0107
「で、話を戻してもいいですか?」
「え?他に何かあったっけ?」
「依頼の話ですよ。ど忘れしないでください」
本気で忘れていたのかと周介と瞳は呆れながらため息をつく。ドクの悪癖の一つなのだろう。自分の興味のあることに話が移ると、たまに本筋の話を忘れてしまうのだろう。
指摘されたことでドクはそうだったそうだったと苦笑しながら二人に謝罪していた。
「ごめんごめん、それじゃあ話をしようか。さっきちょっと話したけど、今回の依頼は国土交通省からの依頼だ。いや、国土交通省と警察と合同の依頼といえばいいのかな?実際は警察は違うんだけどそのあたりはちょっとややこしいから置いておこう」
国土交通省がいったいどのような組織であるのか、周介は本当に大まかなことしか知らない。国の交通に関することを管理している部署であるという程度の知識しかないのだ。
そんなところと警察が一緒になって依頼を出してきたというのが少しだけ気がかりだった。というか警察が出てきているという時点で少々気後れしてしまう。
悪いことをしたのが自分ではないとわかっていても、警察がいると少し焦ってしまうものだ。何せ周介には前科があるのだ。そう感じるのも無理のない話かもしれない。
ドク曰く警察は違うという言い方をしてきたのも少し気になる。何か事情がありそうだと周介は考えていた。
「で、ドクター。依頼の内容は?」
「うん、依頼内容は暴走族を率いてる能力者の拿捕。彼がいる限り問題の解決はないだろうという警察の判断だね」
「能力者ってのは確定なんですか?」
「間違いなくね。何度か警察が追っているところの映像を解析させてもらったんだ。ちょうどいいから君達にも見てもらおうか」
そう言ってドクはディスクを取り出して二人を近くにある部屋に誘導する。そこにあるパソコンにディスクを挿入すると、その中に入っていた映像を再生し始めた。
そこにはテレビなどで見たことのあるパトカーに搭載されているカメラの映像が記載されていた。
既に追跡を始めているような映像だった。場所は首都高のようで、数人のバイクに乗った男がパトカーから逃げているようだった。
「ここから十五秒後、急カーブがあるんだけど、そこを注意してみててほしい。始めるよ」
パトカーから逃げているというだけあって、さらに首都高ということもあってかなり速度を出しているようだった。
何よりも周りの車の数も少ない。おそらくは深夜の車の少ない時間帯を狙っているのだろうか。どちらにせよかなりの速度で走っている。この速度を維持するのはかなり危険だろうと周介は理解できていた。
そしてドクの言うように、高速道路の中で何個かある急カーブに差し掛かる。パトカーに乗った警官が何度も警告の声を放っているにもかかわらず、数台のバイクは止まらない。
そして急カーブに差し掛かるその瞬間、それは起きた。
カーブの際、バイクが不自然な加速と不自然な挙動をしたのだ。本来高速で移動し続ける場合であれば、曲がろうとすれば当然遠心力が働き、速度が上がれば上がるほどに大きく弧を描くように曲がっていくものだ。
だが今バイクは加速しながら小さく弧を描き曲がっていった。先ほどまでの軌道からしても明らかに異常な挙動だった。
「見たね?今のがおかしいんだ。本来であればあの速度ならばこの軌道を描かなければいけないのに、あのバイクたちは全員妙な軌道を描いたのさ」
ドクはパソコンの画面をなぞり、その軌道が明らかにおかしいことを示しながら次の動画を再生する。
今度は首都高ではなく下道、つまりは一般道での映像だった。
「次も同じだ。曲がり角に高速で突っ込むバイクが、不自然な軌道を描いてカーブしている」
先ほどの高速道路よりも急なカーブを、先ほどと同じように十台にも及ぶバイクが高速で突っ込んでいき、そして同じように本来この速度ではありえないほどの小さな弧を描いて曲がっていく。当然パトカーは追い切れずに徐々に離されてしまう。
小道に行けば行くほど、そして車を避ければ避けるほどにバイクから距離を放されてしまっているのが見て取れていた。
「気持ち悪い曲がり方ですね……これ能力で曲がってるんですか?」
「僕はそう結論付けだ。そして同様の映像がいくつもあってね。僕らの見解ではこの男、チームの常に先頭を走るこの男が能力を発動しているものであると判断した」
そう言って映像に映っている人物の中で一人の人物をピックアップする。
黒いライダースーツに身を包み、同じく黒いフルフェイスのヘルメットを身に着けた人物だ。乗っているバイクはネイキッドタイプの大型車のように見える。確かにいくつも存在する映像データで不自然に曲がっている場面には常にこの人物が写っていた。
「どの場面においてもチームの先頭を走っているということから、この人物がこのチームのリーダーであると思っていいだろう。今回の目的は彼の拿捕だ。何か質問は?」
ドクの言葉を聞きながら周介と瞳は何度も何度も、いくつも存在する映像データを再生して彼の情報を集めようとしていた。
バイクの情報から体の大きさを予測、そしてバイクの軌道から能力を予測、そして今まで何度逃走に成功しているのか、それらを予測していた。
警察から逃げる手口は決まってカーブでどんどん距離を放していき、散り散りになって逃げるというものだった。
途中まで追えていた警察の車両もすべて振り切られている。完全に速度で上回っているからこそできる芸当なのだろう。