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アロットロールゲイン  作者: 池金啓太
一話「蒼い光を宿すもの」
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 月明りは人の営みのもとに平等に降り注ぐ。燦然と輝く高層ビルの群れの中にも、田畑広がる広大な土地にも、そして人々が暮らす住宅街にも。


 机に向かう彼のもとにも、当然その光は注がれていた。


 窓から注ぐ蒼い光を見て、彼は自分の部屋の中にある時計を見る。時計の針は二十三時を示していた。


 さすがにそろそろやめておかないと明日に響くだろうか。そんなことを考えて彼は伸びをする。体が軽快な悲鳴を上げ、その音が部屋に響くたびに少年は唸りを上げていた。


 今日は二月の中頃。彼は高校受験を明日に控え、最後の勉強を行っているところだった。


 机の上には受験票と、彼の身分証明となる中学校の学生証が置かれている。


 そこには百枝周介(ももえしゅうすけ)という名前が記載されている。


 平均よりやや低い上背に、細い体、部屋の中には漫画やゲームなどが存在しているが、それらのほとんどにはガムテープのようなもので封がされている。


 全て受験を終えるまで、彼自身が手を付けまいと封印したものだった。


 携帯の通知を覗くと、同じように明日、別の高校などで試験を受ける友人たちが互いに励ましあったり冗談を言い合ったりしている。


 当然周介もそれに混ざる。こんな時間まで話をしている時点で、彼らが全員明日の試験に望みを託しているということがよくわかる。


 もっとも、その中でどれくらいの人間が勉強をしていたのかは知る由もない。もしかしたら足掻いても無駄であると割り切ってもう遊び惚けていた可能性だってあるわけだが。


 つぶやきの中では、それぞれが何時に起きるのか、どこに行くのかという話題が持ち上がっていた。

 周介は明日五時には起きて身支度を整え、六時に家を出発する予定だった。


 それでもかなり早い。余裕を持っているというべきだろう。そのために目覚まし時計もしっかりとセットしてある。


 中学時代、この時計のアラームによって一度たりとも遅刻をしたことがない周介は、この時計に絶対の信頼を抱いていた。


 そんな話をしていると、つぶやきの中では明日出そうな問題の内容へと話題が変わっていた。


 国語、数学、理科、社会、英語といった基本的な五つの教科の中で、ちょうど夜ということからだろうか、ある話題が持ち上がる。


『月の色が蒼になった年代はいつであるか?』


 これは、一般教科の社会科に属する「現代社会」において登場する問題である。


 現在もなお空で輝いている月は、かつて蒼ではなく、白、あるいは黄色で輝いていたのだという話である。


 もっとも、周介たちは蒼い月しか知らないために、はっきり言って童話や物語の中だけの世界の話のようである。


 月が蒼くなったのは、西暦千九百二十一年。日本の年号に直して、まだ昭和にもなっていない時代の話だ。


 当然、映像機器なども発展しておらず、あったとしても白黒だけで作り出されたものがあるばかり。


 だが世界全体で、この年に月の色が変化したというのが共通の認識となっている。


 当然、戦争などを取り上げる現代史の中で唯一自然現象でありながら世界的に取り上げられやすい内容となっている。


 もちろん、受験生である周介たちもその知識は身に付けている。そしてもし出されたらそれはサービス問題にしかならないような問題だ。


 ここは簡単すぎて出ないだろうという予想や、逆に出そうじゃないかというつぶやきが加速していく中、つぶやきの一つに問題とは関係のない話題が上がる。


 それは『超能力者』の噂である。


 テレビなどでは放送されていないが、SNSなどでは度々宙を浮く何かなどが撮影されたり、話題になることがある。


 その内容はいくつかあるが、その中でも話題としてあるのが『蒼い眼をした超能力者』というものである。


 実はこの話題はとある作品が元になっていて、それを理由にして多くのファンが盛り上がっているのである。


 過去、金髪碧眼の少女が月の使者として悪人を倒していくという勧善懲悪ものの少女向けアニメがあった。


 それに倣っているのかどうかは不明だが『タキシードを着てバラをまき散らしながら高笑いしている人がいた』とか『妙にカラフルなセーラー服を着ている集団がいた』とかかなり胡散臭いコスプレ内容が撮影されることも多い。


 テレビなどがそういったことを特集しないため、多くの者は現代における七不思議のひとつのようなものとしてとらえている。


 そして、もしそんな問題が出たら何と答えようかと、同級生たちは別の話題で盛り上がり始めていた。


 有名なセリフを書くか、あるいはそのキャラクターの名前を書くか作品名を書くか、あるいは名場面などを書くか。どちらにせよ、もはや受験の内容とは明らかにかけ離れたものになりつつあった。


 周介はこれ以上話に付き合うのは本当に明日に差し支えるなと考え、時計のアラームをつけていることを確認してから瞼を閉じる


 明日は五時に起きなければならない。そう強く念じながら。


 その時、周介の瞼の下に変化が起きていたことを、誰も知らなかった。周介本人でさえも。


今作アロットロールゲイン、今日から開始いたします。


これからもお楽しみいただければ幸いです

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― 新着の感想 ―
[一言] ラウンドシフトが最後まで読んで面白かったので来ました とりあえず評価もさせていただきました
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