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周介たちを乗せた航空機は出発の時間となり離陸していた。最初の加速こそは通常の飛行機と同じようなものだったが、安全な高度を保った時点でさらに加速を始め、一気に超音速へと至る。
機内に通常の旅客機ではありえない異音と振動が断続的に続く中、周介たちが座る座席にもその振動は響いていた。
超音速で飛行すると機体強度との兼ね合いでこのような振動が起きることは知っていたが、ここまで響くとは思っていなかった。
普段クマ型飛行装備での飛行になれている周介と瞳は特に気にした様子はなかったが、こういう飛行になれていないドクと白部は少しだけ気分を悪くしているようだった。
「うぅ……こういう乗り物は苦手」
「大丈夫か?ほれ、エチケット袋」
「…………ありがと……」
いつでも吐いていいぞという意図で渡された袋に対してどのように反応するか一瞬迷った白部だったが、気分が悪くなっているのは間違いない。いつ吐いてもおかしくない体調であるためにこればかりは礼を言っておくべきだろうと素直に袋を受け取っていた。
同年代とはいえ女性に対してデリカシーのない行動だと思ってしまうが、これが周介らしさだと白部もわかっている。
「周介君達は平気そうだね……なんでかな……」
「普段からして跳んだり跳ねたりしてますから。この程度で酔うような軟な三半規管してませんよ」
「これより揺れる飛行機……っていうかぬいぐるみの中で長い事いたこともあるので。全然余裕です」
周介も瞳ももっと荒れる空の上で行動したことだってあるのだ。それに比べればこの飛行機は座席も用意してある分まだまだ楽勝である。
本当であれば暇つぶしの道具の一つでも欲しいところだが、言音が同行していない今では自分たちの自前の携帯くらいしか暇つぶしはできそうになかった。
「そう言えばドク、現地に向かってからの予定を教えてもらってもいいですか?」
「うっぷ……うん……よし。話していれば落ち着くかもしれないしね……今日は空港に迎えが来てるよ。彼らの車に乗って移動して……その移動も結構かかるから、今日は移動だけで終わっちゃうかな?現地に到着するのは夜……というか向こうでは一日の始まりなんだけどね」
周介たちが日本を出発したのは午前九時だ。そこから八時間の誤差に加えて移動時間も含め、現地に到着するのが現地時間でおよそ早朝から同じく午前九時くらいになると予想される。
九時に出発したのに九時に到着するというなかなか混乱するような事態だが、それもまた仕方がないことでもある。
むしろ空港についてからあとの移動を含めて九時に到着できているだけましというものだ。通常の旅客機であればさらに時間が経過するところだろう。
「朝の九時ってことはむしろそこから本格的に検査をしなきゃって感じになりそうですね。別に俺は構いませんよ?」
「そう言ってくれると助かるよ。件の研究所に君たちの部屋を用意してもらっているから、そこにそれぞれ荷物を置いて本格的な検査を開始することになるかな。あぁ、念のために言っておくと、通訳さんは空港で合流。通訳さんも組織の人間だから安心していいよ」
能力関係の話も問題なくできるという意味ではありがたい話だが、通訳が必要だということで改めてこれから行くのが外国なのだという実感がわいてくる。
何度も何度も空を飛んで、数える程度ではあるが国外の行動を行っているせいか国外で活動をするという印象があまりない。
「やっぱり向こうの研究所の人は日本語話せませんよね?」
「そりゃそうさ。日本語で話せるのなんて……おはようとか、こんにちはくらいじゃないのかな?」
「そりゃそうか……通訳さんにお願いするしかないな」
日本語は世界的に見ても難易度の高い言語だ。周介からすれば英語の方がずっと分かりにくいように思えてしまうが、その辺りは日本人であるが故だろう。
少なくとも瞳は何となくニュアンスで話をすることはできるようだし、通訳の真似事はできるがそれでも本職の人間にはかなわない。
ここは大人しく通訳の人間の技量を信じるほかない。
「検査をするうえで、気を付けることというか、覚悟しておくべきことってあります?」
「あー……たぶんだけど全裸にはさせられるかな」
全裸という言葉に瞳が僅かに反応するが、周介はそれよりも大きく嫌そうな顔と声を出す。
「マジっすか。頭と目を見るだけじゃないんですか?」
「それだけじゃすまないだろうね。表面的に見えているのが目と視神経と脳の一部ってだけで、他の部分に変異がないとも限らない。全身くまなく確認するためにひん剥かれることは覚悟しておいたほうがいいかもしれない」
「……マジっすか……やばいな、ムダ毛とか処理しておくべきだったかな……」
「もしかしたら剃られるかもしれないね。その時は……まぁ、頑張って」
「他人事だと思って……やばい、結構覚悟しなきゃだな」
ムダ毛という言葉に瞳が再び反応しているが、本人からすればたまったものではない。
こんなところでまさかムダ毛の処理をさせられることになるとは思っていなかったために周介は別の意味で覚悟を決めようとしていた。
とはいえ、覚悟を持ったとしても失うのはムダ毛だけなのだが。




