弾丸でさえも相手は防いでくる。


 先程の狙撃が強く印象に残っているのだろう。どのような弾丸であろうと直撃はしてくれない。念動力で防ぐか回避を選択している。


 腕を振るう度、舗装された地面に亀裂が入る。辺りに置かれている車が変形して吹き飛ばされる。威力自体は非常に高い。直撃したら周介の体では耐えられないだろう。


 それは間違いないのだ。攻撃も防御も申し分ない。大太刀クラスの能力者の中でも上位に入るであろう戦闘能力を持っているのは間違いない。


 古守率いる射撃系能力者の攻撃を受け続けても、ダメージは抱えていても倒れることはしない耐久力の持ち主だ。


 単純な強化の力だけでは説明がつかないほどの耐久力。恐らくは念動力の能力と合わせて防御能力を攻撃を受けるタイミングで一時的に高めているのだろう。


 先程知与の狙撃を受けた時のように、攻撃の方角、そしてタイミングを把握できれば不可能ではない。


 周介が攻撃が来るタイミングを感知して回避に使っているように、ドットノッカーは防御に流用しているのだ。


 だがそれでも多勢に無勢。いくら防御に長けていても攻撃を受けていることには変わりはない。


 既に攻撃を何度も受けている。致命打こそ少ないものの、確実にダメージは与え続けているのだ。


 圧倒的に優勢。だというのに、周介は一つ気にいらないことがあった。


 ここまで戦闘をして、周介は一つの確信を得ていた。


「ドク、一つ報告を」


『なんだい?そっちは……ドットノッカーだったね。何か問題でも?』


「はい。こいつ……ずっと手加減してきてます」


『……へ?どういうこと?』


 周介に向けられる攻撃は殴る、蹴ると言った動作を念動力によって放つものだ。当然その威力は高い。

 だが、周介はドットノッカーが手加減をしていると感じていた。


『少なくともうちのメンバーを数人戦闘不能にしてるんだよ?それを、なんで手加減なんて思うんだい?』


「そっちの方がどうかはわからないんですが……俺に向けられる攻撃の感覚が、鈍いんです。えっと……どう説明したらいいのか……!」


 ドットノッカーが拳を振りかぶり周介めがけて放つが、すでにそこに周介はいない。攻撃の脅威自体は確実に把握できている。周介の感覚自体は正常に機能できる。


 だが、その感覚が鈍い。


 これはあくまで周介の感覚的な問題であるために、言語化が難しい。執拗に周介にのみ攻撃を加え、襲い掛かってくる強化能力系のトータス隊や猛に関しては早々に念動力を放って遠くに弾き飛ばす。その形をとっている。


 当たっている攻撃は射撃系がメイン。強化系能力の場合はほとんど相手の意識を散らす程度にしかなっていない。


 だが自分に向けられる攻撃がどうにも『鈍い』そのように周介は感じるのだ。


「オーガ隊との訓練や、今までの実戦では、相手の攻撃はもっと鋭いんです。でもこの攻撃は、どっちかって言うと訓練とか、そっちの感じの鈍さを感じます」


『つまり、どういうことだい?オーガ隊よりは弱いと?』


「いいえ。能力の強弱じゃないです。相手を殺す気があるかどうかって話だと思います」


 相手を殺す気があるかどうか。逆に言えばオーガ隊、鬼怒川との訓練では鬼怒川は殺す気でやっているのかとツッコミを入れたくなるところだが、ドクはそれを飲み込んだ。


『今までの能力者はそれがあったと?』


「自分の力を使ったらどうなるかっていうのが想像できてないから、すごい荒っぽく危ないって感じがするんです。けど、こいつはそれがない。妙に加減してる感じが……っ!あります!」


 念動力によって吹き飛んできた車を避けながら、周介はドットノッカー目掛けて射撃を繰り返す。


 相手も周介も高い機動力を持っているために、射撃はほとんどといっていいほどに当たっていない。


 近くにいるαたちもツクモの操作によって射撃を行っているが、目障りだと判断されたのか、一瞬で距離を詰められて弾き飛ばされてしまう。


 周介の第二の能力のおかげで大破こそしていないものの、パーツのいくつかが破損してしまっていた。


『なるほど、君はそう感じるんだね?』


「えぇ、あくまで俺がそう思うってだけです。俺も何度も戦って来てるレッドネームとの交戦経験があるわけじゃないので、何とも言い難いです」


 あくまで感覚的な話だ。能力を得て長い、未だ組織に捕まっていない能力者は自分の力を理解して自分の能力で人を殺さないようにしているだけかもわからない。


 それが周介には手加減をしているように感じるということも十分にあり得る。


『手加減云々はさておいて、それを差し引いてもドットノッカーは危険だ。その場で押しとどめて何とか捕まえてほしい。もうすぐ援軍がそっちに到着するから』


「了解しました。もう少し攻撃力を高められれば……あと手数か……」


 相手の反応速度と対応能力を上回る飽和攻撃、あるいは相手の耐久力を突破できるだけの攻撃力か能力の特性を有していれば、これほど苦戦することもない。


 それこそこの場にノイズ隊がいてくれればすぐに話は済んだ。それができないからこそこうして苦戦しているわけなのだが。


『それとさっき報告した追加の能力者?がそっちに行くかもしれない。その辺り注意してほしい。海ほたるの方にも警戒を呼び掛けてるけど、観測できてないんだ』


「海の上での索敵は今後の課題ですね。っと!?」


 話をしているほどの余裕があるわけでもない。周介めがけての攻撃は続いている。


 タイミングが合えばその間に猛が割って入って盾になってくれているものの、それも万全とは言い難い。


「大将!いい加減下がれ!前にいられると気が散る!」


「悪い、確かめたいことは確かめられた。あとは任せる」


 周介はそういって強化能力者で構成する包囲網の外へ抜けようとする。だがドットノッカーがそれを許さないというかのように追撃を仕掛ける。


「お前も、いい加減うちの大将に付きまとうのはやめてもらおうか!?」


 繰り出された攻撃を猛は正面から受け止める。足から杭を作り出し、地面に固定することで吹き飛ばされるのを防いだうえでドットノッカーの攻撃から周介を守る盾となっていた。


 吹き飛ばされることなく踏ん張った猛は先ほどまで周介が担っていた近接で圧力を加える役と入れ替わる。

 援軍の能力者たちが到着するまで一体どれくらいかかるだろうか。


 その疑問を解消するよりも早く、それは起きた。


 最初に認識できたのは、その方角を見ていた人間だった。


 光。そして炎。


 それが一体何なのか、最初はわからず、その後にほんのわずかに遅れて届く振動と間違うほどの轟音と衝撃波が当たりに伝わっていく。


「なんだ!?」


 肌に叩きつけられると感じるほどの轟音。そして空気の流動を伴った衝撃波は、明らかに通常のそれとは違う。


 この中で、それがなんであるのかを瞬時に理解できたのは周介と猛だけだった。


 はるか遠く、海の上。視界にあるのは、遠くの何かが燃えているような、そんな陽炎が見えるだけだ。


 何が起きたのかなどわかるものはほとんどいない。唯一、この現場の中で唯一、その現象に身近に触れた二人だけが、それが何なのかを肌で感じていた。


 特に、その威圧感を感じ取った周介は、それが何なのかを直感的に理解した。


「あの……爆発は……!」


 記憶に残るその感覚。ちょうど、今対峙しているドットノッカーを追った時にも同じ感覚を覚えた。


 直接周介が知っていたわけではない。むしろ後から知らされただけだ。周介からすればいったい何が違うのかなどわかりようがない。


 ただ、ただそれが危険なものだということは感じ取れたのだ。そして、その時の感覚が記憶と共に呼び起こされる。


「……インクバォ……!」


 思わずつぶやいた言葉を、無線を介してドクたちも聞いていたのだろう。拠点では大騒ぎになっていた。


『周介君今何って言った!?まさか、まさかとは思うけど、そうなのかい!?』


 無線越しにドクの焦った声が周介の耳に届く。無線の向こうはかなり焦っている声が漏れ聞こえている。


 その声の中には『海ほたる』『爆発』『アカシャ隊』という単語が何度も聞こえていた。


「……確証はありません。ただ、あの時の……台風の新潟の時と同じ、あの感覚でした。あんなの……他に感じたことがない」


 それは周介の感じ取れる感覚の中でも、異質なものだった。


 圧倒的な脅威だ。それは間違いない。


 どのように言葉にすればいいのかわからない。だが、他の脅威とは種類が違う、とでも言えばいいのか。


 言語化が難しいその感覚を覚えたのは周介だけではない。そういった感覚はなくとも、直接攻撃を向けられた本人には分ることがある。


「俺も感じた。あんときの奴だ!ブラックネーム!」


 猛が同意したことで、今回の作戦に参加していた全体に緊張が走る。


 今まで何度か確認されていたブラックネーム『インクバォ』その存在が、日本で確認された。


 それだけで大きな騒ぎになる。


 組織の面々が動揺している中、一番大きく動揺しているのは今対峙しているドットノッカーだった。

 歯を食いしばり、拳を握りしめて悔しそうにしている。


 一体その表情がなにを意味しているのかは不明だ。だが、この状況で先ほどの爆発に対して最も強い感情を持っているのはこの男だった。


 そしてそれを見ていた何人かが、ドットノッカー目掛けて攻撃を仕掛ける。


「こいつなんか知ってるな!?絶対関係者だ!捕まえるぞ!」


 全員がドットノッカーに意識を集中するも、海で起きた爆発の方も気がかりではある。


 いったい現地がどうなっているのか、アカシャ隊は無事なのか。わからないことが多すぎる。だがドットノッカーを放置もできない。集中したいが難しいというのが何とももどかしかった。


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