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6 失念? 失意  失ったモノ

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名前:エイナ・アルテス

種族:人間 性別:女

LV:15

HP:195/249 MP:30/124

攻撃:76 防御:46 魔力:64 敏捷:73


スキル

毒無効 痛覚無効 麻痺耐性(4) 鑑定(4)

剣術(5) 体術(3) 火魔法(2) 毒魔法(10) 回復魔法(2)


スキルポイント:100

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 夕飯を終え、自室に戻ってステータスを確認する。今日知り合った少年エルに付き合って経験値稼ぎをしていたら、自分のレベルも1つ上がったからだ。

 それを見て思うのは……うん、わたしって純粋な攻撃特化型だ。

 なんなんだこの紙装甲は!? 攻撃や敏捷に比べて防御が殆ど伸びない。固定砲台というより一撃離脱。

 同じスキルを繰り返し使えば、スキルポイントを使わなくてもスキルレベルは上がるが、それを期待できるのは実戦で使う戦闘系のスキルだけだ。《鑑定》のような戦闘であまり使わないスキルは……って!

 そうだよ! 今日は129階に《鑑定》を使ってみるつもりでいたのにすっかり忘れていた。……どうする。今から129階に行ってくるか?

「……よし」

 明日になったらまた忘れてしまいそうだ。わたしは、すぐにベッドから立ち上がった。まずはイオに一言断ってからだ。


     ●


 イオの部屋の前。扉をノックすると、イオが顔だけひょこっと出してきた。

「お姉ちゃん、どうしたの?」

「あー……今からちょっと129階へ行ってくる」

 固まるイオ。

 しばらくして。

「ちょ、ちょっと待って。こんな時間に何しに行くのさ」

 いつもの半眼……わたしを(いさ)めるというより、それを通り越して呆れている様子がはっきりと伝わってくる。

「129階で試したかったことがあったんだけど、それをすっかり忘れててさ。すぐ終わるから、思い出して忘れないうちにちゃちゃっと──」

「分かった。わたしも行くから、ちょっと待ってて」

 イオはわたしの言葉を遮るように重ねてきた。

「すぐ終わるから別に……いや。じゃあ、頼む。悪いな」

「ん、すぐに準備するね」

 イオは扉の奥へ戻った。

 RPGでもそうだ。マップが切り替わったその瞬間に敵と遭遇することがある。イオがついてきてくれるというのなら、そのほうがわたし1人より安全だ。わたしもイオも今日1日でだいぶ消耗してはいるが、後1回くらいなら、なんとか戦えるだろう。

 わたしは、イオの準備が調うのを待つことにした。


     ●


 128階の拠点。当然といえば当然だが、店に人の影は無い。皆、それぞれ自分の家へ帰っているのだろう。そして。

「……イオに来てもらって正解だったな」

「でしょ?」

 イオは得意げに答える。

 塔の内部とはいえ、屋外の明るさと連動して──住人が昼夜を認識できるように──照明が自動調整されているので、通路部分は暗い。真夜中の漆黒と言ってもいい。イオが照明魔法を使ってくれてはいるが、人気(ひとけ)の無い商店街風の場所を1人で歩いていたら、思わず背筋が冷えてしまいそうだ。……そして、つい、この暗闇の中で、目の前でいきなり床が()()れていたら、という想像をしてしまう。わたしが、和也からエイナになった時のように。

 だが、幸いにも……まあ、当然なのだろうが、イオと2人で階段を昇り、わたしは無事に129階の床を踏みしめることができた。

「できるだけここから動かないようにね、お姉ちゃん」

「ああ、分かってるよ」

 照明魔法で照らしている範囲しか、今は見えない。陰から襲いかかられでもしたら、ひとたまりもない。

「……で、試したいことって?」

「ああ。これを見てくれ」

 そう言って、わたしはフロアを対象として《鑑定》を使った。


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マップ名:女神の塔

現在地:-128F 通路

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 目の前に浮かび上がるウィンドウ。今はそれをわたし以外にも見えるように設定しているから、イオにも問題無く見えているはずだ。

 心ここにあらずといった様子で、呆然とウィンドウを見詰めるイオ。わたしはわたしで、当たってほしくない予想が当たってしまって、平常心を保てていたかどうか。

「……──」

 とりあえず帰ろうか。そう言おうと口を開きかけたところで、背筋に急に悪寒が走る。目の前で棒立ちになっているイオの手を力任せに引っ張り、

「え? お姉──」

 ひゅっ。

 目の前を何かが横切った気がした。しかし、それが何なのか、確かめる余裕はわたしには無かった。1歩引いた足、その先に地面が無かったのだ。

 自分も後ろへ倒れながら、わたしはほぼ反射的に、イオの体を胸へ抱え込むように引き寄せた。

 背後は階段だ。ステータスで見るなら、わたしよりイオのほうが防御は高い。だが、だからといって姉であるわたしが妹を盾にはしたくない。こんな考え方は魔物と戦う上では非効率に過ぎるのだろう。そ──

 ゴッ!


     ●


 階段を転げ落ちた時に頭を打ったらしい。拠点に設置されている最低限の非常用照明が、床に広がる赤い染みをぼんやりと照らし出す。血が出るほど頭を強く打ったのなら、そりゃあ気絶もす……いや、待て。なんだこの血だまりは!? 頭を打った時に血が滲んだなんて量じゃない!

 照明魔法が切れているということは、イオも気を失っているのだろう。わたしは照明用の魔道具を取り出し、恐る恐る、点灯させた。

「イオ……!?」

「……お、姉……ちゃ……」


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名前:イオ・アルテス

HP:12/191 MP:67/189

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 右腕が無い。いや、何かに切り落とされたのか。断面からは噴水のように赤い液体が噴き出して……って、イオのHPが物凄い勢いで減っている!?

 ……当然だ。というか、わたしが気絶してから今まで、どれくらいの時間が()ったのかは分からないが、《前》の常識で考えれば、イオがまだ生きていることのほうがおかしいのだ。

「……! そ、そうだ、回復魔法!」

 失った腕を元どおりにはできなくとも、せめて出血を止──


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名前:イオ・アルテス

HP:0/191 MP:67/189

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 ことっ。

 残っていたイオの左手が、床に落ちる音が響いた。

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