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アロットロールゲイン  作者: 池金啓太
三話「外れた者の生きる道」
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『まぁまぁドク、今回はアルファチームの初陣じゃないっすか。少しは好きにやらせてやってもいいと思いますよ?』


 周介たちのフォローをしたのは手越だった。会話を聞いていたのだろう、今回の周介の考えも理解できるからか、あるいは彼が言ったように初陣だからこそまずは好きにやらせるべきだと思っているのか。どちらにせよ、周介からすればありがたい援護だった。


『けどねぇ、アルファ隊だけで動いているだけじゃあない。もちろんアルファ隊の人間が一番相手と近い位置にあるのは認めるよ?けど、それだけを判断材料にして任務の失敗を引き寄せるのは、承認できないね』


『だからこそじゃないですか。今回、あいつのファインプレーのおかげで個人情報は入手できた。最悪今回のこの行動が失敗しても、表から追い詰めることができる。失敗しても問題ないだけの状況はできてる。そこに新人の教習を加えられる。これはでかいんじゃないですか?』


 手越の言うように、すでに相手の個人情報は情報収集を得意とするクエスト隊によって集められている。


 仮に今回の作戦で失敗したとしても、この個人情報から相手を追い詰めることができる。組織が被る被害は軽微、かかったとしても、日中加賀を追い詰めることになる手間が一つ増えるだけのことだ。

 そう考えれば、別段今回の作戦だけにこだわる必要はない。


『なるほど、新人への研修か……それなら、任せるだけの価値はあるか。俺は支持しよう。他のチームはどうだ?』


 小堤は作戦の失敗よりも、周介がこのチームによる行動において自分の我を通すということがどういう意味を持つのか、そういったことを教育するほうがより利益につながると判断したようだった。


『メイト隊としてはどちらでも構いません。ノーマン隊も同様。ビルド隊としては早く決着をつけてほしいとのことです』


『主体性のない意見に感謝するよ。とはいえ、周りが乗り気なのに指揮官だけが無理を言っても仕方がないね……わかった。アルファ01、今回は君の意見を尊重しよう。ただし、必ず勝つことだ。そうでなければ、今回の作戦失敗の責任が君に降りかかってしまうということを理解しているね?』


「わかっています。我儘を通すってことは、そういうことですよね?」


 周りの人間が安全に、確実に作戦を遂行できるように考えて忠告してくれているというのに、それを無視して行動しようとすれば周りへ迷惑がかかるのは当然だ。


 周介は新人とはいえ能力者だ。能力を行使するものとして、その行動には常に責任が付きまとう。それがどういうことなのか周介はよくわかっている。


『では方針を若干変更する。ビルド隊はそのまま現状維持。アイヴィー隊はゴール地点に待機してくれるかな?』


『とはいえ、あいつらに追い付けるとは思えないが……頑張ってみよう』


 アイヴィー隊は機動力はそこまでないチームだ。周介たちが走っているルートをそのまま追従して間に合うとはとても思えない。


 その辺りは小堤も理解しているのか、少し困ったような声を出していた。


『ミーティア隊は念のため、ゴール地点を狙えるポイントに移動。万が一の時は頼むよ』


『了解。移動します』


『ノーマン隊は常に周辺の確認を引き続きお願いするよ。それでは新人への特別研修の開始といこうか』


 ドクの言葉に、周介は先ほどまで加減をしていた加速を、最大速度へと切り替える。


 後ろにいる加賀の速度を気にすることなく、ローラーで可能となる最大速度として一気に駆け抜ける。


『随分と思い切ったじゃん?どういうつもり?』


 無線の向こう側から聞こえる瞳の声に、周介はバツが悪そうな声を出す。


「悪い。ちょっと迷惑かけるかも」


『別にいいし。それより、なんでちゃんと勝負しようなんて思ったの?全員で勝つ方が確実だって言ってたじゃん』


「それはそうなんだけど……あいつ、うちの組織に入れられないかなと思って」


『……本気?さすがにそれは……』


「もちろんすぐには無理かもしれないけどさ、あいつ、俺が倒れてるときにずっと声をかけてたんだ。俺もちょっと意識が朦朧としてたけど……完全に悪い奴、って感じはしなくて」


 それは実際に競い合った周介だけが感じたことだった。


 もちろん錯覚の可能性だってある。今まで暴走族として周囲に迷惑をかけ続けてきたのだ。単純に良い人間ということはないだろう。


 だが絶対的に悪い奴とも思わなかった。何というか、ところどころからにじみ出る善性のようなものを周介は感じ取っていた。


 だがそれだけを信じるほど周介も馬鹿ではない。まずはこの勝負に勝つ。勝って、それから相手がどう反応するか。それを確かめたかった。


 その結果今回の作戦が失敗に終わる可能性もある。その確認のためだけに周介は行動しようとしていた。


 手越の言うように、まだフォローはできる範囲にあるとはいえ、作戦失敗する可能性のある行動を推し進めた責任は出てくるだろう。


『好きにしたらいいんじゃない?隊長はあんただから、あたしは従う』


「悪い。今度なんかおごるよ」


『じゃあスイーツバイキングね。食べ放題の』


「高くつくのは勘弁してほしいなぁ」


 周介は困ったような声をだしながら、ゴールで向けて全力で走る。


 周介がゴールに到着するのは、その五分後のことだった。


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