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3 経験? 計画! 人生設計は慎重に

================================

名前:エイナ・アルテス

種族:人間 性別:女

LV:13

HP:240/240 MP:117/117

攻撃:68 防御:43 魔力:58 敏捷:64


スキル

毒無効 痛覚無効 麻痺耐性(4) 鑑定(4)

剣術(3) 体術(2) 火魔法(2) 毒魔法(8)


スキルポイント:100

================================


 気がついたらレベルが上がっていた。ゲームにおける《経験値》のようなモノが、昨日の時点でレベルアップ直前まで溜まっていたのだろう。スキルポイントがどんなものなのかも気にな──

「お姉ちゃん、ポイント割り振りは安全な所でやろうよ」

 半眼のイオに(たしな)められて、わたしは我に返った。一瞬、イオに思考を読まれたかとびびったが、なんのことはない、自分のステータスウィンドウ……他人から見れば何も無い虚空をじっと見詰めていれば、そりゃあバレバレだ。

「そ、そうだな、悪い」

「それと、いくら《痛覚無効》を持っているからって、無茶はしないこと」

 その言葉が何を意味するのか、わたしはすぐには分からなかった。そんな戸惑っている様子を察してか、イオはわたしの袖を指さす。

 左の上腕部、鎧の装甲が無く服の布地が見えている部分が、さっきの蜘蛛に噛みつかれた跡以外にも、大きく裂けていた。たぶん、最初にあの蜘蛛が天井から降ってきた時のものだろう。

 わたしはただのかすり傷だと思っていたが、最大HPの1割もダメージを受け、その後もHPの減少が止まらなかった……出血が続いていたであろうことを考えると、たぶん、かなり大きな切り傷だったに違いない。

「ああ……ごめん」

 そう言って頭を下げると、イオはまた笑ってくれた。どうしよう、この子ほんとにかわいい。……って、18歳って言ってたから、《前の俺》よりは年上なんだよな。

 意味も無く頭を振るわたしを、イオはきょとんとした目で見ていた。


     ●


 適度に拠点に戻りつつ、どうにか今日の分の《稼ぎ》を得て、自宅へ戻ってくることができた。

 塔の外周部に面した区画は転落防止のために入居禁止だから、《前》みたいに自室で屋外の様子を……暗くなってきたから夕方だと、知るすべは無い。

 代わりに、と言ってもいいのか、塔の内部では無限に供給される魔力の流れが存在しているようで、それを用いた照明器具が各部屋に備え付けられている。

 塔の内部は《通路》と《部屋》に区画が分かれていて、通路の照明は屋外の明るさと連動しているようだ。だから、外が暗くなれば通路も暗くなって、住人は《夜になった》ことを認識できる。

 無限の魔力や屋外との連動、そういう動作原理や動力源が不明なモノというのはなんとも不安ではあるが、それを言うなら、《前》の生活にしたって、コンピュータ、GPS、インターネット……それらの原理を全て知っている一般人がどれほど居ただろうか。

「お姉ちゃん、先にお風呂入っちゃってよ」

「うぇ!?」

 思わず変な声が出てしまった。

「どしたの?」

「い……いや、なんでもない。それじゃあ、先に入るからな」

 応えてから、わたしはできるだけ平静を装って脱衣所へ向かった。


     ●


 用を足すだけでも無駄に疲れていたというのに、入浴だなんて、今のわたしにはハードルが高すぎる。かといって、今日1日魔物と戦ってきたから、汗を流さないまま寝るのは気持ち悪い。

 ……よし。できるだけ、自分の体を見ないようにしつつ服を脱ごう。その後は、湯に肩まで漬かれば、水面にさえ目を向けなければ、《見たくないモノ》を殆ど視界に入れずに済む。うん、我ながら素晴らしい考えだ。

 自分が(エイナ)になったことを認めたくない訳じゃない。《前の俺》の記憶、感覚が残っているせいで、自分(じょせい)の体を見ることに罪悪感を感じてしまうからだ。うん、きっとそうだ。

「あー……」

 湯に漬かりつつ、気を紛らわすためにも、ぼけーっと今朝からのことを思い返す。

 気がついたら全然知らない世界で女になっていた。赤の他人に精神だけ憑依した、と考えるより、イオが言っていたように、《エイナとして誕生してから今までの記憶》だけが抜けていると考えたほうが、まだ自然な気はする。

 じゃあ、なんで和也からエイナに生まれ変わったのか、という謎は残るが……例えば、女神の気まぐれ、とか? この塔を作ったのも、イオの言葉を信じるなら女神だそうだし、1人の人間を生まれ変わらせるぐらいの気まぐれを起こしてもなんら不思議は……って。

 わたしは何を馬鹿なことを考えているんだ。《女神の気まぐれ》だなんて、《運命のいたずら》とほぼ同義じゃないか。なぜこの星は、その星の上で人々は生きて生活しているのか。それと同じレベルの、《答えの出ない疑問》だ。

 ……何か、大事なことを忘れている気はする。そんな気はするが、だからといって現状、それを自問しても、当然答えが出るはずもない。

 風呂を上がったら、イオにポイントの割り振りについて聞こう。


     ●


「それじゃあ、この紙にステータスを出すように念じてみて」

 イオに言われて、ステータスを出す時に頭の中だけで念じていたものを、紙に意識を向ける。すると……

「おおー……!」

 わたしは思わず声を出していた。ウィンドウに表示されるだけだったステータスの内容が、イオが机の上に出した白紙に書き出されていたのだ。内容は、あたりまえだが今朝イオに窘められた時と全く同じだ。

 イオの説明によると、スキルポイントの使い道は次の2つ。

 1つは、新たなスキルを獲得するか、既に持っているスキルのレベルを上げる。それらに必要なポイントは、スキルによって異なる。

 もう1つは、こちらはポイント消費は10固定で、消費するごとに能力値を上げる。上昇量は、HPとMPは5ずつ、それ以外は1ずつ。

 ほんの一瞬感じた違和感。

 ステータスなんてものが存在し、自身の強化を筋トレや勉強によらず……もちろん、そういうことも行うのかもしれないが、それよりもステータスに支配されているように見える。実際、今日のわたしも《痛覚無効》や《毒無効》がなければ危なかった。

「……? どうしたの?」

 紙に目を落としていたイオが、やや上目遣いでわたしに聞いてくる。

「いや……別に」

 とっさにわたしはそう答え、感じていた違和感を胸の奥へ押し込むことにした。

 ここで生まれ、ここで育ったイオにしてみれば、あるいは記憶を失う前のわたしにしてみれば、ステータスが存在することが《あたりまえ》なのだ。ポイントを消費せず、筋トレ……肉体を酷使すれば筋肉が強くなることのほうが異常に見えるのかもしれない。

 わたしは、取得したいスキルについての希望を口にした。

「スキルを取れるなら、回復魔法を使えるようにしたいな。今朝みたいなことがあった時に、毎回おま……」

 そういや、以前のわたしは(イオ)のことをどう呼んでいたんだ?

「……お姉ちゃん?」

「あー、いや。記憶を失う前のわたしって、イオ……のことを何て呼んでたのかなー、って」

「なんだ、そんなことか。わたしは気にしないから、呼びやすいように呼んでよ」

 イオ、なんて良い子!

 軽く感動した後、わたしは言葉を続けた。

「ありがとう。……今朝みたいなことがあった時に、毎回おまえの力を借りなくても済むだろ?」

 イオのほうが《前の俺》よりは年上のはずだ。だが、わたしの口からは自然と《おまえ》という呼び方が飛び出してきた。

 イオは言う。

「じゃあ、それを念じながら《ウィンドウ》を見てみて」

 その言葉に従い、わたしは顔を上げる。


================================

スキル《回復魔法(1)》の取得には、スキルポイントが200必要です。

================================


 おい! 足りないじゃないか!

「どうだった?」

「……200必要って」

 思わず、わたしは机に手をついてorzしてしまった。

「ありゃー、それは残念。それじゃあ、今回はポイントを使わずにとっておいて、次のレベルアップで回復魔法を取る?」

 イオの言うとおりにするなら、最短で回復魔法を使えるようになる。だが、《前の俺》のゲーム知識では、能力値が物を言うシステムと、スキルが物を言うシステムがある。

「……なあ、イオ。スキルと能力値って、どっちが大事なんだ?」

「へ?」

「例えば、スキルポイントを攻撃力に全振りしても、《物理攻撃無効》なんてスキルを相手が持ってたら詰む……あーっと、ダメージを与えられないだろ?」

 要するに、レベルを上げて物理で殴れるのか否か、だ。できるのなら、スキルポイントは基本的に能力値に使って、状況に応じてスキルを取ればいい。できないのなら、ゲームと違ってやり直しのきかない人生だから、慎重にスキルを吟味しなくてはならない。

「え、えっと……ごめんね、お姉ちゃん。わたしも、どんなスキルがあるのかはよく分からないんだ」

 答えるイオは、本当に申し訳なさそうだった。

 というか、当然だ。ステータスの存在する世界でのスキルの重要性……《前》の常識にあてはめて考えるなら、《生きていく上で見聞を広めることの重要性》といったところか。そんなもの、20歳にすら届いていない若造が……もちろん、《俺》も含めて、知っていたら逆に怖い。

「いや、いい。聞いたわたしも悪かった。むしろ、わたしが教えなきゃいけない立場なのにな」

 ……ん? 《教えなきゃいけない立場》なんて、なんでそんな言葉が自然と口から出てくるんだ? 以前のわたしならともかく、今は、中身は16歳の高校生なのに。

 記憶は無くしていても、姉としての自覚みたいな、そういう無意識的な何かは残っている、ということだろうか。

 まあ、いいか。

 この後、わたしはイオと相談して、スキルポイントは次回のレベルアップまで温存しておくことにした。

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