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パソコンに映し出されているのは今回の目標となっている人物のようだった。
集団の先頭を走る長身の男。ドクもこの人物が能力者であると判断していた。
「今回の目標と思われる能力者、カメラで追うことができなかったから、個人名などは不明。バイクのカスタムの店を総当たりしてみたけど、東京近辺にこの車体を取り扱った店がなかったから個人の特定はできなかった。身長は百八十後半、体格は結構がっしりしてる。ヘルメットを外さなかったけど髪はたぶん短い。体格からして過去にスポーツ経験があると思う」
「……そこまでわかるのか」
「大体は。他の人に比べて明らかに体格が違う。バイクに乗る人は体幹がしっかりしていることが多いけど、この人は体幹だけじゃなくて他の部分もしっかり筋肉がついてる。頑張って調べた」
おそらく映像解析の技術をフル活用して調べたのだろう。ドクが調べていた内容よりも随分と考察が具体的だ。
そして何より、相手がある程度以上に運動が可能だという事実を知ることができたのは大きい。
ただ走っているだけではないということなのだろう。
「目標が乗っているバイクの種類がこれ。だいぶ改造されてるから原型ほぼないけど、これを覚えておいて」
そう言って表示されたバイクの画像。映像を解析したものだがかなり鮮明にバイクの特徴を捉えることができた。
周介も瞳も手越も、そのバイクをしっかりと観察してそれを記憶しようとしていた。
「連中が武器を使ったりしたことはあるのか?それによってこっちも装備を変えるけど」
「今のところは武器を使ったという記録はない。あくまでスピードを出すためのチーム、喧嘩が目的じゃない。他のチームとぶつかったこともあるっぽいけど、そこまで詳細はつかめなかった」
この辺りはあらかじめの情報通り、スピードを出すことに終始するチーム。喧嘩よりも速度、そういう目的を持って集まった人間たちなのだ。
他チームとぶつかりそうになったとしても、持ち前の速度で完全に置き去りにしてきたのかもしれない。
どちらかというとスポーツチームのノリに近いのかもしれない。もっとも、周りに多少なりとも迷惑をかけているという点では暴走族という表現が非常に適切であるということは間違いないだろう。
「武器なし、機動力あり、人数あり、面倒ではあるけど苦労はしなさそうだな」
「手越からすりゃそうかもしれないけどな、俺らからすると厳しいぜ?」
「そんなことねえよ。俺らとお前らの連携があれば比較的簡単に分断だってできる。準備とタイミングを合わせればなんてことねえ。ドク、週末の首都高を封鎖することはできるんすか?」
「封鎖、というのが適切かどうかはわからないけど、ちょっと掛け合うことはできるよ。深夜帯とはいえ利用する人間はいるからね。多少文句は言われるけど」
「確実に捕らえるためには必要だといっておいてください。能力者さえ捕らえればあとは警察の領分です。そのために必要な支援を求めるのは何もおかしなことじゃないでしょう?しかも今回は国交省からの依頼。なおさら多少は融通してほしいですね」
「ま、確かにその通りではあるんだけど、今週末に急にって言われてもちょっと困っちゃうのも事実なんだよね。あるいは事故でも起こしたことにしようか。そのほうがいろいろと手っ取り早いかな……?ちょっと調整はしておくよ。他に要望は?」
「それなら俺らの装備とこいつらの装備でちょっと注文が。使うかもしれないし使えないかもしれないっすけど」
「オーケー、仕様書を出してくれれば週末までには用意しよう。欲しい機能を箇条書きでも何でもいいから書いてほしいな。周介君たちも、何かほしい機能があれば言ってくれれば作っておくよ」
「ありがとうございます。書いておきます」
現在の装備でも問題がないのであればいいのだが、周介の装備はいくつか追加でほしいものがある。
万が一の時の対策として必要なものがあるため、これは追加しておいたほうがいいだろうというものがいくつかある。
「他に何かこれといって情報はあるか?あれば教えてほしいんだけど」
「私からは以上。先輩とかがほかの情報を持ってきてくれるかもしれないけど、それも似たようなものになる可能性がある。もっと時間があれば確実な情報を持ってこられたけど、こんな短い間じゃ無理」
「ごめんね急がせちゃって。急な依頼だったもんでさ……国交省のお偉いさんには僕の方から嫌味を言っておくよ」
「必要なら弱みの一つや二つは握ってくるけど?」
「それはありがたいね。けど、国の組織とは良い関係を築いていきたいからね。弱みは確保しておいても、それを盾に使うつもりはないよ」
簡単に個人情報を調べることができるのだから、簡単に弱みを握ることだってできてしまうのだろう。
この拠点の中で、この組織の中で、最も敵に回してはいけないものは戦闘班ではなく、この情報収集班なのではないかと周介は考えていた。
おそらくだが、その考えは間違ってはいないだろう。この情報社会において、情報が伝わる速度は恐ろしく速い。組織そのものがマスコミにも通じているこの状況では、それこそが致命傷に至る可能性もあるのだ。