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アロットロールゲイン  作者: 池金啓太
三話「外れた者の生きる道」
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「ここが入り口ね。開け方はこう。これで大体説明したかな」


 鬼怒川の説明によって、この粋雲高校の中にある拠点への入り口を大まか説明された周介たちは、自分たちのいる場所、自分たちがこれから行く場所の中でどこが一番使いやすいかということを考え始めていた。


 実際、この中ですべての入り口を使うということはありえない。使うのはあくまで一部、使いやすい場所を選んでよく使うということくらいだ。


 その中で、その場所と開け方を覚えておくだけでもだいぶ違う。


「この中って、寮の下にあったのと同じような感じなんですよね?」


「そうだよ、出てくる場所が違うだけ。多分この間みたいに車が近くに配置されてるんじゃないかな?」


「車?なんで?」


 周介の事情をまだ知らない福島と十文字は首をかしげていた。白部だけはある程度事情を把握しているのか、別に疑問視していないようだったが。


「あぁそのあたりは直接見たほうが早いか。下行くか?ぶっちゃけ俺が車運転するだけだけど」


「え?百枝って免許持ってんのか?」


「もうすぐ取る。試験は今週末だったかな?実技はもうある程度終えた」


「へぇ、良く取らせてもらえたな。あんまりやりたい手段じゃないって言われるのに」


「俺の場合、持ってないほうが面倒になるんだよ。そのあたりも能力の関係でな。とにかく説明するから下行くぞ。安形はどうする?」


「あたしも行く。ついでに訓練とかしたいし」


「んじゃ俺も。百枝の訓練の様子でも見てやるよ」


「私はいいかな。この辺りを見張ってから帰る。先輩は?」


「んー。どうしよっかな。訓練はサボりたい気分だ。というわけでここに残る!」


 サボりたい気分だからサボるのが許されるというあたり、鬼怒川がどのような立場にいるのか何となくわかってきていた。


 実力は確かなようだし、おそらく信頼も厚いのだろう。だが同時に飽きっぽい性格でもあるようだった。


 先輩として気をを回すことができるのも確かだろうし、良い人物ではあるのだろうがむらがあるように感じられた。


「んじゃとりあえず下に行ってきます。桐谷、周りは大丈夫か?」


「大丈夫。この辺りに人はいない。行ってらっしゃい」


 ここから下に行くのは周介、瞳、手越、福島、十文字の五人だ。残りの桐谷と白部、そして鬼怒川はこの場所に残るようだった。


 入り口部分を開けて中に空洞ができた時点で周介はそこに入っていく。


 高速で落下、そして徐々にスロープになっていき、そして周介はその場所にたどり着く。


 クッションにいつも通り叩きつけられるが、多少は受け身も上手くなり、軽く転がる程度で済んでいた。とはいえまた変な体勢になっているのは変わらないのだが。


「相変わらず着地下手なまま?もうちょっと慣れなよ」


「いきなり慣れられるか。こういうのはコツコツ慣れていかないといけないんだよ」


 周介が転がっているのを見て瞳は呆れた表情をする。だがこういうものにいきなり慣れることはできないのだ。


 少なくとも何度もバウンドして壁に激突していないだけ成長がうかがえると思ってほしい位である。


「っとと、なんだよ百枝、まだそんな格好してんのか」


「やかましい。俺は二カ月前まで一般人だったんだぞ。そんなに簡単にこういうことに慣れられるか」


「はいはい。パンピー自慢はいいからさっさと立って。それともまだ心折れそうなわけ?」


「もう俺の心はボロボロだぜ」


「いいから立つ。あんたがいないとあたしら動けないんだから」


 そう言われて周介はしぶしぶ立ち上がる。確かに周介がいなければあの車を動かすことはできないだろう。


 周介が立ち上がると遅れて福島と十文字もやってくる。二人は慣れた様子でクッションに着地すると同時に即座に立ち上がっていた。


 見事な受け身と体勢の切り替えである。


「っしょっと。それで、車ってどこにあるんだ?」


「ここから出たところ?っていうか運転本当に大丈夫なのか?」


 さも当然のように着地し、さも当然のように話し出す二人を見て、周介は若干羨ましそうに二人を見つめながらため息をつく。


 あんなふうに格好良くできるのは二人が大太刀部隊だからなのだろうかと、自分との違いを明確に見せつけられた気がして複雑な気分だった。


「俺の能力を使って運転するんだよ。ドク曰く俺の専用車両なんだとさ。見た目は普通のハイエースだけどな」


 そう言って扉を開けると、予想通り扉から少し離れた場所に車が数台置いてあった。その中には周介が言っているようなただのハイエースも置いてある。


 ただやはりというかなんというか、周介しか運転できないようになっているようで、大量に回すための部品が用意されていた。


「おぉ、マジで車だよ。これ運転できんのか?」


「俺ならな。普通のエンジンとか燃料とか積んでないから、普通の人間には動かせないけど」


 そう言いながら周介は能力を発動し車に内蔵されている発電機を起動させて電気を発生させ始める。

 車の中に搭載された各種計器が起動していき、車の中に入る。


「エンジンとかなくて動かせるってことは、百枝の能力は念動力とかそういう感じなのか?」


「そういうこと。こういうのを動かすのに特化した能力なんだよ。今度から拠点内の発電も俺がやることになってる」


「マジで?じゃあもう拠点の中薄暗くないのか?」


「この間発電した電気が充電してあるはずだから多分まだ明るいはず。行ってみるか」


 周介が乗り込んだ車に全員が乗り込むと、周介は能力を操って車を走らせていく。車の運転にも慣れたものだった。といっても公道に出た経験は少ないため、経験豊富というわけではないのだが、こうして拠点内での運転に関してはそれなり以上の技術を持っていた。


「おぉ、普通に運転してんじゃん。これなら毎回先輩に担がれなくてもよくなるな。椅子結構フカフカだし」


「本当に毎回なんかあると鬼怒川先輩に担いでもらってたのか?」


「あの人の能力はそういう感じだからね。一度に運べる人数には限りがあったけど、これなら結構な人数を一度に運べるな。いい能力じゃないか」


 周介の能力は高速移動と物資の運搬を容易にする。それはドクからも何度か言われたことだ。瞳の人形を運ぶのだってこの能力があるからこそだ。


 誰かのためになる能力だということはわかるが、やはり能力は格好いいものがよかったなと周介は思ってしまう。


「でもさ、やっぱ能力は強くて格好いいものがいいなって思うよ。この能力は地味すぎてさぁ……あんまり格好良くないし」


「格好いい格好良くないはさておいていい能力だとは思うけどな。それに、あんまり派手過ぎても面倒なだけだぜ?」


 派手な能力というのがいったい誰のそれのことを言っているのかはわからなかったが、派手な能力であればあるほどに隠すのは難しくなる。


 それに比べれば周介の能力は確かに隠すことはそこまで難しくはない。何せ普通の機械だって同じように動くのだ。


 機械をその通りに動かすという能力と誤認させることだってできるのだ。もっともその誤認にどれだけの意味があるのかはわからないが。


「それに、攻撃にしか使えない能力っていうのも嫌なもんだよ?それ以外に役に立てない。それ以外できない。だから、どうしようもない」


「……そういうもんか」


「そういうもんだ。俺ら大太刀の人間からすれば、小太刀のお前らが羨ましく感じる時だってある。無い物ねだりってやつなのかもしれないけどな」


 周介のような、ある程度応用の利く能力ではなく、大太刀部隊である福島や十文字は戦うことにしか使えないような能力なのだろう。


 だからこそそれ以外への能力の使用ができず、戦うことしか許されない。能力を使う時、どうしても誰かを傷つけるためのものへと変貌してしまう。


 戦いしかできないというのは彼らにとっては、戦い以外にも使うことができる能力というのはうらやましいものなのだろう。


「結局のところ、どっちもどっちってこったろ。お前からすれば羨ましくても、こっちはこっちで面倒な制約とかがあるんだ。それを羨んでも仕方がないってこった」


「確かにね。こういうのは役割分担が重要だから。戦う人もいれば、それを補助する人もいるってだけの話だ。どっちが格好いいかっていうのは人によるんじゃね?」


 大太刀部隊に所属している二人からすれば、周介のような能力がうらやましく思う時もある。同時に、戦うことができる能力でよかったと思う時もある。


 それはその時々によって違うのだ。


 できることが違えば役割も違う。周介の能力でできること、他の誰かの能力でできること。それぞれを活かしていくしかないのだ。


 周介が一人だったら、一人ですべてをやらなければいけないのだろう。


 だが周介たちは同じ組織に所属しているのだ。協力して行えばいいだけの話なのだと、周介は考えていた。


 とはいえ、それでも羨ましいという感情が消えないわけではないのだが。


「ってかこの車プレイヤーとかないのかよ?音楽とかかけようぜ」


「そのあたりはドクに言ってくれよ。多分言えばつけてくれると思うけど……結構な値段しそうなきがする……やってくれるかなぁ……?」


 車などに必要な機械などは基本的には専用のメーカーなどに頼まなければいけない。そのため普通にあるプレイヤーなどを持ってくるわけにもいかない。


 とはいえドクに言えばそのあたりは用意してくれそうな気もするが、言ってみなければわからないといったところだろう。


「どうせならテレビとかも見られるようにしようぜ。移動中暇だしさ」


「暇って言ってもほんの少しの時間で着くぞ?もうすぐ到着するし」


「マジでか。そんなもんなのか。いつも無造作に運ばれたからわからんかったけど」


 中学の頃は拠点から迎えに来てくれていた鬼怒川が担いで運んでいたのだろう。乗り心地もよくない状態ではどの程度離れているのかもわからなかったようだが、こうして普通に運ばれているうちはどの程度の距離なのかがわかるのだろう。


 今までどの程度の距離があったのかを正確に把握できたのだろう。興味深そうに周囲の通路の景色を見渡していた。


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― 新着の感想 ―
[一言] 0080 そしてエアコンやラジオらしき音まで聞こえてくる。車に搭載されている発電機を周介が能力を使って起動させたのである。  だが当然地下にいるためか、ラジオはノイズ混じりでほとんどまともに…
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