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アロットロールゲイン  作者: 池金啓太
一話「蒼い光を宿すもの」
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0013

「月がなぜ蒼く、太陽が白いままなのか、その説明はちょっと置いておこう。今重要なのは能力とは何か、という部分だからね。といっても、まだ確証があるところまで研究が進められているわけではないのだけれど」


 ドクの説明は流れるようで、聞いているだけで話の中に引き込まれる魅力のようなものがあった。

 話し上手とでもいえばいいだろうか、それとも聞かせ上手といえばいいだろうか、周介は知らず知らずのうちにドクの話に集中していた。


「能力というものは先ほども言った通り、人間がもつ代謝反応のようなものでね、先ほど言った成分が一定以上体の中に入ると、それを消費しようとして発現するものなんだ。ここまではいいかな?」


 これが先ほど言っていた質問タイムなのだと感じた周介はとりあえず一つ気になっていることを聞くことにした。


「あの、その成分?物質?の名前ってないんですか?」


「おっと、なかなか積極的だね。でも残念ながら、これに関しては正式な名前は決められていないんだよ。マナ、エーテル、マテリア、魔素、力素etc、呼び方は様々なのさ。まぁ大抵の人はマナとか魔素とか呼んでるけどね」


「正式に決められないのは、その存在を表沙汰にできないからですか」


 周介の言葉に、ドクは先ほどまでの表情からまた違う表情へと変化する。喜々として話していたその表情はただ楽しそうなそんな印象を受けたが、今の彼の表情はまるで獲物を見つけたかのような、そんな獰猛な表情へと変化していた。


「ほほう、そこに気付くかい。なかなかどうして君は頭の回転が早いようだ。その通り。能力の源である存在を表に出せば、当然能力の存在も表に出る可能性が高くなる。僕らの中にも研究者は多くいるけど、大多数の研究者はこの存在すら知らない。そういう風に圧力をかけているしね」


 世界中に散らばっているであろう研究者の中でも一部しか知ることができない。そういう存在がこの成分なのだとか。


 そしてそんな中もう一つ気になることが生まれる。


「さっき、一定以上入ったら能力が発現するって言ってましたよね?それなら、もっと能力の発動が起きても不思議じゃないんじゃ…」


「いい質問だ。さて、ここで風船をイメージしてほしい。何色でも構わない、空気を入れるための風船さ。中に入るのがマナ、風船は君自身だ。普通の人間は体内にマナが入り込んでも、息を吸うのと同じように出したり入れたりできる。でも一部の人は出すことができずにため込んでしまう性質を持っているんだ」


 風船の中に空気を出したり入れたりできるのが普通の人間で、風船の中に空気がたまり続けるのが能力者になる可能性を秘めた人間ということだろうと周介は頭の中で情報を咀嚼していく。


 そういう意味では周介は後者だったということだ。


「そして、空気が入りすぎれば風船はどうなってしまうかな?」


「破裂します」


「そう、その通り。普通に息を吸いすぎれば肺が痛くなり、自然に息を吐きだそうとする。でも体質的にそれができない人というのは、何とか体の中にあるマナを消費しようとする。その結果、発動するのが能力なのさ。能力を発動するときに目が蒼く光るのは能力発動時人間の脳にマナが集中しているのが視神経を伝わって目から疑似的に月と同様の反応を……ってごめん、これは蛇足だった」


 ドクは自分の研究者としての癖が出たのか、能力の詳細について関係のないことを話しかけるが、話が脱線していることにすぐに気付いて軌道を修正する。


 ものすごい早口になったなと思いながら周介は紅茶を口に含む。


「話を戻そう。能力を使う上で必要なのはマナ、そして君は今までの人生で少しずつそのマナをため込んでいたんだ。そして自分の許容限界を超えてしまったため、体が何とかそれを消費しようと能力を発動した。感情の揺れとかも一種の原因の一つなんだけど、君の場合、受験に遅刻しそうになっていたんだっけ?」


「はい、寝坊してしまって」


「そういった精神的な動揺がきっかけになって能力が発動するというのは典型的な例の一つだ。君は今や立派な能力者ということだね。喜ばしいかどうかは、まぁ君の判断に任せることにするけれど」


 能力など発動しないほうがよかった。そういう風に想う人間もいるだろうと察しての言葉なのだと、周介は理解していた。


 周介は、ドクが非常に言葉を選びながら話をしているという風に受け取っていた。素直に頭が良いのだろうとも感じ取れた。だが同時に、少しだけ普通ではないとも周介は感じていた。


「他にもいろんな発動例はあるけれど、たいてい精神的に非常に不安定なときに発動している。今回の君の場合であれば焦りや不安といった感情だろうね。そしてその感情と、君のいくつかの考えが反映されて、あんな形で能力を発動してしまったというわけだ」


「えっと、能力っていうのはどんな形があるんですか?さっき一緒にいた、井巻、さんはパソコンのマウスを宙に浮かせていましたけど」


「へぇ、彼が能力を見せたのか。うん、話が早いね。能力っていうのはいくつか種類がある。物体に対して発動するものだったり、生物に対して発動するものだったり、中には自分を対象にしてでないと発動できないものもある。いくつかの限定条件を満たさないと発動できないものもあるんだ。それは個人によって、能力によって異なる」


「じゃあ、俺の能力も?」


「そう、君の能力もどのようなものかはわからない。どのような条件があって、どのような効果を及ぼすものなのか、それは調べてみないとわからないのさ」


 ドクの言葉に、周介は自分の中にある能力がいったいどのようなものなのか不安を覚えていた。それと同時に、少しだけ楽しみでもあった。


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