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アロットロールゲイン  作者: 池金啓太
一話「蒼い光を宿すもの」
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「さて…ここまで能力のことについてメインで説明してきたわけだけれど、ここまでで何か質問はあるかな?」


 今までの説明はほとんどがわかりやすいものだった。科学的なことはさておいて、そういう理屈があるということは理解できた。


 だが一つ、疑問が残ることがある。


「マナをため込むのが原因で能力が発動したのはわかりました。けど、十五年近くかけてたまったものをこの間消費したなら、次に能力が発動するのはまた十五年後ってことになるんですか?」


 今までの人生で、周介が能力を発動したと自覚できたのは一回しかない。だが先ほどの説明を聞く限り、マナがたまらなければ能力は発現できないということになる。


 周介の疑問はもっともなものだろう。十五年かけてたまったマナが再びたまるようになるには、同じように十五年かかるのではないかと考えていた。


「なるほど、確かに君の疑問はもっともだ。けどね、残念ながらそうはいかないのさ。本来の人間は、マナは必要ないものだと判断して入ってきても排出してしまうんだけど、能力者で、しかも能力を発動した人間はそうはいかなくなってくる。体そのものが能力という代謝を行ったことによって『マナが必要なものである』と勘違いしてしまうのさ」


「……つまり?」


「君は今までの十五年とは比べ物にならない速度で、体内にマナを取り込んでいるということさ。はっきり言えば、いつ能力を発動してもおかしくない状態にあるって感じだね。副長もよくその状態で三日も待ったものだよ。仮に君が大量のマナを消費していて、マナの取り込み方も学習していなかったとしても、相当なギャンブルだ」


 井巻は確かに三日も待ちたくはなかったといっていた。周介の体が、今までとはけた違いの量のマナを取り込んでいるのであれば、確かにいつ能力が暴発してもおかしくはなかった。


 確かにギャンブルと言えなくもない。しかも割と分の悪い賭けだ。周介のマナの許容量、マナの吸収状況、暴走によるマナの消費具合、何もかもわかっていない状況で三日待つ。これはかなり危険とも思える。


 最悪同様の事故をもう一度起こしてしまうかもしれなかったのだから。


 幸いにして、そういったことはなかったが、周介からすれば複雑な気分だった。


「じゃあこれから俺は、能力の使い方と、マナの吸収の仕方を覚えなきゃいけないってことですね?」


「その通り。マナの吸収の有無を自分でコントロールできるようになり、なおかつ自分の能力を自分で発動するかしないかを選べなきゃいけない。まずやるべきは、君の能力の解明だね。どんな能力かがわからないと、君自身能力のイメージも作りにくいだろう」


 能力のイメージ。それは発動するうえで必要なものだとドクは語る。イメージによって能力は発動し、さらにより繊細なコントロールができるようになるということである。


「じゃあ、そろそろ始めていくね。まずは医学的な検診から。血を取ったりしていくけど、君注射は平気かい?」


「大丈夫です。痛いのは嫌ですけど我慢します」


「うん、いい子だ。後でキャンディを上げよう。支障が出ないように少量になるよう心掛けるけど、どうしても多少は必要になってくるから、そのあたりは勘弁してほしい。あぁ、一応それっぽく問診から始めようか?」


「いいえ、早く済ませたほうがいいんですよね?」


「その通りだ。じゃあさっさと血を抜いちゃおう。君の身長は…百六十くらいかな?」


「…百六十二センチです」


「少々小柄だけど、まだ中学生だろう?これから伸びるさ。オーケー、じゃあちょっと血をもらうよ?」


 ドクは用意した注射針と、消毒用アルコール、そして腕に巻く止血用のゴムバンドや絆創膏などを手際よく用意すると、これまた手際よく周介の腕に注射針を刺していく。


 血を抜くための専用の注射器の中に、赤黒い周介の血が流れ込んでいく。


「そういえば、能力のことは話したけれど、僕たちの組織のことは話していなかったね。簡単に説明していこうか」


 注射を行いながら、ドクは気軽に話し始める。注射をしているときくらいはそれに集中してほしいものだが、周介はこれが痛みを紛らわせるためにあえてしているのだろうという風にとらえていた。


「僕らの組織、五輪正典は日本における能力者が基盤となっている組織でね。能力者が引き起こす犯罪などを取り締まるのが主たる目的になっている。部隊は大きく分けて二つ。戦闘を主に行う『大太刀部隊』と後方支援やその他雑務を行う『小太刀部隊』に分かれている。僕は所属上は小太刀部隊に所属しているんだよ」


 大太刀、小太刀。なぜそのような名前になっているのか周介は不思議だった。もっと別の名前にしてもよかったのではないかと思ってしまうのである。


 そしてそんな周介の考えを読み取ったからか、ドクは苦笑しながら注射器を抜き取って即座に周介の腕を止血する。


「なんで刀の種類を名前にしているのかって顔だね。それにも理由がある。僕らの組織は日本専門だけど、世界各国にも、同様の組織がある。名前も規模も活動拠点も違うけど、同じ理論のもとに結成された組織、いわばグループ会社みたいなものかな」


 グループ会社と言われても周介はピンとこなかったが、同じ大学の系列の高校などと考えればわかりやすかった。


 私立などでよくあることだ。生徒数を獲得しやすくするために中学、高校から付属高校を作っておく。

 組織上は違う組織だが、系列の組織としてよく名前に上がる。


「その組織の中で共通することが二つ。一つは能力者の犯罪を取り締まる存在であるということ。そしてもう一つは、エンブレムとでもいえばいいかな、組織の象徴に、二つの剣の紋章を作っているってこと。だから僕らの組織は五輪正典といい、部隊は二つ、二刀である大太刀と小太刀なのさ」


「あ、五輪って、オリンピックの方じゃなくて、五輪の書の方なんですか?」


「お、知っているみたいだね。そう、かの宮本武蔵が残した五輪の書。うちの名前の由来はそこなのさ。センスがないって言われちゃうと、返す言葉もないけど、それは組織を作ったうちの創設者に言ってくれるかな。残念ながらもう亡くなってるけどね。何せ組織が作られたのは五十年以上前の話になるから」


 ドクは苦笑しながら周介の腕をつかみながら血が出ないように止血し続ける。そして周介に抑えているように言うと、絆創膏を用意して手早くそれを張り付けた。


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