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アロットロールゲイン  作者: 池金啓太
三話「外れた者の生きる道」
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 先ほどまで全く話を聞くつもりがなかったリーダーである男が、わずかに動揺しているのに周介は気づいていた。


 何かを言おうとして、それを口にしようとはせずに、だが聞きたいとも思っているのか顔を動かしている。


 フルフェイスのヘルメットを着けているために表情までは読み取れないが、それでもその雰囲気は警戒を高めている周介には十分に感じ取れた。


「俺に勝ったら教えてやる。どうだ?勝負する気になったか?」


 あの反応から察するに、周介の言った目に関しての秘密、能力者であれば能力を発動しているときに放つ蒼い光。あれに対して何かしらの関心を有しているのは間違いないだろう。


 能力者としての教育を受けていなければ、あの現象はただただ気味の悪いものでしかない。特殊な力を発揮したことを証明することになっていても、それによって何かしらの影響が目に出ていると考えるのが自然だろう。


 目というのは人間にとって重要な器官だ。その目に何か異常が出ている以上、それを知りたいと思うのは仕方のないことだ。


 本人にその症状が出ているのか、それとも身内にも同様の効果が出ているのか、そのあたりは定かではないが、あのリーダー格の人間が目についての秘密を知りたがっているのは間違いない。


『どうやらあいつで当たりみたいね。明らかに動揺してるし』


「予想は運よく的中したみたいだな。あとは冷静に事を運んでくれればいいんだけど」


『勝負になったらどうすんのよ』


「そうなったらそうなっただ。あいつ一人をうまく引き連れてアイヴィー隊に捕まえてもらう。それができないなら頑張って勝つ」


 アイヴィー隊の人間がどこで待機しているのかはまだわからない。だがもし対処できないとなった時には周介が勝つ以外の選択肢がなくなってしまう。


 もちろん秘密を教えるという名目のもと、組織の拠点に連れていくというのも手の一つだが、そうなったときに周介が無事でいられる保証はない。


 ついでに言えば、相手がいくら目に関する情報を知りたがっているとはいえ、素直に勝負を受けるという確証もない。


 時間稼ぎが最低限の目標であるために、相手が迷ってくれる分にはありがたかった。だがそれも長続きはしないだろう。


「ドク、出入り口の封鎖まであとどれくらいですか?」


『あと二分ほどだ。もうちょっと頑張ってくれないかい?』


「これ以上挑発したらさすがに袋叩きされる未来しか見えなくなるんで勘弁してほしいんですけど……!」


『そこを何とか!君の巧みな話術で何とかしてくれ。多少煽ってもそんなに過剰に反応する人はいないさ』


「目の前に過剰な反応を見せてくる人達がいるんですが、さっきの暴言聞こえてなかったんですかね」


 まだ時間を稼がなければいけないというのならば何かしらの会話をしなければいけないだろう。


 ある程度こちらの情報を教えてでも、相手の動きを押さえる必要がありそうだった。


「02、工事区画で後方を塞いでくれるか?見えない部分でいいから」


『了解。ついでに車で完全に封鎖しておく。ただその分援護が遅くなるから、危なくなったら逃げてよ?』


「わかってる。逃げ足なら自信ありだ。一般人に対してなら、だけど」


 伊達に何度も転びながら訓練をし続けたわけではない。多少早い程度のバイクならば逃げ切れるくらいの自信はある周介だが、相手が能力者となるとその自信も軒並み頼りないものへと変貌してしまう。


 無理もないだろう、周介がしっかりと面と向かって組織に所属していない能力者と対峙するのは初めてなのだ。


 相手がどんな性格なのかも、どんな能力なのかも詳細がわかっていない状態で矢面に立つなど正気の沙汰ではない。まして周介のような戦闘能力のあまりないタイプが屈強な男どもを前にこうして仁王立ちしていらるだけでも上出来だといえるだろう。


 周介は意を決して再び拡声器を構える。


「お前はそいつらにそのことを教えていないんだろうが、俺らからすれば丸わかりだ。いつまでも隠していられると思うなよ」


 周介の言葉に、リーダー格の後ろにいる者たちがわずかに動揺を覚えていた。リーダーの目に関しての会話、それが一体何を意味するのか分かっていなかったからである。


 この反応から周介は、能力のことに関しては仲間にも話していないということを察する。


 つまりこの時点で彼らに能力のことを話すのはまずいということを理解した。話し方を少し変える必要があるなと、頭の中で相手を誘うような言葉を考え始めていた。


「対策もとれずに手遅れになるか、少しでも情報を手に入れようとするか、それはお前の自由だ。どちらにせよ、一騎打ちも乗れないようなやつに話すことはない」


 一体あとどれくらいだろうか。周介はそう考えながらも拡声器を車の中に放り込み、自分の乗っているバイクに乗る仕草をする。


 もう時間はないというアピールだ。これ以上話を伸ばすならば立ち去るという仕草のつもりだった。


 車を動かしてゆっくりと道を開いていく中、リーダー格のバイクが一気に加速し、周介の真横につく。


 急な加速と減速、普通のバイクの制動ではなかった。能力を使ったのだろうということを察する周介に対し、リーダーの男は低い声で周介の顔に自分の顔を近づける。


「なめてんじゃねえぞ。売られた喧嘩を無視するほど俺は温和じゃねえぞ」


「……上等だ」


 挑発に乗ってくれてよかったと思うべきなのか、それとも乗らないほうがありがたかったのか、それは正直周介には分りかねることだった。


『結局勝負することに?』


「ちくしょうちくしょうなんでこうなるかなぁ。なってほしくない方向にどんどん転がっていきますよこれ……!暴走族になる人種のことを完全に勘違いしてた……!」


 時間を稼ぐため、そして可能ならば一対一の状態にしたいと少しは思った。だがこれほどまでに喧嘩腰で勝負に臨まれては、途中で事故を装って殺されかねないなと周介はかなり焦っていた。


『慣れない挑発なんてするからでしょ。普通にお前を逮捕するとかそういうので良かったんじゃないの?』


「しまったなぁ……でもしょうがないだろ……相手に話を聞いてもらおうと思ったら挑発するしかないと思ったんだよ。ドクの口車に乗ったのが間違いだった……!」


 瞳の言うように警察であることを名乗り、捕まえるないし逮捕するという単語を使った場合、相手がわき目もふらずに逃げ出す可能性もあったのだ。


 まずは相手の意識を自分に集中させる。他に何かをやっているという考えを一時的にでもなくさせる必要があった。


 安い挑発に笑って返してくれたなら最高だった。何を言っているんだと笑い飛ばし、周介のことをバカにしながら車の脇を通ろうとしてくれるならよかった。


 だが相手は周介の挑発に簡単に乗ってしまった。そのおかげで話をさらに先に進めることができたわけだが、周介からすればあまり良い展開とは言い難かった。


 一対一。その状況の重さがわからないほど周介はバカではない。


 訓練でも周介は身近にいる能力者相手に一対一で勝ったことはない。速度勝負などといっているものの、相手がラフファイトに出てこないとも限らないのだ。


 自分の命もあとわずかだろうかと周介が覚悟を決めていると、チームメイトに話を終えたリーダーが再び周介の真横に戻ってくる。


「お仲間は納得したのか?」


「あぁ、あいつらはここで待たせる。首都高を一周だ。C2と湾岸線使ってぐるっと一周、文句はねえな?」


「仲間と一緒じゃなくていいのか?別に俺は構わないぞ?」


「必要ねえよ。それに、本気出したらあいつらはついてこれねえ」


 普段走るときは周りの人間に合わせてかなりセーブしているのだろう。能力を極力使わずに、だがそれでも速度を重視する走り方をする。


 なんとも矛盾した考えをするなと思いながら、周介がバイクの調子を確かめていると、周介の方を見るリーダー格の人間は訝しむようにその全身を観察していた。


「一つ聞かせろ。お前何もんだ?何が目的だ?」


「一つじゃないな……じゃあ片方だけ答えてやる。俺の目的は、お前の身柄の確保だ」


「……警察……って感じじゃねえな。どこのチームの人間だ?」


「それは終わったら答えてやる。あいにくチームって規模の組織じゃないけどな。お前を捕縛して連行するのが俺の目的だ。怖くなったなら今からでも逃げていいぞ?」


 周介の言葉に、リーダー格の男はさらに警戒を強くしたようだった。周介が何らかの組織に所属しているということ、そして先ほどの工事区画が決して偶然作られたものではないということを理解しているのか、バイクを操作しながら周介の一挙一動に注意を払っている。


「そうだ、お前の質問に答えたんだ。俺からも一ついいか?」


「……なんだ?」


「お前の名前、なんていうんだ?」


 今の状況に全く関係ない質問に、リーダー格の男は一瞬呆けてしまっていた。こちらが警戒しているというのに自己紹介を求めた周介に、毒気を抜かれてしまったのである。


「加賀、加賀玄徳(かがげんとく)だ」


「不思議な名前だな。覚えやすそうだ」


「俺の自己紹介はしたぞ。お前の名前は?」


「一個だけ答えるって言ったはずだ。まぁそうだな……勝負が終わったら教えてやるよ。これは、勝っても負けても教えてやる」


 そう言いながらバイクの位置を決め、周りに加賀の仲間が集まってスタート地点を形成していく中、周介と加賀の乗るバイクはゆっくりとスタートラインに並ぶ。


「こちらアルファ01。これより走行再開します。ドク、出入り口の封鎖は?」


『問題なく終わっているよ。それよりナイスだ。相手の個人情報ゲットだね。今クエスト隊に問い合わせて確認してもらっているところだ。個人名がわかれば、しかもなかなかに特徴的な名前だからね。調べ終わるのに時間はかからないはずだ。君は存分にレースを楽しんでくれ』


「楽しんでる余裕ないと思うんですがね……メイト15、念のためナビお願いします」


『了解しました。一般車両などは確認できませんので、全速力を出してもらっても構いませんよ』


「相手の速度によってはそうさせてもらいます。アイヴィー隊、聞こえていますか?」


『聞こえている。待機場所はどこにする?』


「コースの後半……場所的には……今いるのが四つ木付近だから……王子北辺りでお願いします。集中力が若干落ちたところを捕えてください」


『了解した。レースに堂々と勝つつもりはないのか?』


「安全に勝てるならそっちのがいいでしょう。選り好みしていられる余裕は俺にはないです」


 周介が自分の能力に自信を持っていたのなら勝負に勝つということを第一目標にすることもできたのだろう。


 だが周介はまだ自分の能力に自信は持てなかった。ならば誰かの力を頼ることに何をためらうことがあるだろうか。


 周介はまだまだ未熟なのだ。一人でできることなど、たかが知れているのである。


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