0127
『各隊に伝達。ノーマン隊より目標接近の情報が上がりました。現在常磐道より接近中とのことです。各員警戒してください』
時間にして二十三時を回ったころ、全員無線に情報が入ると同時に、作戦に参加する全ての者に緊張が走る。
高速道路の構造に疎い周介ではあるが、事前の資料から常磐道がいったいどのあたりから延びている道路なのかはある程度把握していた。
そこから首都高に入る時どのような道をたどるのかもある程度は把握できている。
「メイト15、目標の移動速度と首都高への侵入時間を出してもらえますか?それに合わせてルートの選定をお願いします」
『了解しました。少々お待ちください』
「02、今どこにいる?」
『常磐道の方に向かおうとしてるところ。逃がさないようにするためにどっちかの道に張り付きたいところだけど……常磐道からも一応三方向に分かれ道があるから、ある種の賭けになりそう。とりあえずC2のラインで移動中。近くで待機する予定』
「了解。俺もすぐに向かう。アイヴィー隊、聞こえますか?」
周介がアイヴィー隊に声をかけると、数秒待ってから隊長の小堤の声が周介のもとに届く。
『こちらアイヴィー01、状況は把握している』
「俺たちはこれから目標を首都高内部へと誘引しそれができ次第、追跡を開始します。何か要望はありますか?」
周介たちが全力で追うとなれば、当然それだけの速度が出ることになってしまう。機動力があまりないアイヴィー隊の面々ではそれを完全に追跡するというのは難しいだろう。だがタイミングと場所さえ指定できてしまえば、相手を抑え込むことができるだけの実力を彼らはもっている。
『可能であれば中央部分に誘引してくれると助かる。神田橋から北池袋までの間だ』
「了解です。ビルド隊と連携してルートを選定します。ドク、聞こえていましたか?」
『もちろん聞こえていたよ。それじゃあビルド隊にルートを決めてもらおう。どちらに入るかによって、ルートが変わるから気を付けてくれ』
周介たち現場の人間が方針を決めると同時に、ドクは即座に現場にいるビルド隊へ情報を共有しながら指示を送っていく。
具体的に言えば常磐道から延びる首都高の三つのルートに関する出入り口の封鎖だ。可能であればどの道に入るかどうかもビルド隊の能力で道を限定したいところだが、さすがにそこまでやってしまうと危険も大きいうえに相手に不信感を与えすぎてしまう。
ルートへの誘因は周介たちの仕事になりそうだった。
『アルファ01、ルートの選定が完了しました。芝公園から霞が関へ向かい神田橋近くへ、相手の移動ルートによってまたルートを変更します。目標の到着予測時刻は十分後です』
十分。現在位置から十分で常磐道の出入り口に移動するのは難しい。そこで相手の移動ルートによってどの道にも入ることができるように道を選んでくれていた。
「了解、移動を開始します。ドク、相手の現時点での人数はどれくらいですか?」
『確認させるよ。ちょっと待っててくれるかな?…………現在十二人、まだまだ少ない方かな。これから増える可能性がある。ビルド隊へ出入り口の封鎖を急がせるよ。そうすれば少ない人数の状態でぶつかれるかもしれない』
「お願いします。ミーティア隊の状況は?」
『戦闘待機状態で配置についてもらっているよ。今のところは問題ないかな。とはいえ可能な限り彼らは手を出さない方針だからそのあたりは忘れないようにね』
「了解です」
作戦が開始されればもう止まることはできないだろう。周介は深く深呼吸をしながら自分の体と能力の発動状況を確認していく。
疲れは多少あるがどちらかというと体が温まっているような感覚だ。だがその疲れもそこまでひどくはない。能力の使い過ぎということもなく、意識もはっきりしている。
調子はいい。だが先日あったような、瞳曰くハイになっているような状態でもなさそうだった。
道も走っている車もよく見える。暗闇の中で、といっても周囲には街灯や街の明かりで満ちているために暗くないのだが、周介の操るバイクは加速していく。
「02、目標の誘因だけど、俺とお前の車両で何とかできそうか?」
『数は十二でしょ?荒っぽい運転すればいけると思うけど……相手も危険になるってのだけ覚えててよ?相手は一般人もいるんだから』
「あるいは別の方向から音とかそういうのだけ出して警戒させられればいいんだけど……偽の情報とか流せないかな?」
『そのあたりはドクターの領分だと思うからあたしに言われても。どうなんですかドクター』
ある程度の感覚で配置されている表示板、並びにラジオなどで高速道路の状況は提供されている。
相手が割と頻繁に首都高を利用しているということであれば、多少なりともそういう情報を入手する方法はもっているはずだと周介は考えた。
『偽の情報かぁ……できなくはないね。国交省にお願いして誘引するような形で頼んでみよう。ルートはこちらで考えたものにするからね』
「了解です。お任せします」
国交省の依頼であれば、国交省の人間に情報を操作してもらえる可能性も高い。情報操作が可能であれば相手の動きも操作できる。
状況次第ではかなり優位性を維持できると考えていた。