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「さすがに周介君達はドットノッカーとの遭遇が三度目ってこともあって安定してるね。この状況なら安心して任せられるよ」
周介達の戦況を確認してドクは安堵の息を吐いていた。
相手の能力もわかっている。そして安定した布陣をしているということもあって、少なくともドットノッカーはしばらくあの場から動くことはできないだろう。
援軍としての部隊編成を終えてすでに現地に向かってもらっている。問題なのは今回の能力者同時多発のきっかけでもあるブルームライダーに関する動きが一切なくなったところだ。
東京タワー近辺で確認できたブルームライダーの動きは既に観測できない。破壊した箒が再び動き出すということもない。
また取り逃がしてしまったという悔いは残るが、他のところで発生している能力者たちの方がより問題だ。
「他の状況は?特に船橋。白部君を殺した奴がいるところだからね」
「ノイズ隊とビーハイブ隊が善戦しています。河口付近で戦闘中。能力者が若干海の方に移動するような動きをとっています。スワロー隊の飛行能力に頼らざるを得ないとなると、ビーハイブ隊が少々辛いかもしれませんね」
ビーハイブ隊の能力は召喚がメインだ。本体に機動力が確保できないためにどうしてもスワロー隊の機動力に頼ることになる。
空を飛べるような形の召喚獣を作り出すこともできるが、そうすると相手を攻撃することができなくなるのが面倒なところだ。
「海に出られると厄介だ。だけどそうすればノイズ隊の能力が更に発揮しやすくなるわけだね……どうするか……ミーティア隊に動いてもらいたいかな。東京タワーのあたりは安定してる。江戸川河口部、川崎海沿い、海ほたるの三カ所。どれも海に面してる。位置を変えて全部が狙撃できる位置について欲しい」
「了解しました。伝達します」
都内に配置していたミーティア隊を三つの場所を狙える場所に移動してもらえれば、それだけで攻撃手段が増える。
遮蔽物のない場所であればミーティア隊はかなり遠くまで狙い撃つことができるのだ。それを使わない手はないだろう。
「……?ノーマン隊より伝達。東京湾一角に……能力者出現とのこと」
「このタイミングで?随分と遅れてやってきたもんだね。いや、偶発的なやつかな?正確な場所は?」
「えぇと……現在移動中とのこと。一瞬だけ空中の人影を捉えたようです。最大望遠の映像を出します」
送られてきた映像を表示すると、そこには確かに空中を飛翔している能力者の姿が確認できる。ただあまりに遠く、その詳しい状態などは確認できなかった。
男か女かもわからない。だがそれが人で、どうやっているのかは不明だが飛んでいるのは間違いなかった。
時折足や手と思われる部分から発光が映像に捕らえられている。僅かに発光しているのは何の光りだろうかと全員が眉をひそめてしまう。
「ノーマン隊からの報告出ました。当該隊員は若洲海浜公園にいるとのことです。そこから距離およそ五百の地点で発見。目視確認に切り替えたところ南への針路をとっていると思われると」
能力の索敵範囲に引っかかった後、より遠くを確認できる目視での道具を使った索敵に切り替えて確認してくれたのだろう。
そのおかげで能力者を発見できたのは喜ばしいことだ。
だがその能力者が南に向かっているというのが気がかりだった。
「南……海ほたるの方角か、あるいは川崎の工業地帯か……どっちに合流するにしても厄介だ。海の上ってだけで厳しいね。ミーティア隊は……今移動中かな?」
「はい。現在まだ狙撃体制は取れていないとのことです」
海上での封鎖はかなり難しい。そもそも広さが陸地とは段違いなのだ。探すのにも目印も何もない状況で行わなければいけないために面倒なことこの上ない。
「拠点より各部隊へ。新しい能力者が確認された。現在東京湾を南に飛行中。速度不明、詳細不明。最後に確認された位置と方角を地図上に表記する。特に海ほたるのアカシャ隊、川崎のラビット合同部隊。両部隊は注意してほしい。いつ襲撃に加わるか分かったものじゃないよ?」
『了解。なるほど、そいつを待ってたのか?』
「どういうことだい?」
『水の奴の動きが妙だったんです。前にやった時と動きが違い過ぎた。もしかしたら援軍を待ってたのかも』
アカシャ隊の水瀬から、海ほたるで遭遇した能力者は以前遭遇したことがある、件のプラントの襲撃犯であるということをすでに情報として共有していた。
直接対峙した水瀬が、その能力者の動きに違和感を持ったというのは重要な情報でもある。
「可能性としてはあり得るね。気を付けてくれ。海ほたるのあたりは水を操る能力者からすれば逃げ場だらけだ。逃がすことは避けたい」
『わかってますよ。逃がさないようにこっちも対応してますから』
既に車の中に水を入れて拘束している状態であるため、よほどのことが起きない限りは逃がすことはない。
アカシャ隊も、そしてドクたちもそう確信していた。
総じて、そういう時程その考えが覆されることになるのだということをこの場の誰もまだ知ることはできていなかった。




