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アロットロールゲイン  作者: 池金啓太
三話「外れた者の生きる道」
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 ドクの作ったバイクはいくつかの種類に分かれる。種類といっても外観が違うものが多いだけなのだが。


 スポーツ型のフルカウルタイプ、そしてネイキッドタイプ、スクータータイプのものやハーレーのように深く座るタイプのものまでその種類は豊富である。


 中にはモトクロスバイクなどもあるほどだ。その種類に関しては舌を巻くほどの多さである。おそらくはどこかの企業と提携してフレームを作成したのか、どこかで見たことがあるようなバイクが多かった。


 さすがにエンブレムなどはなかったが、形だけ見ればある程度の違いは分かる。


 そしてそういったものの中にも特徴がある。例えばフルカウルタイプのものであれば左右から合計四本の補助アームが飛び出るようになっているが、それがスクータータイプだとアームが後方に集中している。


 フレームの形によって装備を取り付ける内容などを変えているのだろう。大きさによって収納できるものやそのタイプが異なるのは面白い試みだとは思うが、一つ一つ試しているのでは時間が足りないため、周介はとりあえずフルカウルタイプのバイクを選択して練習することにした。


 速度を出せばハンドルよりも体重移動による操作がメインになるため、比較的安定して動くことができる。


 だが当たり前だが、自転車よりも重いために曲がりにくく、減速もしにくい。少しでもカーブへの侵入速度を間違えると即座にクラッシュの危険が付きまとう。


 体一つで転がるのは慣れたものだったが、バイクで転んだ場合どのようになるのかまだわかっていないだけに周介の練習はまずは速度を出した際のバイクの挙動に慣れることから始まっていた。


 免許を取るための運転と違い、今回は速度を目一杯出さなければならないのだ。周介もこの技術をそう易々とものにできるとも思っていなかった。


 バイクなどのレース動画などを見てどのように体を動かしているのか、体勢を維持しているのかなどを勉強しながらそれを実際の体で扱えるようにチャレンジしてみる。


 そしてやはりというか当然というか、瞳の人形の方が圧倒的に速くバイクの乗り方を完全にマスターしていた。


 見本があって実物があるのであればあとは体重差をどのように克服するかだけの課題だ。その程度の事は瞳にとっては楽勝なのだろう。


「やっぱ安形は覚えるの早いよな……なんか心折れそう」


「あたしの能力はそういうのに向いてるってだけだっての。あんたの場合体で覚えるんだから、普通の能力を操るよりは覚えやすいっしょ?頑張れ」


「……安形はバイク乗らないのか?」


 安形は先ほどからずっと座った状態で携帯をいじっている。こんな状態でも問題なく人形たちを操れるのだからすごいものだと感心はするが、周介からすれば納得いかないという感情が強く表に出てくる。


「……転ぶと痛いじゃん」


「お前!お前ぇ!これから一緒に行動するんだぞ!バイクの一つや二つ乗れないでどうするか!お前も練習しろやぁあ!」


「っさい!必要になったら二ケツするからいいの!危ないとか痛いとかはあたしに合ってない!」


「ざっけんな!意地でもバイク乗らせるぞ!おらクマァ!お前も手伝えや!」


 周介の声に反応したからか、クマが近くにやってくると周介の体を持ち上げて放り投げる。熊の人形もまた瞳の能力なのだから当たり前といえば当たり前なのだが。


「くっそ!多勢に無勢とは卑怯な!」


「それがあたしの能力だし。それにこれにはちょっとした裏技もあるからどうにでもなるっての」


 そう言って瞳はクマのぬいぐるみの後ろのファスナーを開く。いったい何をするのかと思ったら瞳はそのぬいぐるみの中に潜り込んでいった。


「え?うそ、それ入れんの?」


「何のためにこんなでかいぬいぐるみをセットしてると思ってんの。こいつは着用可能な戦闘用スーツ!この状態で操れば人形の動きに合わせてあたしの体も動くっていう優れもの!これで練習なんて必要ない!」


「何それずるい!」


 周介が何度もミスして怪我をしそうになりながら学習するようなことを、瞳は全く痛みを覚えることもなく学習することができるのだ。


 そしてクマのぬいぐるみを着た瞳はそれを証明するかの如くバイクにまたがる。周介が能力を発動すると瞳はその速度に臆することもなく堂々と操って見せていた。


 まるでレーサーのような挙動をするクマのぬいぐるみに周介は嫉妬すら覚えていた。


 絵面的には非常に間抜けなのだが、それでもあの痛みも努力もなしにあれだけの動きを瞬時にできるようになるとは恐ろしい能力である。


 実際は瞳が動いているのではなく、瞳が着ているぬいぐるみを操ってその体を外側から操っている状態だ。


 周介がずるいといってしまうのも無理ないかもしれない。だがこの状態にも圧倒的な欠点があるようだった。


 バイクから降りた瞳はぬいぐるみから出ると、汗だくの状態になってしまっていた。


「欠点は、暑い!ひたすら暑い!これを我慢しなきゃいけないんだから文句言うな!」


 どんな能力にも利点と欠点はあるのだなと思いながら、周介は困った顔をしていた。

 結局自分で頑張るほかないのだと、そう理解した。


 周介が選んだバイクについている補助アームの動かし方を覚えるのは難しくはなかった。


 何せ回せばその方向にアームが動く。もちろん可動範囲に限界があるため、一定以上動かそうとすれば壊れる可能性もあるが、そのあたりの調整はすでに周介は簡単にできるようになっている。


 万が一スピードを出しすぎた時、そして転びそうになった時はとっさにアームを使って一種の補助輪のような動きをさせることもできるし、壁に激突しないようにつっかえ棒のように使うこともできる。


 そうして何度もぶつからないように補助アームを使っていくうちに、周介はこの腕の本当の意味を理解していた。


 この腕は、速度を出しすぎるためにあるためのものだ。


 もちろんいくつもの装備を取り付け、攻撃や防御に使うためでもあるのだろう。だがそれ以上に、周介からすればこの腕は転ばないためにあるように思えた。そしてもっともっと速度を出すためにあるように思えた。


 瞳は汗をかいた自分の体を手で扇ぎながら周介を観察していた。周介の動きが少しずつ変わっている。


 先ほどまではただのバイクに乗る動きだった。言ってしまえば普通の人間の動きだった。


 普通にバイクに乗り、普通に曲がる。普通に減速し、普通に加速する。動力だけが普通ではない、普通のバイクの動きだった。


 だが少しずつ、その動きが変わっている。補助アームを使いだしてから、周介のバイクの挙動が明らかに変化しているのだ。


 普通のバイクでは曲がり切れないような速度で平気で突っ込み、限界ぎりぎりまで車体を傾け、それでもぶつかりそうなときはあえて車体を起こしてアームを壁にこするようにしながら強引に曲がって見せる。


 そのせいでいくつもの傷が壁にできているが、周介はそんなことを気にしなかった。


 そしてバイクが完全に曲がりきると壁から弾かれるように離れてまた加速する。おかしな動きだった。普通のバイクの動きではなかった。


 時にはバイクの車体をアームで持ち上げ、タイヤを壁につけて強引に曲がろうとするような素振りさえも見せた。


 動きが変わる。荒々しく、だが速く。


 少しずつ変わる周介のバイクの軌道を見て、瞳は目を細めながら周介が集中状態に入ったことを悟っていた。


 今まで訓練していた時も何度かあった。体を動かすのと同時に能力を使うことに慣れていなかった周介が、少しずつ、だが確実にその動きを変える兆候のようなものだ。


 今周介は能力者として成長している。バイクの動きが普通の人間の動きから能力者のそれへと変化している。


 周介は能力者としては未熟な部類だ。能力によって何ができて、能力では何ができないのか、そういった考えが圧倒的に足りないためにとにかく試行錯誤をする。


 この動きはどうだろうか。こうすればどうなるだろうか。どうすれば転ばないか。どうすれば転ぶのか。一つ一つの動作を確認して、一つ一つ試し、失敗して、成功して、修正して、改良して、少しずつその動きを文字通り洗練させていく。


 できないことなどない。行けないところなどない。ドクは周介にそういった。その言葉の意味を周介は少しずつ、本当に少しずつ理解していた。


 どのような動きでもできるわけではない。だが使い方によってはどのような動きも可能になるかもしれない。


 装備によってできることは変わるのだろう。装備によって行ける場所も変わるのだろう。だがそれでも、周介は自分の能力がいったいどのような効果を持っているのかを理解しつつあった。


 ドクが興奮するのもうなずける。周介も、こうして訓練しながら興奮を抑えることができずにいた。


 周介の目が輝きを増していく。ヘルメットの奥にあるその目の輝きが強くなっていく中、周介は次はどのような動きをしようかと、この動きをすればどうなるのだろうかと好奇心を押さえることができなかった。


 それが一種のハイになっている状態であると、瞳は察していた。


 能力を身に着けた能力者が必ずなる状態である。それは能力を操ることができ始めて、自分の思う通りに能力が発現するようになってから起きる精神状態だった。


 一種の全能感とでもいえばいいだろうか、どのようなことでもできる、どんなことだってできてしまうというそんな勘違いを起こす精神状態だ。


 瞳はそれを察して人形たちを配置していた。


 テンションが上がりまくった周介がアームを使って地面を飛び跳ね、壁にバイクごと着地しようとした瞬間、それは起きた。


 バイクの勢いと、今までかけ続けた負荷によって補助アームが大破したのである。


 当然バイクの挙動を完全に制御できなくなった周介はバイクから、そして壁から落下してしまう。


 だがそれを察していた瞳は周介の落下先にクマのぬいぐるみを寝転がらせていた。


 顔面からクマのぬいぐるみにダイブした周介はこれまた絶妙な体勢で倒れることとなる。


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