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アロットロールゲイン  作者: 池金啓太
一話「蒼い光を宿すもの」

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0011

 三日後、周介は両親とともに家で待ち構えていた。時刻通りにくるかどうかはさておき、すでに準備は万端だった。


 契約書は作成した。その内容も完全に把握し、そしてこれから周介が通う学校に関してのことも頭に入れていた。


 周介がこれから通うことになる高校は東京郊外にある高校だ。名を『粋雲(すいうん)高校』年号が変わるよりも前から存在している高校で、かなり歴史が長い高校であるとされている。


 設立当初は国が主導となっており、その後私立となりより高い教育方針を掲げる高校となっている。


 かなり高い学力を持った学生たちが多く、この中から有名大学に進むものはかなり多いとされている。

 周介はこの中の学生寮に入るという内容になっていた。


 今日はその辺りのいろいろな説明などをするために、あの井巻という男がやってくる予定になっている。

 そして、チャイムが鳴った瞬間に父英二が反応し、インターフォン越しに声をかける。


「はい、どちら様ですか?」


『井巻研吾です。百枝周介君をお預かりに上がりました』


 まるで攫うような言い草だなと英二は憤りながら玄関に向かう。それに続くように周介もまた玄関に向かうことにした。


「父さん、喧嘩腰はダメだよ?」


「わかってる。というか、喧嘩腰になってても勝てないっていうことはわかっているよ」


 三日も時間があったのだ。周介と英二の間で、相手がどの程度の組織であるのかという予想はできている。


 鉄道、そして報道、さらには警察などにもコネを持っている組織ということ。そして、この粋雲高校を調べた段階で二人はある想像にたどり着いていた。


 この高校に入らせるという行動ができるということは、この高校にも何らかのつながりを有していると考えていい。


 そしてこの高校を国が主導で作ったということは、国とも何らかの関係を持っているのではないか。


 そう考えた時に、もはや逆らうだけの気力は二人にはなかった。


 できることはこれ以上被害を出さないこと。周介も言った通り、これ以上家族に手を出させないことだ。


「こんにちは。準備はできているかな?」


「どうも。書類関係は全部作りましたよ」


「とりあえず、中にどうぞ」


「いや、その必要はない。周介君、今日これから我々の拠点に来てもらう」


 唐突にいきなり連れていくといわれても、周介も英二も納得しかねるところがあった。何せそういった準備は全くしていないのだ。


「待て!今日は書類の確認だけじゃ」


「ご両親に関してはその通りです。ですが周介君に関してはそれだけでは不十分。これから我々のもとに来てもらいます。安心してください、連絡はできるようにしますし、今日の夜にはお返しします」


 そう言いながら、井巻の後ろからさらに二人、スーツ姿の男性と女性が現れる。


「この二人がご両親へのご説明を担当します。では周介君、車へ」


「待て!勝手なことを!周介を連れて行かせはしないぞ!書類にもサインはしたが、実際に働くのは四月以降と書いてあっただろう!」


 英二も周介も契約書類には目を通した。そして実際に給金が発生し、働くのは四月以降、つまり高校が始まってからであると明記されている。


 だというのに、いきなり連れていくというのは筋が通らないように思える。


「いいえ、これは必要なことです。本来ならば三日前のあの日に連れて行きたいくらいだった。それを三日も待ったのです。これは譲れない。危険な状態の周介君をこのまま放置してはおけません」


「危険……?」


 危険と言われて英二は眉を顰める。そして周介だけはその言葉の意味を理解できてしまっていた。


 あの恐怖を感じた、あの焦りを感じた周介だからこそ、理解できてしまった。

「……また能力が暴走しないように……ってことですか?」


「察しが早くて助かる。その通り。君は三日前のあの日能力を暴走させた。また同じように能力が暴走しないとも限らない。その前に、君は訓練をする必要がある。最低でも、自分の意思で能力をコントロールできるように」


 この三日、周介は電車に乗るようなことはなかった。近くの、もともと通っている中学に通っていたくらいであるため、自転車での通学が続いていた。


 そして能力らしい効果も発動はしなかった。時折自分の目を確認していても、特に何も起きてはいなかった。


 授業を受けているときも、勉強しているときも、友達と話しているときも、そんなことは一切なかったのだ。


 だからこそ意識してこなかったが、あの時暴走したということは、いつ暴走しても不思議はなかったのだ。


「これ以上被害を出さないためにも、早々に周介君には訓練が必要だ。そのことはあなたも理解しているはず」


「それは……」


 今回、周介が引き起こしたと思われる事件は連日大きく報道されていた。列車の暴走、システムの不備、整備不足。新聞でもテレビでもその報道はかなり目立つ位置での内容だった。


 あれだけの騒ぎになっているにもかかわらず、死者やけが人がいなかったからこそ、まだましといえる。

 もしこれで、電車が暴走し続けてホームなどに突っ込んでいたら。


 そう考えれば、周介はすぐにでも能力の制御法を身につけなければいけない。その理屈は正しいし、理解もできる。


 だがそう簡単に納得できるようなことでもなかった。父親として、子供を守る親として、子供を一人行かせるわけにはいかないと、そう考えていた。


「なら私も行く。父親として、息子が働く場所を見たいと思うのは当然だろう?」


「それはできません」


「な、何故!」


「周介君との約束です。私は周介君と、これ以上彼の家族を巻き込まないという約束をした。貴方を我々の拠点に連れていけば、貴方を巻き込むことになる」


 それは周介の要求を逆手に取った言葉だった。一種の意趣返しといってもいい。英二からすれば何と屁理屈を言うのだろうかと思うところだが、周介は違った。


 井巻のいうことにも一理あるからだ。これからどこに行こうとしているのかはわからないが、それが機密性の高い場所だった場合、英二をそこに連れていくことは彼を巻き込むことになりかねない。


「……父さん、俺だけで大丈夫だよ」


「だが周介……」


「平気だって。夜までには帰る。それでいいんですよね?」


「もちろんだ。今夜には必ず家に送ることを約束しよう」


 井巻の言葉を周介はあまり信用していなかったが、この男が何故か妙に約束という言葉を多用することに少しだけ、親近感を抱いていた。


 契約でも何でもなく、この男は約束といったのだ。言葉遣いのセンスの問題になるのだろうが、彼の言葉からは先日のような威圧感は感じ取れなかった。


「兄ちゃん!あそ……ぼ……?」


 好きなテレビ番組を見終わったからか、リビングから駆け寄ってくる風太を見て周介は苦笑してしまう。


 風太は周介がどこかに行こうとしていることと、父親である英二があまり良い表情をしていないところを見て、何かがあると察したのか不安そうな表情になる。


「風太、ダメ、兄ちゃんたちの邪魔しちゃ」


「……姉ちゃん、でも、兄ちゃんが……」


 周介がどこかに行こうとしていること。そしてそれが何かいつもと違うことを、子供ながらに、いや子供だからこそだろうか、独特の感性で感じ取ったのか、風太は引き留める麻耶の顔を見ながら不安そうな声を出す。


 そしてその不安な声と顔に影響されたのか、麻耶も同じように不安そうな顔をする。


 奥からは二人を連れ戻そうと、母である美沙が小走りで二人を追いかけてくる。美沙の表情もあまり良いものとは言えない。不安そうで、周介と英二の顔を見比べてしまっている。


 これ以上妹たちを不安にさせるわけにはいかないなと周介は麻耶と風太のもとに歩み寄る。


「兄ちゃんちょっと出かけてくるな。今度から通う学校を見学してくるよ」


「……そうなの?」


「あぁ。お土産は……買えそうにないけど……帰ったらゲームやろう。明日も休みだし、遅くまでゲームやろう」


「ほんとに?」


「あぁ、約束。でもちゃんと遅くまで起きていられるか?帰ってくる前に寝ちゃうんじゃないのか?」


「大丈夫だもん。そうだよね、姉ちゃん!」


「……うん、早く帰ってきてね」


「あぁ。頑張る」


 そう言って周介は二人の頭を優しくなでると、踵を返して玄関に向かって行った。


「行ってきます。父さん、契約関係はお願い」


「……わかった。何かあったらすぐに連絡しなさい」


 英二も何か覚悟を決めたような表情をしている。動揺したままだろうが、もうどうしようもないと、あきらめたことで決意が固まったようだった。


「それじゃあ行こうか」


「えぇ。あぁそうだ、その前に一つだけ教えてくれますか?」


「何かな?」


「いえ、あなたたちの組織の名前とか知らなかったなと思って。契約書にも載っていませんでしたけど、俺はどこに配属になるんです?」


「組織とはまた言い得て妙だな。そうだな、伝えておこう。我々の所属は『五輪正典』という。君の所属は、今日からの君の努力次第で変わるといっておこう」


 五輪正典。少なくとも組織の名前らしくはないがそれがこれから周介の所属する組織となるようだった。


 ネーミングセンスはあまり良くないななどと思いながら、周介は井巻とともに表に止まっている車に乗り込んだ。


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