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■ 篠山1・西 ■

 ついに、この日が来てしまった。必要最低限の荷物を詰め込んだキャリーバッグをゴロゴロと引き摺りながら、西島麻衣子は篠山駅のホームに降り立った。ここからローカル線に乗り三十分ほど離れた唯町ゆいまちという田舎町で生まれ、二十五年間育ってきた彼女にとって、今日この日の旅立ちはとても強大な人生の転機のように思えた。新天地の福島までは特急で一時間強かけて東京まで行き、さらに新幹線で一時間半掛かるという物理的な距離も相まって、故郷を離れる切なさは並々ならぬものであった。何より彼女には、やり残したことがあった。それは、長年片思いを続けてきた一人の男性に未だ想いを告げられていないということである。小学生時代からのいわゆる幼馴染で、中学、高校も一緒だった彼は、特段格好良い訳でもなく、運動ができる訳でもなく、勉強はそれなりだったように思うが何よりよく気が利いて優しい性格だった。正直な所、恋に落ちたきっかけなんて、そう明確には覚えていない。例えば中学生の時、教室で隣の席になり、休み時間に彼が聞いていた音楽プレイヤーの画面に表示されている曲名が麻衣子の大好きな曲であって思わず声を掛けてみたら話が盛り上がったこと、例えば試験直前に勉強してくる科目を間違えていたことに気付き、茫然自失としていた麻衣子に見兼ねて、試験範囲をルーズリーフ一枚に纏めた紙を貸してくれたおかげで赤点は免れたこと、例えば高校の修学旅行で京都へ行った時に清水寺の境内で迷子になり、当時まだ携帯電話を持っておらず慌てふためいていた麻衣子の傍を、たまたま同じ場所を訪れていてたまたま通りかかった彼が声を掛けてくれたことでなんとか班員と連絡が付いたこと、そんなことの積み重ねで、気付いた時には麻衣子の目は彼を追うようになっていた。高校卒業後、大学からはバラバラになってしまったが家も近所であったため、時々すれ違っては会話する機会もあったのだけれど、たったそれだけのことに満足してしまっていた麻衣子にとって気持ちを伝えるということはどうにもハードルが高過ぎた。もう既に自分の故郷を経ってしまった今、そのことを後悔してもどうすることもできない。この胸の中でズキズキと痛む傷を抱えて、これからは一人福島で生きていかなければならないのだ。

 腕時計に目をやると、東京行きの特急が発車するまではまだ少し時間があるらしく、何かお茶でも買おうかと思い売店を探す。どうやら反対側のホームにあるらしく、KIOSKとアルファベット表記された看板を見つけると、麻衣子は近くの階段を昇って陸橋を渡った。店に着き、ペットボトルが並べられた冷蔵庫の扉を開けると万引き防止の音楽が流れる。五百ミリリットルの一番安い緑茶を選んで手に取りレジに並んだ。

「九十八円になります」

 商品を渡すや否や店員のおばちゃんがそう言うので、麻衣子は財布から百円玉を取り出して渡した。お釣りを受け取ってさっきまでいたホームへ戻ろうと歩いていると、目の前に電車が止まる。開いた扉からゾロゾロと人が降りてくる中、すぐ傍の扉から見覚えのあるスーツ姿の男性が降りてきて、麻衣子は戸惑った。短い髪の毛が数本だけ跳ねていて、それが歩く度にユラユラと揺れている。中学時代から変わらない、ちゃんと寝癖直しなよと何度笑いながら指摘しても直らなかった、麻衣子にとっての彼のトレードマーク。これはもしかすると、恋の神様が麻衣子にくれた最後のチャンスなのかもしれない。そんな絶好の機会を逃すまいと、手に持っていた緑茶のペットボトルに自分の前髪を映してみるが、そんなものにうまく反射するはずもなく、ラベルに書かれたお茶じまんという文字が読めるだけだった。しかし、ドキドキと鼓動を弾ませながら慌てふためいている麻衣子に彼は気付いていないらしい。いつのまにやら彼は十数メートルほど向こうを歩いていて、麻衣子は慌てて彼を追いかける。

「南野くん!」

 声を掛けると、和也は振り向いた。

現在所有しているスマートフォン

南野和也→東 東山朋夏→南 西島麻衣子→西 北本太一→北


※記号の意味は、「※ 前書き ※」を参照ください。

※入れ替わりが発覚するまではネタバレ要素になってしまうため、

 上記は全話に記載している訳ではありません。

※入れ替わりが発覚する度に、あるいは必要に応じて記載していきます。

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