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アロットロールゲイン  作者: 池金啓太
十九話「世界は動く、まだ見ぬ先へ」

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 周介たちが件の空港に到着したのは、まだ日ももうすぐ顔を出そうかという早朝の時間帯だった。


 普通であればこんな時間に到着する飛行機などはありはしない。そういう事情もあってか、滑走路に悠々と降り立った後に周介たちは航空機からそのまま降りていく。


 以前来たことがある空港のはずなのだが、あいにくと暗すぎて懐かしさを覚えるのは難しかった。


「暗いな……さすがにまだ……ってなんか来た」


 周介たちが辺りを見渡していると格納庫の方から車のような二つのライトを点灯した物体がこちらに向かってくるのに気づく。


「こんな時間になるまで待っててくれたのか……申し訳なさすぎるんだけど」


「まぁこの時間になるって告げてはあったからさ。ここから車で移動するんだよ。どれくらいかかったっけかなぁ」


 どうやらドクも件の研究所の詳しい場所と移動時間は覚えていないのか、今にも吐きそうな表情をしたままで遠くを見ている。


 ようやく地面に降り立つことができたからか、大きく何度も深呼吸しているのが何とも切なかった。


 白部も同じようなもので、口元を押さえながら小刻みに震えている。何とか姿勢を伸ばそうとしているが、どうしても気持ち悪さが残るのか前かがみになってしまっていた。瞳はというとそんな白部の背中をさすっている。


 周介たちの待つ一角に車がやってくる。その車はボックスカーで、それなりに人が入れるようになっているようだった。今回日本からやってきたのは四人であるため、入る分には問題はないだろう。


「お疲れ様です!風見さんと百枝さん、安形さんに白部さんですね!お待ちしていました!」


 中から降りてきたのは流暢な日本語で迎えてくれる人物だった。遠くからだと顔がよくわからなかったが、その声から女性であるとわかる。


 そして近づいてくるとようやく顔がうかがえ、彼女が日本人、あるいはアジア系の人間であるということが分かる。


「どうも、今回はよろしくお願いします。引率の風見です」


 ドクが前に出て手を出すと日本人らしき女性は手を取ってしっかりと握手をして笑顔を振りまく。こんな早朝だというのに元気なことだと思いながら、第一印象を良くするために頑張ってくれているのだろうと好意的に捉えることにした。


「よろしくお願いします。通訳を務めます新垣と申します!短い間ですがよろしくお願いします!」


 新垣ということは日本人で確定だと、周介は日本人の通訳がついてくれたことに少し安堵していた。


 年齢はどれくらいだろうか。三十半ばから四十程度だろうか。暗く明かりが限られるせいで細かく観察することはできなかった。もっとも女性の年齢をそう詳しく知ろうとすることは失礼だと、周介は途中で観察をやめる。


「今回検査対象になっている百枝周介君、そして付き添いの安形瞳君と白部舞君です」


 ドクの紹介とともに周介たちがそれぞれ会釈する。通訳の新垣も今回のメインの周介の顔をしっかりと見てからそれぞれによろしくお願いしますと会釈をしていた。


「それではまずは入国の手続きをするので一度乗ってください。ターミナルまでご案内します。そこで入国手続きをしていただいてから再度移動になります」


 どうやらこの車でそのまま直接というわけにはいかないようだった。


 当然と言えば当然だ。今回は前回のように空港で受け渡しをして終了というわけにもいかない。


 しっかりと手続きをする必要があるのだからここはしたがっておくべきだろうと周介たちは素直に車に乗り込んだ。


「今日の予定としては到着してから少し説明をさせていただくことになると聞いています。具体的には検査の内容を説明して、それに同意書などを書いていただくことになります」


「同意書……やっぱそういうのがあるんですね」


「一応検査とはいえ医学的なものから少しかけ離れる部分もあるので、その辺りは同意していただかないと後でいろいろと問題があるそうです」


「まぁ、もし危ないような内容があったら僕が止めるから。検査内容とその同意書を書くときは同席させてもらうよ。うちの期待のエースだからね」


 エースと言われて周介は心底いやそうな顔をする。そんな大層なものではないと言いたいところだったが、少なくとも守ろうとしてくれているのだから邪険にすることもないだろうと考えたのだ。


「……っていうか白部、大丈夫か?」


 飛行機に続いて車に乗ってすぐに白部はかなり顔色が悪くなっていた。無理もないだろう。短い時間とはいえ普通の旅客機ではありえないような揺れに晒され続けたのだから。


 ドクだからすぐに回復しているが、最近ずっと引きこもっていた白部はかなりつらそうにしていた。


 白部は蒼い顔をしながらも大丈夫と親指を立てて見せるが、まったく説得力がない。周介は瞳の方を見て目で会話する。


「すいません、手続した後に少しお手洗いに行かせてもらってもいいですか?飛行機の中で水飲みすぎちゃって」


 今にも吐きそうな白部に言わせるよりはましだと判断したのだろう。瞳の言葉に通訳の新垣は車の運転をしていた外国人、おそらくは現地の組織の人間、に少し話しかけて大きくうなずきながら笑みを作る。


「構いませんよ。入国手続きにも少し時間がかかりますから。一時間後に出発ということにしましょう。ここから車で少しかかりますのでちょうどいいかもしれません」


 まだここから少しかかるのかと、白部は嫌そうな顔をしていたが自分でついて来たいといった手前文句を言うわけにもいかない。


 転移などで瞬間的に移動ができればいいのだが、そういうわけにもいかなそうだった。






「ふぅ……はぁ……」


「……大丈夫かよ白部……」


 入国手続きを終え、周介たちは車で既に移動を始めている。白部も少し休憩して体調は良くなった方なのだが、まだしきりに深呼吸している。


 言葉を話すことも億劫なのか、大丈夫かと聞かれるたびに親指を立てている。だが傍目から見ても到底大丈夫とは思えなかった。


 その原因の一つが窓の外の風景を見ることができないというところにある。秘密保持のためか、車の窓を開けることはできず、窓も光をカットする素材だからか真っ暗で外の風景を見ることはできなかった。


 飛行機の中とはまた違った揺れが断続的に不規則に続くために、白部にとってはなかなか辛い時間となる。


 一体どれだけ移動しただろうか。白部の顔色がもはや限界に近づいていることがありありとわかる中、車はようやく停止する。それが信号待ちなどの停車ではないということは、運転手が即座に降り、周介たちの乗っている後部座席のドアを開けたことでわかった。


 白部はようやく外の空気が吸えるといの一番に外に出て大きく深呼吸をしていた。


 ドクもそれに続き二人で並んで深呼吸をし始める。


 何とか嘔吐することは避けられたかと、周介が安堵して外に出ると、周りには木々が生い茂る山、あるいは森の中であると思われた。


 日はもう出ているようで、空は青く時折白い雲が覗くが、それと同じかそれ以上の緑が周介たちを迎えている。


 一瞬遭難したのではないかと思えるような光景だ。ドイツの一体どのあたりだと説明されても恐らく理解はできないが、この場所が街中などではないということは地理に詳しくない周介にも理解できる。


 車でどれくらい移動したのかもわからない。いや、そもそも車での移動が物理的なものだけだったという保証もない。外の風景を完全に封じた状態での移動だったために周介たち日本の拠点のように、異空間を経由していた可能性もある。そうなれば物理的な距離など無意味に等しい。本当にこの場所がどこなのかわからなかった。


「大変お疲れ様でした。こちらが今回の目的地です……が……えっと大丈夫ですかね?」


「少しだけ深呼吸させてやってください。ここまで移動しっぱなしだったので、たぶん結構きつかったと思います」


 ドクと白部が並んで深呼吸しているさまを見て、新垣は苦笑してしまっている。特殊な飛行機とほぼ連続して車での移動があったのだ。無理もないと苦笑してしまっている。


 周介は運転してきてくれた組織の人間と思われる外国人に礼を言いながら、車に積んであった荷物を降ろしていく。


 二人の体調が少しでも良くなったら、すぐに研究所の中に入っていろいろと説明を受けなければならない。

 今までの密室空間と違い、この場所は非常に空気がいい。ここが本当に外国であるということを忘れるほど自然に満ちている。


 もっとも周介は外国の匂いなどまったくわからないので比較することもできないのだが。


 そんな風に準備していると、研究所から一人手を挙げながらこちらにやってくる人物がいる。


 金髪を持った細身の白人の中年男性だ。いかにも研究者らしい白衣を身につけている。


 何かしら言葉を発しているが、残念ながら周介はその言葉の意味を理解することはできなかった。


 とはいえ笑顔であることと、笑みを浮かべているところから少なくとも敵対的なものではなく、友好的なものであるということは何となく理解できた。


 そして通訳の新垣が即座に対応し、それぞれの紹介を軽くしているのか、時折周介たちの名前が出てくる。

 そして周介の前に立つとその手を取って握手をしてまくしたてるように早口で何かを言ってくる。当然ながら周介は何を言っているかわからないため、周介とその男性の間に入るようにして新垣が通訳を始める。


「初めまして百枝周介君。私はここで研究をしているカール・フィッシャーです。今日は日本からきてくれて本当にありがとう。君にはいろいろと協力してもらうことになると思う。どうかよろしくお願いします」


 ニュアンス的にそう言っているのか本当にそう言っているのかはさておき、周介にはこの通訳を信じるほかない。


「初めまして、百枝周介です。いろいろと俺自身わからないことが多いので、ご迷惑をおかけするかもしれませんが、よろしくお願いします」


 周介の言葉を同じように通訳する新垣の言葉を聞いて、カールと名乗った研究者は笑いながら何度も頷いて周介の肩を軽く叩く。


 不安を取り除こうとしているのか、終始笑顔で、なおかつ明るい声を出しているのが周介にもわかる。


「あぁごめんごめん、お待たせ」


 そんな事をしていると深呼吸を終えたドクが白部と一緒にやってくる。ここからは本人よりは引率で来てくれたドクに任せるべきだろうと、周介は一歩引くことにした。


 それを察してかカールもこちらにやってきたドクに先ほどと同じように何かを話しながら握手をする。

 新垣がさっそく通訳する中、周介は少し圧倒されていた。


「あれ、何語?英語じゃないよな?」


「たぶんドイツ語。新垣さんがいないと言葉わからないわね」


「通訳ソフトでよければ……即座にやるけど……うぅ……」


「お前はもう少し休んでろって。この後はいろいろと説明があるだろうから、専門用語ばっかりだろうし」


 白部が参加しようとしているが、彼女はまだ体調を万全にできているとはいいがたいようだった。


 とはいえこの後は説明などがある。白部としても気になる内容であるからか一生懸命参加しようとしていた。


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― 新着の感想 ―
[気になる点] ドイツ側は白部の能力のことは語存知なんでしょうか? いくら能力者つながりとは言え、他国の組員への警戒心は少なくともあるんではないんでしょうか?
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