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「あー!疲れた!なんだよあの量!尋常じゃねえぞ?」
「お疲れ。さすがに今日はきつかったな」
周介と手越は寮に戻ると、自販機で買ってきたコーラを手越に渡す。テレビを見ながら周介たちは談話室で今日の疲れを癒していた。
「これから毎日学校終わりにあれがあるかと思うと気が重くなるな……たぶん結構な間続くだろ?」
「だろうな。製作チームの人たち目が血走ってたから、相当材料が足りてないんだと思うぞ?一気に電力問題が解決したからなぁ……」
「一度大隊長に直談判しようぜ。ちょっと製作チーム動かしすぎだって」
「って言ってもなぁ……ドクはあれが趣味って完全に言い切ってたからなぁ……仕事じゃないから何とも言い難いんじゃないのか?」
実際はドク自身もすでに警告はされているのだが、やはりあふれ出す欲求を止められないのだろう。
完全に趣味と言い張ってそのあたりを誤魔化しているのだろうが、いつまでその誤魔化しが通じるかはわからない。
小太刀部隊の大隊長である根本がどれくらいこの状態を許容してくれるかは微妙なところである。
だが最低でもちゃんと睡眠はとるようになっているようなので、そのあたりは口を出すのは難しいかもしれなかった。
「実際、あの人たちの装備制作のおかげで俺らが楽になってるのは間違いないけどさ、そこまで急ぐ必要あんのか?」
「今は拠点の構築の方を急いでるみたいだけどな。壊れたところとか老朽化してるところとか、今まで本当にやばいところしか直せなかったけど、普通に老朽化してるところを取り換えてるみたいだ。材料が大量に必要なのもうなずけるよ」
「その場所にある材料そのまま使っちゃダメなのかよ……普通にありものを使えばいいじゃねえか」
「それができる場所とできない場所があるんだろ。そのあたりは俺らには分らねえよ。まぁしばらくすれば落ち着くだろうから、それまでは頑張ろうぜ」
「……お前の方が忙しいのにずいぶん楽観的だな……お前それで発電もしてんだろ?きつくねえの?」
周介はゴミの選別はしていない代わりに運搬と発電を頻繁に行っている。特に発電に関しては周介しかできる人間がいないために割と頻繁に行っているのだ。
放課後すぐにチームの個室に向かい発電を行い、ゴミの選別がある程度終われば運搬を開始し、運搬が一通り終わってから寮の食事、そしてそれが終わってから適当な時間までまた発電と自分の時間がほとんどとれてないほどだ。
こうして発電量に余裕があるときには休むことができているが、それ以外は常に能力を発動しっぱなしと言ってもいいほどだ。
「まぁそのあたりは仕方ねえって。金のためだ。金……!今は守銭奴のように金……!」
「鼻と顎がとがりそうだな。仕方がないってのはわかるけど、あんまり気ぃ張りすぎても長続きしないぞ?」
「平気平気、安形と玄徳が結構フォローしてくれてるから、だいぶ助かってるよ」
周介は能力者としても普通の人間としてもまだまだ未熟な点が多い。だが能力者として未熟な部分は瞳が、人として未熟な部分は玄徳がさりげなく絶妙にフォローしてくれている。
周介もそれをわかっているだけに気持ち的にも随分と助けられていた。
未熟な部分は少しずつ修正していって、少しでも二人を助けられるようになりたいと周介は考えている。
とはいえ、まだまだそれに時間がかかるのも自覚しているために焦っても仕方がないというのが正直なところではあるが。
「ま、それでいいっていうならいいけどよ。こうやってのんびりテレビ見てる時間が一番安心できるわ」
「確かに。実家じゃ弟たちがテレビ独占するからなぁ……」
「そっか、小さい弟居るんだっけ?小学生?」
「弟と妹がいる。弟は小学生で妹は今年中学に上がった。あいつら自分の見たいテレビ見られないと泣くからさ……」
「子供の時はそんな感じだよな。こういうバラエティなんて見られないだろ?」
周介たちが今見ているのは芸人たちが運動をして笑いをとるものだ。女性アイドルやお笑い芸人、俳優などが入り混じって行われるもので、様々な競技を笑いを含めた内容で行っているものである。
割と本格的なスポーツウェアに身を包んでいて、それによって体格がより浮き彫りになってしまっている。
特にお笑い芸人などは腹が出ているものが多く、その姿そのものが笑いを誘っていた。
「いやでもこういうスポーツウェアはいいよな。スパッツみたいで。俺こういうの好きだな」
「そうか?こういうのだったら陸上とかのウェアのほうがいいぜ?ブルマっぽくていいじゃん」
周介と手越の意見が割れたところで二人の視線が合う。同時に二人の趣味が真っ二つに割れる瞬間でもあった。
「いやスパッツのほうがいいだろ、太ももに肉が食い込む感じとか」
「何言ってんだ、ブルマのほうがいいだろ。もはや絶滅危惧種だけどそれがいい。下着が見えないように指とかで直す仕草とか最高じゃん?」
「待て待て、スパッツなら下着のフォルムがもろに出るだろ!腰つきとか下半身の肉付とかばっちり見えるぞ!スパッツの方がエロいね」
「それには反論するぞ!エロさで言えば断然ブルマだろ!肌の露出具合が違うぜ。ぎりぎりまで切り詰めた布がこれまたいいんじゃねえか!見えそうで見えないあのギリギリ具合、あれこそ日本の侘び寂びを表している!」
寮において公共の場所である談話室の中で割と大きな声でブルマかスパッツかを全力で話し合う周介と手越、その二人の声が聞こえたのか、同じ寮生の男子が何人か談話室にやってくる。
「お前らうるさいぞ、何の話してんだよ」
「お、ちょうどいいところに!なぁお前ら、お前らはブルマとスパッツ、どっちがエロいと思う!?」
「断然スパッツだよな!?」
一体何を話しているのかと寮生の男子生徒は一瞬呆れ顔をするが、さも当たり前であるかのように笑いながらそれぞれ口に出す。
「断然スパッツだろ」
「そりゃブルマだろ」
ほぼ同時に放たれたその言葉に、男子生徒両名も互いを睨み、どちらの方がよいかの議論を行いだす。
「お前ふざけんな、ブルマとか下着とほぼ同じじゃねえか。スパッツの方がなんか腰つきまではっきりしてエロいだろ」
「わかってねえな、下着とほぼ同じラインだからこそいいんだろ?下着と同じだけど下着は見えない、さらに露出も多い、ハイ最強!これ以外にあるかよ!」
やってきた男子を巻き込んでスパッツとブルマ、どちらがよいかの議論がされる中、今度は周介と手越がその輪の中に割って入り落ち着かせる。
「まぁ待てお前ら。ここははっきりさせようじゃねえか。ブルマとスパッツ、どちらが優れているか、どちらがエロいのかを」
「これは一度はっきりさせる必要があるな。これはもう戦争だ」
周介率いるスパッツ派か、手越率いるブルマ派か、意見は真っ向から割れている。それぞれが椅子を持ち寄り、自分たちの携帯でそれぞれが思う最高の画像を検索し始める。
その議論はテレビで映し出されているバラエティなど完全に無視し、さらに多くの寮に住む男子生徒を巻き込んで行われた。
スパッツとブルマ、どちらの方がよいかという議論に加え、足の踝まで伸びるタイツ型の方がエロいという第三勢力の参入により議論はさらに白熱した。
寮監が就寝となる時間を告げに来るまで議論は続き、騒いでいたことを叱られたのはいうまでもない。