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周介が発電を行ってから、組織の拠点はとにかくあわただしく動いているような印象を受けた。
もとより拠点内における運搬などは、手の空いたものが順次やっていくという印象だったが、周介が発電を開始してからは手の空いているものではなく、急ぎの仕事がないものまで積極的に運搬業務にいそしんでいるように思える。
特に外部から入ってくる材料の量が以前とは比べ物にならないほどに増えているのだ。
それが発電を行えることによって満足に電力を使えるようになった結果だということを多くの者が理解していた。
今まで停滞していた拠点の発展、改良などを一気に進めることができているからこそだ。
そして、当然のように周介たちもその運搬業務を手伝っていた。
「これは工房の方に。こっちは訓練室に頼むよ。あとは現地にいる人間がわかるから」
「了解しました。それじゃあ行ってきます」
周介が操っているのはフォークリフトに近い機械だった。といっても実際のフォークリフトとは違い、車両にアームをつけることで物品の運搬をより容易にしたものだ。
バランスを取りやすいようにアウトリガーに近い形で補助輪がつけられており、場合によっては過積載しても問題ないようになっている。少なくともこの拠点内を動き回る場合にはこういった機材があるのはありがたかった。
この機械も、当然のようにドクが作り出したものだ。運搬をより容易に、素早く行うためのもので運搬速度が高くなったことで組織の職員たちは喜んでいた。正確には組織の中の製作を行っているチームの人間が、だが。
今まで重いものといえば誰かしらの能力を使うか、細かく分解するか、それこそ本物のフォークリフトを持ってこなければいけなかったために、どうしても人手が足りなかった。
だが周介のチームが本格的に運搬に適しているチームであるために、かなり運搬の効率が上がっているのだ。
もちろん、周介たちだけではない。以前周介が関わったスペース隊もまた、組織の拠点内の運搬をどんどんと行っている。
大量の荷物を運び続けるその姿は引っ越し業者のようだ。
「お待たせしました。お荷物です!」
「お、来た来た待ってたよ!えっと、こっちかな?」
「えぇ、こっちは訓練室用なので。あとはお願いしますね」
玄徳が積んである荷物を手早く降ろし、ここに届ける荷物をすべて降ろし終えるとすぐに機体に乗って移動を始める。
「兄貴、こんだけの荷物、一体どうするんでしょうね」
「たぶんあれは今までできなかった作製のための材料だろうな……あとはこの拠点の改良とかじゃないか?前に工作室がフル稼働してるの見てるんだよ……発電が開始されてからノンストップみたいだからなぁ」
今までの拠点だって決して設備を疎かにしていたわけではない。だが限られた電力で、限られた機材で製作を行っていたのでは当然作業は遅れてしまう。
能力によって通常の作業ではできないようなことができるようになっているとはいえ、それでも機械の手を借りたほうが早いということはままあるのだ。
そういった欲求が爆発すれば、当然ではあるが今度は材料が足りなくなってくる。そういった材料を手に入れるべく、組織としてかなり力を入れているらしい。
この組織の良いところ、というか特徴として一般的に廃材となっているものでも再利用が可能であるということだ。
鉄で言えば錆びていようと、変形していようと問題がない。形を変える、所謂形状変換を行える能力者がいるため、そういった金属をまた使えるように再加工している。
そういう、本来であれば産業廃棄物として廃棄されてしまうような材料でさえも再利用が可能なのだ。そのため材料自体は格安で手に入る。ふたたび新しい施設、設備に生まれ変わるのだから、良いことなのだろうが、当然その量は果てしないものになる。少なくともこの作業をやるだけで数カ月はつぶれてしまうであろう作業量だ。
だがそんなことに時間をかけているだけの余裕はこの組織にはない。いや、組織に余裕がないというのは正確ではない。より正しく言うのであれば、製作者チームに余裕がない。
今までの欲求をようやく爆発させられるかと思えば材料がないなどということになれば、当然彼らのフラストレーションの矛先は別の方向へと向かうだろう。
一体その先がなんであるのか、周介には予想もできなかった。
「お待たせしました!お荷物です!」
「来た!来たぞ材料だ!すぐに開けろ!今日中に仕上げるぞ!」
玄徳が下した荷物に群がるように押し寄せる製作班の人間に、周介たちはドン引きしてしまっている。
必死に笑みを浮かべようとするが、それも引きつってしまっていた。
本来訓練室は能力者が訓練を行うスペースだ。大太刀部隊、小太刀部隊、それぞれに難易度や状況ごとに割り当てられているものだが、ここはかつて大太刀部隊の人間が訓練で壊してしまった訓練室だった。
それを直すための材料を持ってきたというわけなのだが、大太刀部隊のために直すのではなく自分たちのために直すかのような狂気が製作班の表情からは見てとれる。
「で、ではまたお届けに上がりますんで。あざっしたぁ!」
「あざっしたぁ!」
「すぐに来るんだよな?また次の材料もすぐに来るんだよな!?」
「す、すぐにお届けに上がりますんで!もう少々お待ちください!」
このままだと面倒なことになりかねないと、周介は玄徳をすぐさま機体に乗せて走り出す。
ものづくりをする人間にまともな人間はいないのだろうかと、周介と玄徳は少々うんざりしていた。