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入水

掲載日:2018/10/10


 告白の言葉は、謂わば麻薬のようなものだ。

 人を最も喜ばせ、尚最も狂わせる。


 冷たい月の色を正面に、私は思った。

 ふわりと宙に浮いた身体が風を受ける。


 例え好きじゃない相手だろうと、そんなことはどうでも良かった。

 どうせ、誰も好きになんかならないのだ。

 上っ面だけの関係に、慣れ過ぎていた。


 だから、誰に交際を申し込まれた時も、二つ返事でいいよと言った。

 好きだとは言わなかった。

 無論誰にも話さなかった。


 元来付き合いの悪い私のこと、相手はすぐに焦れた。

 勝手に悩んでは、喚き散らしたり泣き叫んだり、急に甘え声を出してきたりした。

 面倒だと思った。


 それでも、自分を愛してくれるその繋がりを、断ちたくはなかった。

 私自身を愛してほしかった。

 骨の髄まで吮め尽くして欲しかった。


 呆れるほどに不器用な周りを、ただ眺めては手を差し伸べた。

 安易に縋り付いてくる彼らを、いとおしいとさえ思った。

 そんな自分を、好いてもいた。


 自分に依存する人間が増えれば増えるほど、生きていられた。

 病的なまでに、依存を欲した。


 弱い人間を好いていながら、自分が最も弱いことには気付かないふりをした。


 恋人は何人もいた。

 それでも、満たされることはなかった。

 重くのしかかる彼らも、私の中に巣食う憂鬱よりは遥かに軽かった。


 求められれば身体を重ね、涙を見せられれば静かに抱き寄せた。

 条件反射のように動く身体を、他人事のように眺めるのが常だった。


 愛したかった。

 愛されたかった。

 都合のいい人間になりたかったわけじゃない。


 ただ、気付いて欲しかっただけだ。

 生きていていいのだと、証明が欲しかっただけ。


 真っ直ぐに愛を求めることさえ出来なかった私を、あなたは憐れむだろうか。


 それでいい。

 そうして、他人事と嘲笑うがいい。




 背中に受けた強い衝撃と、冷たい水飛沫。

 大量のあぶくの中、無機質な光が少し和らいで見える。

 何も感じないまま、勢い良く吸い込んだ水だけが、私が確かに生きていたのだと思い知らせた。




 明日は我が身だ、なんて言うが、そんなことはない。

 誰も生きている人間は、とうに手遅れなのだから。



 正真正銘、ひとりきり。

 それでも、私の頬は緩んでいた。


 水に沈みながら、生まれて初めて「満たされた」、と——私は静かに目を閉じた。

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― 新着の感想 ―
[一言] お疲れ様です! ゆうさんの書く文章には、なにか、読者に登場人物の感情を伝染させる魔力がある様な気がします。そして、今回の話ではその魔力が最高に発揮されていて、読後にも彼女の魂がまとわりつく…
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