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アロットロールゲイン  作者: 池金啓太
三話「外れた者の生きる道」
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「っつー……調子に乗りすぎた……!」


「あんだけ無茶苦茶な動きしてればあたり前っしょ。っていうかよくあそこまでもったほうだっての」


 破損したバイクは無残に転がり、周介も当然のように絶妙な体勢で倒れているところに瞳が歩み寄る。


 クマのぬいぐるみがクッションになってくれたとはいえ、衝撃が加わっているせいで周介は半分意識が朦朧としている。


 軽い脳震盪になりかけているのだということを察知した瞳は、クマのぬいぐるみを使って周介を強引に休ませる。


「軽くバイクで事故った状態と同じなんだから大人しくしてな。そのうちドクが壊れたバイクを回収に……ってもう来てた」


 瞳が視線を向けると、アームが壊れてしまったバイクの方にドクが駆け寄りその状態を確認して嘆いていた。


「ああぁあぁあああ!なんてこった!あんな衝撃にも耐えられないなんて!一から構造の見直しだ!構造上の耐久力?素材?形?パーツ?全部だド畜生!根本からやり直しだ!壁くらい走れるようじゃないとダメじゃないかくそったれ!」


 バイクの部品が壊れたことよりも、壊れるほどに脆いものを作ったという事実にひどく衝撃を受けているようで、ドクは一つ一つのパーツを回収しながらどの部品に負荷がかかったのか、そしてどのパーツを変えるべきなのかを一つ一つ確認しようとしていた。


 既にバイクの部品のいくつもが分解されており、今この場で部品の見直しをしているようである。


 今までの作り出していた時のテンションとは少し異なる。自分自身が許せないかのような怒号のようなものも混じっている。


 あぁ言うドクを見るのは初めてだなと周介は目を細めていた。


「あんた、さっきテンション上がってたでしょ?」


「え?あ、あぁ。よくわかったな」


「そりゃね。似たような感じになったことあるし。能力を使えば何でもできるって、そんな感じ。テンションが上がって、こう、ワクワクが止まらないって、そんな感じ」


「あぁ、そんな感じだった。何でもできるような、どこでも行けるような感じがしたんだ。結果がこれだけど」


 周介はそう言いながら恥ずかしそうに自分の頬をかく。実際何でもできるような気がしたのだ。どこにでも行けるような気がしたのだ。


 能力があれば、どんなところにも行くことができて、どんなことだって可能な気がしたのだ。だがそれはバイクが壊れたその衝撃で途端に失われてしまったが。


「あたしの場合は人形を操るだけでよかったけど、あんたの場合は操る装備の問題があるから、その装備の耐久力とかを考えて動かないと今みたいになるわけね。勉強になったでしょ?」


「あぁ、能力があったって、何でもできるわけでも、どこにでも行けるわけでもないんだな。いい勉強になった」


 周介の頭に未だ残る鈍痛がその証だった。あの興奮の感覚は今でも覚えている。遠くにある天井にさえ簡単に手が届きそうな、重力にだって簡単に逆らえそうなあの感覚。


 だがそれは違うと否定するかのように、周介の鼓動に合わせて頭に響く鈍痛が周介を夢のような冷めやらぬ興奮から現実に引き戻していた。


 能力は何でもできるわけではない。能力にだって限界があり、できることとできないことがある。

 そんな当たり前のことを、能力者であればだれでも知っているようなことを周介は今この時になって本当の意味で実感していた。


 自分の能力がただ回すだけの能力ということを知った時点で、そのようなことはわかっているはずだった。だが本当の意味で分かっていなかった。


「情けねぇ、かっこ悪い。あんだけ勢いつけてノリノリでこれだもんなぁ」


「能力者だったら誰でも通る道だし、仕方ないんじゃない?まだまだ心も体もルーキーってことっしょ?」


 瞳のようなベテランの能力者と違い、周介はまだ能力者となって半年も経っていない未熟者の新人だ。瞳の言うことも何も間違っていないだけに反論はできないが、それでも複雑な心境だった。


「まだ痛い?」


「まだ痛い。頭痛がする。事故るとこんな感じなんかね?」


「ひどくなるようなら医務室に連れてくけど、どうする?」


「一応行くかな……どっちにしろバイクがあれじゃ訓練も一時中断だし」


 バイクは着実にドクに分解されて行っている。パーツ一つ一つに分けられていき、どのパーツに負荷がかかっているのかを一つ一つ確実に調査されていた。


 周介たちが聞き取れないような小さな声で何かをつぶやいているようだったが、周介たちはそれを聞く術はなかった。


「んじゃとりあえず行こ。乗せてってあげるから」


「サンキュ。この熊には世話になりっぱなしだな」


「人を運ぶときには重宝するの。なんかあった時はクッションにもなるし。いざとなれば着ればいいし」


 運んでよし、助けてよし、着てよしというなかなかに多機能を有した優れものであるらしいクマに乗せられながら、周介は医務室まで運ばれていく。


 訓練室ではドクのつぶやきが延々に聞こえていた。


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