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アロットロールゲイン  作者: 池金啓太
三話「外れた者の生きる道」
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「疲れたぁ……さすがにきつかった……!」


 寮での夕食を終えた周介は、寮の自室のベッドに倒れ込んでいた。


 体力も気力も限界まで使い切ったのだ。このまままどろんでいたらいつの間にか次の日になっていても不思議はない。それほどに心地よい疲労感だった。


「あんだけ動き回ってりゃな。ってか百枝って反射神経いいよな。部活なんだったっけ?」


「卓球部だった。それなりに強かったんだぞ?もうできないけど」


「卓球か。なるほど、反射神経がいいわけだ」


 卓球は非常に小さい台の上で小さな球を打ち合う球技だ。距離が短い分、予測と反射神経が求められる競技でもある。


 周介には卓球に適した反射神経があったため、部内でもそれなりに強かった。大会にも何度も出場した。


 生憎と全国に行くまでの実力はなかったが。


「基礎体力はあるし、反射神経も能力の扱いも上手くなってきてる。あとは装備さえ整えば結構いいところまで行けると思うぜ。大太刀とか目指さないのか?」


「絶対に嫌だ。何が楽しくて戦わなきゃいけないんだよ。俺は裏方で十分だよ。もうあんなのは二度とごめんだ」


 高速道路での経験から、周介は戦闘というものに強い恐怖を覚えていた。戦うことが嫌なのではなく、単純に危ない目に遭うのが嫌なのだ。


 高所から落下したあの瞬間、間違いなく死んだと思った。とっさに壁に足をついて減速できたからよかったものの、もしあのまま落下していたらと思うと今でも背筋が凍る。


「大体、俺の能力じゃ大太刀は無理だって。戦いに特化してないじゃんか。回すだけだぞ?そんな能力でいったい何と戦うってんだよ」


「まぁ、そうかもしれないけどな。案外大太刀の方がお前に合ってるかもしれないぞ?大太刀になれない奴らは訓練も嫌だっていうのも多いからな」


「そういうもんか。けど俺は絶対に嫌だ。今こうして訓練してるのだって現場から確実に逃げ出すためだぞ?」


 なんて後ろ向きな努力だろうかと、手越は苦笑していたが、周介の考えは別に何も間違っているものではないのだ。


 逃げるためにだって力がいる。あの時、高速道路で追われていた時周介はそれを強く実感していた。


 あの時もっと安定して能力を扱えていたら安全に逃げ切れたかもしれない。もっと適切な装備があれば万全の状態で逃げることができていたかもしれない。もっと自分の能力を操れていれば、別の逃走経路を思いついたかもしれない。


 能力を扱う中で、使えば使うほどにあの時の自分が未熟であったと思い知らされるのだ。


 今日もあのように手越に挑んだが、簡単に取り押さえられた。機動力では圧倒的に勝っていたというのにあっさりと負けた。


 単純に技術と経験の差が出たのだ。周介はこれからそれを埋めなければならない。そういう意味では経験豊富な手越と気軽に訓練できる環境にあるのは非常にありがたい。


「でもよ、俺だけじゃなくて安形とも訓練したほうがいいと思うぞ?」


「安形と?」


「あいつは俺と同じタイプの能力だからな。ただ、俺の能力と違うのは一カ所に集められる密度が違うってことだ。お前の場合、人ごみで能力を使うこともあるだろうから、そういうのも鍛えておいたほうがいい」


「……人形を躱すだけじゃダメってことか?」


「ダメとは言わないけどな。段階的に訓練のレベルを上げるなら、次は追いかけてくる人形から逃げる訓練でもいいと思う。十分逃げられるようになったら攻撃でも何でも覚えればいい」


 人形から逃げる。簡単に言ってはいるが、実際それが恐ろしく難しいということを周介は理解していた。


 瞳の能力の練度は圧倒的だ。単純な能力の操作であれば手越に勝るとも劣らない。いや、もしかしたら手越よりも上かもしれない。


 多量の人形を一度に操り、手越が繰り出した攻撃をいとも容易く止めて見せたのだ。もし彼女が本気になって人形たちを操ったらどんなことになるか、想像もできなかった。


「安形の人形はなぁ……あれはよけきれるきがしないんだよなぁ」


「なんだよ、俺の能力は避けてやるって言ってたくせに」


「お前の手はまだ何とかなるって気がするんだよ。あの状態だったらな。お前まだ数増やせるだろ?」


「……なんだ、気付いてたのか」


「一度ちゃんと見てるからな。もっと数を増やされたらどうしようもないかもだけど。それよりも安形の能力はマジですごいんだって。あれは逃げ切れる気がしない。人海戦術を絵にかいたような能力だぞ」


「確かにな。あれは確かにやばい。攻撃力自体はなくても、拘束とか追い詰めるとかいうのはすごく得意そうだな」


 手だけの動作であれだけの多彩さを見せた手越の能力だが、瞳の能力は飛べない代わりに体すべてを自在に操れるのだ。


 その気になれば格闘技だって思いのままに使うことができる。そんな能力を前にして無事でいられる気がしなかった。


「それにさ、あいつって結構でかい人形も平気で操るだろ?」


「あぁ、クマとかいたよな。あれに迫られると、あ、死んだ……ってなるんだよな」


「なるなる。たまにさ、今日の手越みたいに追いかけてもらうっていうか、邪魔してもらうことがあるんだけどさ、あいつ人形を投げるんだよ」


 人形を投げるという言葉の意味をよく理解できなかった手越だが、その状況を想像してその意味をほぼ正確に理解していた。


「そうか、あいつの人形って普通にものを持てるくらいのパワーはあるんだもんな」


「そう、あいつの人形って普通に人間並みのパワーあるだろ?だから人形を投げて攻撃してくんだよ。むしろ人形を武器にしてくる勢いなんだ」


 瞳の能力は人形を操ることにある。本人曰く非力とは言うが、人間と同程度、もっと詳しく言えば平均的な成人男性と同程度の力は発揮できるのだ。


 ここで問題なのは人形の重量である。瞳が操っている人形の重量は個体差はあるものの、大体十キロあるかないか程度のものだ。


 人形は十キロ程度のものであれば簡単に持てるし、当然投げることだってできる。


 一度試してもらった時にはクマの大型の人形が近くにある人形の足を掴んで武器のように振り回したり周介めがけて投擲したりと、恐ろしい手段をとってきたものだ。


 しかも武器扱いされている人形も、投擲された人形もさも当然のように攻撃を繰り出してくるのだ。


 掴もうとして来たり殴ろうとして来たり、その攻撃の幅というか、攻撃への執念はかなりのものだ。


 全ての人形を瞳が操っているのだから当然なのかもしれないが、投げる人形、投げられる人形、攻撃する人形、武器にされる人形すべてが完璧な連携をしてくるとなるとかなり面倒な攻撃になる。


「見た目だけなら最悪な光景だな。暴君だよ暴君」


「そうなんだよ。結局さ、近づいたらやばいから逃げ回るんだけどさ、それでもどんどん飛んでくるんだよ。飛んだ先でも同じように人形が投げるから人が、っていうか人形が空中を舞いまくる空間ができるわけだ」


「地獄絵図の出来上がりだな。俺の能力も人のこと言えないけど、あいつの能力も大概だからなぁ」


「あれでも大太刀には入れないんだろ?それじゃ俺の能力なんてなおのこと無理だろ」


「まぁあいつの場合戦おうとしないっていうのもあるし、何より人形を運ぶっていう一番の問題があったからな。お前のおかげでそれが解決したのかもしれないけど」


 ドクも話題に上げていた機動性の問題。瞳の人形ははっきり言って機動力がないのだ。走ることはできるし、その走りだって普通の人間に比べれば多少は速いが、多少程度でしかない。


 空を飛ぶことができるわけでもないうえに、瞳の能力を戦闘で活用しようと思ったら大量の人形を現場に運ばなければいけないのだ。


 瞳の強みは一人で十倍以上の人手を一度に得られる点だ。本人が操っているために本人が知覚できる範囲に限られるのだろうが、それでもかなりの人手を一度に得られるのはかなりの利点だ。


 だが同時にそれはそれだけの人員、というか人形を運ばなければいけないということでもある。


 機動力がない瞳の能力では一度に多量の人形を運ぶのは難しい。そこで周介の能力だ。


 瞳が自分で自動車を運転するのでもいいのだろうが、それでは運ぶまでしか人形は機動力を得られない。


 だが周介の能力によって人形そのものにも機動力を与えられることになり、活躍できる現場は大幅に広がった。


「お前のおかげで安形の能力もより動かしやすくなって、安形の能力を活かすことでお前の能力もできることが増える。チームとしては良い形だと思うぞ?互いが互いを補完し合うってのは大事だ」


 手越の言うように能力の組み合わせによってさらに行動の幅が広がるというのはチームとして正しい。


 ただの能力だけではなく、能力の組み合わせによって高い効果を発揮する。それこそがチームの強みであるのだ。


「これから他にもいろんな能力者と会って、他のチームの人間と会うことも増えるだろ。そん中で自分のチームに入れたらいいんじゃないかってやつを見つけておくのもいいぞ。チームとしての総合力を上げるって言えばいいかな、俺のチームもそうだし」


「アイヴィー隊か……今何人なんだ?」


「うちはまだ四人だな。チームの特色を決めてそれに沿う能力者を見つけたり探してもらったりするのもいいな。俺らの場合特殊だから難しいけど、お前らの場合は割と何とかなると思うぞ?あとはチームの名前、なんか考えておいたほうがいいぜ?」


 チームとしての特色。周介たちの能力の場合はいったい何になるのだろうか。今のところ周介の能力を基礎にした機動力というのがあるが、瞳の能力を考えれば人手を一気に得られるというのも考えたいところだ。


 新たなチームメイト。そしてチームの名前。


 チームメイトに関してはまだいいのだが、チームの名前に関しては特に思いつかないというのが現状だった。


 チームの名前、チームの特色。考えてもいいセンスの内容が思い浮かばないため、周介はそこから考えるのをやめていた。


 こういうのはセンスのある人間に意見を聞くのが一番だ。少なくともそういったセンスが自分にあるとは思えない周介としてはしっくりくる名前が思いつくまでこの話題は保留になりそうだった。


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